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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    鍾タル小説。ボツなんだけどキスの日のSSということにしました。「仄かな夜」

    ##原神

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    「先生、好きだよ」
     そう初めて聞いたのは、食事の席でのことだった。

     新月軒で食事を取っている最中のこと、その日は公子が酒を呷るペースが妙に早かったことを覚えている。折を見て水を飲ませていたものの、肴を置き去りに杯だけを重ねるものだからすっかりと公子は潰れてしまっていた。個室で他人の目がない場所だったからだったのか、本人が突っ伏してしまっている以上真偽は定かではない。
    「公子殿」
     軽く肩を揺さぶっても、意味を成さない声が返ってくる。腕を枕に頭を横たえていて、時折目を瞬かせるもののその動きは酷く緩慢だ。顔も耳も朱に染まっていて、どうやって店から連れ出すべきかと思案する。
     ふと思い出して、己の財布を探った。が、見当たらない。当ては寝に伏している。流石にそんな相手の懐を探ることは憚られて、ツケを頼もうと椅子を引いた。すると立ち上がるかくらいのところで、公子の頭がゆらりと持ち上がる。起きてくれるならそれに越したことはない。会計をしたい旨を口に出そうとすると、赤い相貌がふわりと崩れる。眉を下げて、水を孕む瞳は深い青を蕩かした色をしていた。そして公子は口角を上げて、とっておきの秘密を囁くように口を開く。
    「先生、好きだよ」
     そう続いたのが、先の言葉だった。
     沈黙が個室に満ちる。一枚壁の向こうの、慌ただしく動く人々の喧騒や誰ともつかぬ話し声がいやに耳についた。らしくもなく返す言葉を無くしていた己を公子はどう思ったのか、ふふっと小さく笑う。
    「変な顔」
     その瞬間、今まで言おうとしていたことが引っ込んでしまい、そのまま衝動を吐き出した。
    「俺もお前が好きだ」
     それを聞いた公子は目を僅かに見開いて、覚束ない様子で上体を起こして椅子に座り直す。
    「本当に?」
     公子は緩やかに首を傾けた。きっと公子が酔っていなければしなかっただろう、拙い仕草である。神の心を手放してから些か酒の回りやすくなった己の頭は、それを愛らしいものだと変換した。
     頭を軽く撫でて、乱れた髪を直す。嫌がる素振りもなくそれを受け入れている公子は、確かに先の言葉の通りこちらのことが好きなのかもしれない。それを見てやっと、自分が言ったことに感情が追いついてきた。彼を好ましいという感情を見とめ、拾い上げる。頭の奥がじりじりと痺れるような熱を発しているのは、きっと酒のせいだけではないだろう。

    「一先ず会計を済ませたいのだが」
     そう言うと公子は飲んでいた水の椀を荒々しく置いて、げほげほと咳き込んだ。驚いて背中を擦ってやると、咳は落ち着いたものの今度はけたけたと笑い声に変わっていく。
    「俺が何か面白いことを言っただろうか」
     笑い声の理由を問えば、それも壷に入ったのか爆笑は中々止まらない。どうにか落ち着けて、また公子は水で喉を湿らせた。
    「だって先生。俺の話聞いてた?」
    「聞いてないように見えたのか」
     そのつもりはなかったが、相手から見えていたというのならそうなのだろう。だが公子はゆるゆると首を横に振る。
    「そうじゃないけどさあ、ムードもへったくれもないよね」
     酸欠で赤かった顔は、朗らかに笑みを形作った。
    「込み入った話をするならば、場所を移したかっただけだ」
    「じゃあ帰りたかった訳じゃないんだね」
     納得したのか、公子は両腕を持ち上げてぐっと頭上に伸ばす。一つ伸びをして、慣れた手つきで財布を取り出した。
    「それで先生は俺と何を話したいの。もしかして、付き合ってくれたりする?」
     酒気の抜けない顔で、笑い交じりに言葉が放られる。思っていた通りのことを言い当てられて、閉口した。互いの立場上、いくら個室だとはいえ壁越しに誰かがいる場所では聞かれては都合が悪い話だ。だから場所を変えたかったのだが、そこまでは予想できなかったらしい。
    「公子殿は何でもお見通しだな。だがその話こそ別の場所でしたかったのだが」
     嘆息しながら返すと、えっ、と公子が素っ頓狂な声を上げた。視線を向けると、こちらを呆けたような顔で見ている。その顔があまりにも幼く見えて、公子の人となりとの不釣り合いさに目を惹きつけられた。
     吸い寄せられるように顔を近付けると、公子が訝し気に眉を顰める。その頬を掬い上げるように触れて、口を押し付けた。一瞬触れるだけに留めて、頬から耳へと指先を滑らせる。じわりと、耳の端まで赤が滲んだ。その様につい笑うと、ぐっと肩を押される。公子は赤い顔で、こちらを強く睨みつけた。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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