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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    ウァプドラ小説。習作。「メランコリーを食んだ」

    ##メギド

    .

     長い廊下に、寝言とも酔っ払いの戯言ともつかない声が落ちる。どちらにしろ、その男に肩を貸して半ば引きずるように歩くウァプラには何を言っているのかの判別はつかなかった。どうにか目的の部屋に辿り着き、乱暴にドアを開けてアンドラスを押し込む。
     勝手知ったる、という程ではないが見慣れたアンドラスの私室を睥睨して、寝台にでも放り投げておくのが正解かと重い体を抱え直す。
    「ウァプ、ラ……?」
     久しぶりに耳に届いた意味の通った単語に、つい足を止めた。衝撃で起きたなら丁度いいと、下がった頭を睨みつける。
    「起きたんなら、さっさと自分で立ちやがれ」
    「はは、酷いなあ」
     肩にかけていた腕を下ろすと、足元は多少危なっかしいもののどうにかアンドラスは自力で立ち上がった。これでお役御免だと、ウァプラは踵を返す。
     そもそも、酔っ払いに絡まれたのか珍しく酒気を漂わせてテーブルに寝ていたアンドラスを、通りがかったからという理由で押し付けられたのが事の発端だ。ソロモン曰く、最近よく行動を共にしているのを見たというのが理由らしいが、一方的にアンドラスが関わってくるというのが正しい。それを仲良しだなんだの括りで扱われるのは、心外極まりない話だった。
     だが、当のソロモンは他の面子に引っ張っていかれ、残されたのはウァプラと潰れたアンドラスばかり。苛立ちを募らせながらもこうして引きずってきたのだから、もう十分だろう。ウァプラが部屋を出ようとすると、不意に上着の裾が引かれた。
    「ちょっと待ってほしいな。俺を運んできてくれたんだろう? 礼の一つも言わせてくれないのかい」
    「なら早く言え。俺はもう行く」
     裾を掴む手を振り払って、アンドラスを睨みつける。その顔はやはり酩酊から赤く、目尻はいつもより緩んでいた。ウァプラの眼光を意にも介さず、へらりとアンドラスは笑うばかりである。
    「そう言わずにさ。あぁ、良い茶葉をもらったんだ。待ってて、今入れよう」
     ぞんざいに椅子へと座るように促され、アンドラス自身は少々胡乱な足取りで戸棚に手をかけた。注意は完全にウァプラから外れているものの、きっとここで立ち去れば後がうるさいだろう。酔いの冷めた頃に押しかけられては厄介だ。急ぎの用はないし、ある程度付き合ってやれば満足するだろうと嘆息して椅子に腰を下ろした。
     アンドラスは機嫌良く鼻歌混じりに、戸棚からティーセットを取り出していく。実験室紛いの部屋にはあまり似つかわしくないものだが、手付きは危なっかしいものの手際は悪くない。
     しばらくすると、ソーサーに置かれた紅茶がそっと差し出される。漂う香りはそこそこ良い代物のようで、少々意外に思った。
    「はい、君の口に合うかは分からないけど」
     そう言い添えて、かちりと机の上にむき出しのティーカップが置かれる。湯気がゆらゆらと深い橙の上で揺れた。横目でアンドラスを見ると、本人は本人で明らかに実験用と思しきビーカーに同じ橙色を燻らせている。よくそれで飲めるものだと思ったが、口には出さない。
     カップをそっと抓み、温度と香りを確かめるように一息分を口に含む。ふわりと香るのはあわい柑橘系のそれで、程よい熱さは得意ではないものの火傷するほどではなかった。
     ずぶの素人、という訳ではなさそうだ。時折自分で淹れているのだろうか。相も変わらず不可解だと何となくアンドラスに視線を向けると、すっと手がこちらに伸ばされるのが見えた。
     かたり、と咄嗟に机の上に置いたティーカップが、あまり褒められたものではない音を立てる。反射的に身を引いたが、椅子の背凭れに阻まれて細長い指が頬を撫ぜた。
    「おい」
     咄嗟にその手首を掴むが、アンドラスは表情の読めない―――それでも緩んだ笑みを絶やさない。
    「なんだい?」
     本当に疑問だ、とでも言いたげにアンドラスは首を傾げた。その様子にウァプラは浅く息を吐く。思い出した、己は酔っ払いを押し付けられていたのだということを。
     ウァプラも力をかけているのにも関わらず、アンドラスの手は止まらない。皮膚の表面に触れて、目尻の縁を確かめるようになぞり、やっと離れた。
    「ふふ、そんなに怖い顔しないで欲しいな」
     満足したのかベッドに腰を下ろしたアンドラスを、ぎろりと睨みつける。
    「誰のせいだと思ってやがる」
    「俺のせいだったか」
     からからと笑う酔っ払いの目的を問い質すように剣呑な眼差しを向けても、アンドラスの態度は変わらない。
    「いや、君の目は綺麗だなと思って。ずっと見ていたいくらいだ」
     まるで口説き文句のような言葉も、常日頃のアンドラスの言動を思えば物騒な響きを連れてくるばかりだ。
    「ほら。手元に置いて、とかね」
    「寝言は寝てから言え」
     へらりと笑うアンドラスを睨んで、ティーカップの残りを傾ける。そして手早く立ち上がった。
    「酷いな、半分は本気のつもりなのに」
     なおも寝る気配のないアンドラスを置いて、部屋を出る。これ以上付き合ってられるか。明日も明日で用事がある。ヴァイガルドの守護聖獣たらんとするならば、持て余している時間などない。
     だが、それなら何故己は面倒事など―――。
    「おやすみ、ウァプラ。ありがとう」
     背後からかけられた言葉に、はっと呼吸を思い出す。呑気な声を黙殺して、少々乱暴な手付きで扉を閉めた。胸中に、得も言われぬ感覚が落ちてくる。廊下に放られた、忌々しげな舌打ちを聞く者はそこにはいなかった。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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