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    hariyama_jigoku

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    hariyama_jigoku

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    伏五小説。完成~~!!!

    ##呪術

    3マス進んで2マス戻るような話。5 ぽつりと伏黒が問うと、五条はもごもごと口を動かした。やがて、一つ息を吐く。
    「そんなこと言ったっけ」
     子供のような頼りなさで、五条は小さく囁いた。伏黒は若干の逡巡の後、拗ねて目を逸らす五条の前髪を耳にかけてやる。嘘を吐くだけなら、五条ならもっと上手くやれるだろう。五条も五条で天邪鬼だと、自分のことを棚に上げて考える。
    「そんなに気にしてると思ってなかったんですよ」
     弁明染みた言葉は、本心だ。気にも留めていない、なんて捻くれた思考はしていないものの、五条の思考の端に僅かな間だけでも留まれれば十分だと思っていた。己の言葉なんて。そういえば稽古を付けてもらっていた時にバントをした話を持ち出された時も、それ相応の驚きが胸中に生まれたことを思い出す。
    「スキンシップって、あんたにとってコミュニケーションみたいなものでしょ。俺に引っ付いてくるのも、そういうやつかと」
    「だって、恵だし。誰でも気にするわけじゃないよ」
     不埒な心を、五条の言葉が撫でた。聞いてはいけないと、目を閉じて、浅く息を吐く。これもきっと、本人にとっては何でもない言葉の一つに違いないのだ。
     掌にそっと己の爪を立てる。伏黒が五条の存在に慣らされてしまったように、五条もきっと伏黒との距離の近さに慣れたのだ。幼い頃の自分に対して、嫌がっても無理矢理に抱き上げられたり頭を撫でたりと、そりゃもう好き勝手された記憶がある。一種の距離感のバグだろう、と伏黒は結論付けた。
     緩慢に目を開くと、伏黒のことを窺う視線が注がれている。恐らく今回は自分が悪い。そうは思っていても、素直に謝り切れなかった。
    「悪かった、と少しは思ってます」
     絞り出した声は、やけに言い訳染みている。じっと見つめる碧から目を逸らすように、視線の先を床へと放り投げた。
    「でもこういう抱きついたりとかは普通付き合ってる相手とか、そういうんじゃないとしないんですよ。あんたも程々にして下さいね」
     自分で言っておきながら、ざらつく心に嫌気がさす。
    「家族は?」
     どこかぼんやりとした、何を考えているのか分からない顔で、五条が問うた。
    「俺と五条先生は家族じゃないでしょ」
     そもそもの事実を口にすると、小さく五条は首肯する。
    「そうだね。それに、家族にはこんなことしないかも」
     そう言って五条が互いの間に空いた距離を詰めるように、前のめりに倒れ込んだ。伏黒の胸辺りに抱きついて、こちらを仰ぎ見る。
    「じゃあ何になったらいい?」
     底の見えない水面を、覗き込んでいるみたいだ。
    「僕が何になったら、恵に触ってもいい? 恵は僕が何だったら、触ってくれる?」
     沈黙の中、無意識に喉が鳴る。五条はじっと伏黒の返事を、静かに待っていた。
    「……俺は」
     伏黒は口を開いて、また閉じる。ゆらゆらと水面のような瞳。水の底から、太陽を見上げているような気分に陥りそうだ。実際には見下ろしているのはこちらなのに、天地がひっくり返ったように落ち着かない。それでも己の中にあるはずの答えを、手繰り寄せる。
    「あんたが何であっても、人前で抱きつかれたりべたべたされるのは嫌です」
     たどたどしい声で吐き出した伏黒に巻きついた腕は、力を込められることも離れることもしなかった。その白い頬に触れると、少しの冷たさに眩暈がしそうだ。
    「でも、こうして二人の時だったら好きにしていいです。嫌な時は抵抗しますけど」
     伏黒の抵抗は、五条がどう振る舞うかの妨げにはならないだろうと言外に告げる。
    「それはあんたが、―――五条悟が何であっても変わらない」
     予想されているだろう、望まれていたのだろう答えを、律儀に返してやるつもりはなかった。
    「無欲だね、恵は」
     ぽつりと、五条が呟く。驚いたという表情ではなかったが、瞬きを緩慢に繰り返した。
    「我が儘も言ってくれないのに、とうとう人のこと甘やかすのも上手になっちゃって」
     背に回る腕が緩んで、少し身構える。が、それが離れていくことはなく、単純に五条がべたりと伏黒にくっついていた姿勢を正し、ほど良い距離に収まっただけだった。
    「僕には全然甘えてくれないのに」
     伏黒の頭の上に五条が手を置いて、それが髪をすくように動く。言っていることとは裏腹に、子供扱いするような手付きではない。だから振り払わずに、するままにさせた。子供の我が儘のようなものは流石に言わないものの、虎杖の件など言ってしまえば伏黒の我が儘である。それとも五条にとってはそうではなかったのだろうか。
     取り留めのないことを考えながら、人を甘やかしたことなんて早々ないと首を横に振る。
    「俺は甘える、とか甘やかす、とかそもそも得意じゃないです」
     伏黒がそう返すと、んんーと唸って五条が目を細めた。
    「でも僕のこと甘やかしたじゃん。さっき、ぎゅーって」
     揶揄うみたいな言い方にばつが悪くなって、慌てて取り繕う。
    「それは、あんたが変なへこみ方してるから、それに」
     その先を呑み込むと、五条が薄ら笑った。
    「それに、僕のこと好きだからって?」

