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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    鍾タル小説。一発書き。「きらきら笑ったあなた」

    ##原神

    .

     踊るような一閃。流形の軌跡は大型のヒルチャールの首を、確かに斬り落とした。最後の敵を屠って、タルタリヤは水の刃を霧散させる。一体一体は歯応えのない相手であったが、十も二十も湧いて出てくればそれなりの運動にはなった。
    「じゃあちょっと二人はそれ踏んでてもらっていい?」
     歩み寄ってきた旅人が、タルタリヤと鍾離に問いかける。指差した先には何度か見たことがある、床から少しせり上がった円形の意匠があった。
    「先生の柱にお願いすればいいじゃん。俺もついて行こうか?」
     仕掛けをわざわざ踏んでいなくとも、鍾離がひょいひょいとそこらに立てる柱でも代替できる。それに今は秘境の中だ。わざわざ二手に分かれなくとも、と進言したのだが旅人は首を横に振った。
    「ちょっと素材を探しに行くだけだから大丈夫。それに、あんまり時間がかかって戻る扉が閉まっちゃう方が困るから」
     二人はちょっと休憩してて、と気を遣われてしまえばこちらは閉口するしかない。鍾離は旅人の頼みを真面目に遂行するつもりなのか、仕掛けを丁寧に足の下に敷いている。ひらひらと手を振ってタルタリヤがそれを見送ると、どこからともなく純水精霊が手に纏わりついた。
    「あれ、旅人について行かなくていいの」
     詳細は知らないものの、目の前の元素生物がフォンテーヌのスパイをやめて旅人たちと冒険するようになったことくらいは知っている。好奇心の塊でたまに困る、と旅人が苦笑していたのは記憶に新しい。今のところ閉ざされているこのフロアには敵の気配はないし、いるのも手持ち無沙汰なタルタリヤと仏頂面の鍾離だけである。純水精霊が好みそうなものには、思い当たらなかった。
     タルタリヤの問いに、純水精霊は体を揺らす。笑っているのだろうか、と首を傾げた。
    「タルタリヤ、面白い。だから知りたい」
     純水精霊が吐き出した予想外の言葉に、ぱちぱちとタルタリヤは目を瞬かせる。まさか、自分がこの精霊の関心を惹いているとは。
    「へえ、同じ水元素だから?」
     思い当たる節としてはそれくらいか。つん、とエンドラーを指の先でつつくと、ゆらりと水面が揺れる。すると、ぷわりと小さな泡を吐き出して、それが瞬く間に膨らんでいった。一瞬、アビスの魔術師が出すそれを思い出したが、かの精霊から敵意は感じられない。
     その泡はやがて人をすっぽり包み込めるくらいの大きさになって、タルタリヤの指先から体を呑み込んだ。思わず息を詰めたが、呼吸は問題ないようである。どういう仕組みかは知らないが、足は地についていて浮かび上がることはない。どうやら空気を内包した水の膜のようなものの中に、入ってしまったようだ。
     触れればたちまち割れてしまいそうで、タルタリヤは好奇心が疼くままに手を伸ばす。試しに指で膜を押してみるが、ゆらりとたわむだけだ。外の景色が妙に歪んで、いつもとは少し違う光景に様変わりする。
    「これどうなってるの? 俺もできるかな」
    「できるはず。タルタリヤなら、たぶん」
     タルタリヤの何気ない問いかけに、エンドラーはこくりと頷いた。自分だったらどうするかと、頭を捻る。
     水球として作るなら簡単だが、皮膜のような泡を作るとなると中々に加減が難しい。薄くそれでも壊れないように、強度を工夫する必要がある。戦闘に応用するならば、どう効果的に使えるかも重要だ。
     思考に没頭するタルタリヤを観察しているのか、エンドラーは泡の周りをゆっくりと一周する。
    「本当に、面白い。純水精霊とは似て非なる」
     エンドラーが囁いた声に、タルタリヤはぱっと顔を上げた。
    「エンドラー、生き物を愛せない。溺れさせてしまうから。けれど、タルタリヤなら溺れない?」
     どことなく先程までとは違う雰囲気が漂うエンドラーに、警戒心を跳ね上げる。不用意に手を伸ばしたのは悪手だったか、と心中で舌打ちをこぼした。
    「それかあなたがあれば、もしかしたら、何かを愛せるかも」
     ごぼり。世界から弾き出されたように、全ての音が遠くなる。泡の中が、一瞬で水によって満たされた。立っていたはずの足が、突然足場を無くしたように水の中を掻く。
     息ができない、と境界を崩すために手を伸ばした。が、絡め取られたように上手く動かない。水の向こうから、表情の分からない純水精霊がこちらを見つめている。

