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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    あさふゆ小説。わりと雰囲気。「冷めた目で見ないで」

    ##シャニ

    .

     アパートのセキュリティを抜けて、エレベーターのボタンを押す。専門学校を卒業して始めた一人暮らしも、今はすっかり馴染んでしまった。くるりと、鍵のホルダーを回す。日頃の変装が功を奏しているのか、マスコミに追いかけられることもない。
     ドアを開け、鍵を閉めて一歩。ふと足を止めた。部屋に電気が点いている。無意識に生唾を呑み込んで、鞄の中にあるスマホへとゆっくり手を伸ばした。
    「冬優子ちゃーん?」
     聞き馴染みのある声に、一気に肩の力が抜ける。はあ、とふゆのイメージにあるまじき溜め息を吐いて、靴を乱暴に脱いだ。
    「あんた、どうやって入ったのよ!」
     リビングの扉を自棄になって開けると、お気に入りのソファであさひが寛いでいる。こちらの気持ちも知らずに、当の本人はテレビを見ていたようだ。ひらひらと呑気に手を振るさまが恨めしい。
    「おかえりっす! お腹ぺこぺこっすよー」
     あさひが眉尻を下げて、腹を撫でる。その厚かましさに怒る気も失せた。
    「ふゆはあんたの母親じゃないのよ!」
    「そんなの当たり前じゃないっすか?」
     悪態をついてもあさひは首を傾げるばかり。まだ六時頃だったか、遅い時間じゃないとはいえ家に連絡はしてあるんだろうか。否、前に少し縁あってあさひの家に行ったこともあったが、あれは完全にこの性質を諦めている節があった、と思い出す。まあこれから帰るとかじゃなければ、後で連絡させればいいだろう。
     上着をかけて、横目でじとりとあさひを睨む。
    「変な顔して、どうしたんすか?」
    「誰がそんな顔させてると思ってんのよ。夜ご飯にするから、あんたも手伝いなさい」
     渋々とそう告げると、ぱっとあさひが口角を上げた。
    「やった! お風呂沸かしておくっすか?」
     その言葉に少し目を見開く。
    「何、洗っておいてくれたの?」
    「ふっふっふ、わたしだってそれくらい気がきくんすよ。今日の冬優子ちゃんのスケジュール、プロデューサーさんから聞いてたんで」
     得意げにふふんと笑うあさひの様子が、どことなく犬を彷彿とさせて少し目を逸らした。
    「やればできるじゃない。ご褒美にプリンあるから、デザートにつけてあげる」
    「冬優子ちゃん太っ腹ぁ!」
     余計なことを言うあさひを小突くと、風呂を沸かすためかリビングから出ていった。律儀にあさひがテレビを消していったから、しん、と部屋に静寂が落ちる。これからどこかに出かけるなんてないだろうが、メイクを落とす前に冷蔵庫の中は確認しておくべきか。
    「あれでも食べ盛りなのよねぇ」
     独り言が口をついて出る。高校に入って、あさひは少し背が伸びた。愛衣や自分には及ばないものの、あさひの興味が先走って距離を積められると近さに気圧されてしまうことも多い。
     冷たいキッチンの床を、靴下で擦る。冷蔵庫を開けると、バラ肉のパックがあった。残り半分ほどなのも丁度いい。炒め物にするなら少し辛くしたい。あんまり辛いのが得意じゃないあさひには、チーズオムレツで中和してもらおう。どうにかぼんやりと献立を決めて、パックを取り出して冷蔵庫を閉める。
     その時、ブーッと低いバイブ音が鳴った。一度で鳴り止まない音に、着信だと気付いて慌ててスマホをポケットから引っ張り出す。プロデューサーから何か急ぎの用事だろうかと、着信画面に視線を落とした。
     ばたん。手にしていたパックが、手から滑り落ちる。三コール、四コール、五コール。それでも着信は止まらない。
    「冬優子ちゃーん?」
     その声に、ぎくりと背筋が固まった。背後から呼びかけられた声に、振り向けない。震えた手がスマホを落とさないように、両手で抱くように握りしめる。
    「どうしたんすか?」
     いつも通り響くそれは、確かに着信画面に表示された名前と同じ声をしていた。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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