     衝撃よりも先に、諦観が胸中に落ちる。そうですね、と肯定の言葉を吐いて、視線を五条の胸辺りに彷徨わせた。
     隠し通せているとは、はなから思っていなかった。互いに無関心でいるには近過ぎて、適切な関係を模索するには遠過ぎたのだろう。だからといって、デリカシーの欠片もないのは最早五条の才能にすら思える。
    『じゃあ何になったらいい?』
     あの問いは恐らく、伏黒の欲を引きずり出すための罠だった。それが透けて見えたから、分かりやすい誘いの手を叩き落した。本当に、嫌気がさす。五条に、呆れてもいる。伏黒自身にもだ。
     自棄になって伏黒が乱暴に頭を掻くと、少し五条が身じろいだ。結局どれだけ手酷く扱われようと、甚だ振られようと、五条への執着を捨てられないのは伏黒自身である。
    「それで? それが何だって言うんですか」
    「何でそんな喧嘩腰なの?!」
     五条が素っ頓狂な声を上げるが、それは自分の胸に手を当ててみろと言う他ない。
     この時点で伏黒はだいぶ開き直っていた。諦めと、呆れと、ありったけの執着。その他心中に渦巻く感情の諸々は、ひとまずは伏黒の口を荒げさせる形でまろび出た。
    「あんたの言う通り、俺はあんたが好きですよ。でもそれがどうしたっつーんだよ」
     じとりと五条を見据える伏黒の目に映ったのは、少々ばつが悪そうな表情である。
    「だって、ほら、こう、あるじゃん!」
     五条がろくろを回すように、何一つ具体性のないことを宣った。
    「せめて主語くらい言って下さい。仮にも教師だろ」
     伏黒の突っ込みに、五条の口が小さく動く。
    「つ、」
    「つ?」
     耳をそばだてていたせいか、つい拾い上げてしまってとうとう五条の六眼が伏黒を睨んだ。だが、不思議なことに恐ろしさが欠片もなく、首を傾げる。
    「付き合いたいとか、ないの。恵は」
     付き合う。実感の伴わない言葉が、ただの単語として脳に漂った。まじまじと五条を見つめ返すと、いつも生白い肌が妙に血色がいいことに気付く。
    「それは、俺と五条先生が、ですか」
     掠れた声は、動揺を如実に表したような色をしていた。恐る恐る聞き返すと、はあと大きくため息を吐かれる。
    「それ以外何が―――」
     ぷつりと言葉が途切れて、五条が静止した。くしゃりと、五条が顔を歪める。その瞬間、今度は血色がいいどころではなく、顔中が紅をはたいたように赤く染まった。そんな顔を見るのは初めてで、視線を吸い寄せられるとふいに五条の手が伸びてくる。それは油断していた伏黒の顔面を掴んで、そのまま突き飛ばされた。
    「もおおおおお言わせんなよ!! 恵のばーーーーーーか!!!」
     まだ朝には程遠い時間には、あまりにも不釣り合いな声で五条は叫んだ。五条は呆気に取られた伏黒を置いて、アイマスクを引き上げて立ち上がる。察しがいいのか悪いのかどっちかにしろよ、とぶつぶつ呟いて、荒々しい大股で床を踏み鳴らしながら五条は伏黒の部屋を飛び出していった。
     何て言えば良かったんだ、と伸ばした先のものを見失った手が、ぷらりと宙に浮いている。言わせんなって、あんたが言葉足らずなのが悪いとかそもそも今何時だと思ってるんだとか色々と文句は浮かんだものの、はくはくと喉から声は出てこない上に伝えたい相手も今はもういない。
     はっとお湯を沸かしていたことを思い出す。流し台に置かれた、インスタントコーヒーを入れたままのマグ二つ。片方にポットを傾けると、温くなった湯が中途半端に粉を溶かす。一応スプーンで軽く混ぜて一口呷ってみるものの、流石に飲めたものじゃないと息をついた。それでも少し落ち着くことはできた。
     スマホを開いて、手早く五条に通話をかける。ワンコール、ツーコール、スリーコール。応答されずに鳴り響く呼び出し音が降り積っていった。それでも根気強く鳴らし続けていると、ふいにメロディがぷつっと途切れる。聞こえるホワイトノイズに、小さく息を吸った。
    「五条先生、俺と」
    「うっさい寝ろ!!!!」
     耳鳴りと共に無情にも通話は切断された。その場にずるずるとしゃがみ込んで、伏黒は頭を抱え込む。じわじわと、遅効性の毒のように熱くなる頭にたまらず大きなため息をついた。きっとその息の端々まできっと熱いに違いない。
     本当にめんどくせえ、とぼやいた。それでも、手を伸ばすには果てのないと思っていたのだ。今は少し手が届くような、そんな気がしていた。
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    hariyama_jigoku