     水を裂く鈍い音が、鼓膜を揺らした。荒々しい手付きでむんずとタルタリヤの肩が掴まれて、強引に引きずり出される。抵抗せずにその手に従うと、泡からやっと顔が出せた。真っ先に視界に飛び込んだのは、眉を顰める鍾離の顔であった。
     あっ、と思った瞬間、上半身から泡を飛び出したせいでバランスを崩し、倒れ込みそうになる。だが、肩を掴んでいた手がその勢いのままに、タルタリヤの体は抱きすくめるように受け止められた。
     軽い空咳を、けほけほとこぼす。全身濡れ鼠で、張り付く衣服に不快感を催した。
    「大丈夫か、公子殿」
     背中を擦ってくれる手の優しさと裏腹に、肩を掴む腕に込められた力が強すぎて痛い。
    「ありがと、先生。でもちょっと肩が痛いかも」
    「そうか」
     淡々と返されたし、タルタリヤの声も届いている。それでも力は緩められなかった。
    「鍾離、怒ってる?」
     エンドラーの無機質な声が、背後から放られる。体は鍾離に捕まっているため、首だけで振り返ると既に泡は跡形もない。残る痕跡は、タルタリヤの足元に水溜まりが少しあるくらいだ。
    「怒ってはいない」
     絞り出すような声が続く。それは怒っている人間のそれではないのか。鍾離の顔を覗き込むと、酷い渋面がじっとタルタリヤを見つめ返す。
    「だが、ただでさえ俺のものにならないというのに、横から手を出されては困る」
     硬い声に、エンドラーが首を傾けた。動きは人染みたものなのに、どこか機械染みた印象が脳裏に付きまとう。
    「タルタリヤ、鍾離のもの?」
    「違うな。だからといって、お前にくれてやるわけにはいかないものなんだ」
    「ねえ、俺を置いて人の所有権の話をしないでよ」
     流石に聞き逃せないと口を挟んでやる。すると、背中を擦っていた手が背中に回り、がしりとこちらの腰をホールドした。
    「公子殿は、少々仕置きが必要なようだな」
     鍾離の整った顔が眼前に近付いて、視界がぼやける。男らしからぬ柔らか過ぎずかさついていない唇が、触れた。下唇を食まれ、口内に鍾離の下が潜り込む。唾液が混ざって、舌同士が縺れて、あえかな快楽が脳を揺らした。とろりとした快楽に、思考が解けていく。力の抜ける体はしっかりと支えられていて、甘やかすように施されるものだから鍾離とのそれにどんどんと夢中になってしまうのだ。絡まった舌が離れていって、ひしと抱きしめられて耳から、首筋、項へと順に口付けられる。
     ぞくぞくと欲を中途半端に煽られて、これが仕置きかと熱っぽい息を吐いた。秘境の先で敵が出るならば熱を発散させることは容易いが、心の方はそうはいかない。暴かれる悦を、タルタリヤはもう知ってしまっている。
     どうしたものかと思案していると、項に激痛が走った。
    「ぐっ!!」
     タルタリヤが目を白黒させ、どうにか鍾離を突き飛ばす。すると、呆気なくその体は離れていった。咄嗟に項を触ると、明らかに水ではない濡れた感触が手に纏わりつく。掌を見ると、擦れた真っ赤な液体が散っていた。
    「先生これ痕残っちゃうじゃん!」
    「残ったんじゃない、付けたんだ」
     こちらが本命だったかと、水元素を操って手の血を払い落とす。じくじくと項が痛んで、鍾離を睨んだ。
    「相棒に見られたらなんて言うつもり?」
     そもそも今は秘境探索中だ。別行動とはいえいつ戻ってくるかも分からないし、そもそも敵が襲ってくるかもしれない場所である。鍾離とタルタリヤが対応できないなんてことはないだろうが、用心は必要だろう。
     己が純水精霊に不用心に手を伸ばしたことは棚に上げて、タルタリヤは鍾離に言い捨てた。
    「なら隠しておけばいいだろう」
    「それはそれで何があったのって聞かれるだろ!」
     はあ、と息をついて、垂らしていたスカーフを応急処置に首に巻く。全身がびしょ濡れなのに関しては、正直にエンドラーの悪戯だと言えばいいだろう。
    「先生ってやきもちとか焼くんだね」
     いつの間にか仕掛けを律儀に踏みに戻った鍾離は、一瞬だけ目を伏せて口を開く。
    「悪いか」
    「いーや、全然」
     スカーフの上から噛み痕の凹凸を撫でた。今も痛みは続いているが、悪くない気分だ。

    「一体何があったの……?」
     戻ってきて早々、びしょ濡れのタルタリヤと常より仏頂面を構えた鍾離を目にして、旅人は困惑したように問いかける。
    「タルタリヤ、鍾離、とても、面白い!」
     二人は無言で顔を見合わせて、エンドラーはただくるりとはしゃぐように歌うばかりであった。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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