    DONE鋭百小説(鋭百々)。付き合ってていちゃついてる二人。互いの無意識の話。
    侵食 ちゅ、ちゅ、とリップ音が鼓膜を舐めるように繰り返される。くらくらと、その度に指先から全身に火が点っていくようだった。無意識に腰が引けるが、腰に回された腕が程よくそれを妨げている。
     眉見の肩に手を置くと、それを合図と思ったのか殊更ゆっくり唇が合わせられた後に緩慢に離された。吐息が濡れた皮膚に当たって、妙に気恥ずかしい。口と口をくっつけていただけなのに、なんて女の子みたいなことは言わないが、一体それだけのことにどれだけ没頭していただろう。腕がするりと離れ、柔らかなベッドに手を置いて体重をかける。
     勉強会という名目だった。元より学生の多い事務所では、勉強会がよく開かれている。C.FIRSTは専ら教え役だったが、S.E.Mなど加われば話は別だ。いつしか習慣と化したそれは、ユニットの中でも緩慢に続いている。事務所に行くだけの時間がない時。例えば定期テスト中―――下手に行けばつい勉強が手に付かなくなってしまう―――とかは、互いに課題を持ち寄って百々人は秀の、眉見は百々人の問題を見る。最初は二人が眉見に遠慮したものの、受験の準備になるからと押し切られる形になった。今日もそうなる予定だったが、秀が生徒会の仕事で欠席することを知ったのがつい一時間ほど前である。今日はやめておくかと聞こうとした百々人に、眉見が自分の家に来ないかと持ち掛けて今に至る。いつもは何かと都合の良い百々人の家だったのだが、一人で来るのは―――それこそ二人が付き合い始めてから来るのは初めてだった。
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