最近、穂波に元気がないような気がする。
それに気が付いたのはつい先日だ。思い当たる節もほんの少しある。気のせいかもと思い、咲希や志歩に話す事はしなかったものの、どうしても気にかかっていた。
そんなある日の事。四人でチャットをしていた所、咲希から「今度セカイでほなちゃんの誕生日パーティーをしない?」と提案があった。「ちょっと早いけど」
穂波の誕生日の近くにはライブの予定があった。確かに、穂波の誕生日会という事ならちょうど良いタイミングかもしれない。
「わかった」
咲希の提案した日付は皆の予定が空いている。夜中に集まって、その次の日に予定がなければ日の出も見たいなんてことも言っていた。
「咲希こそ大丈夫なの?」と聞いたら、大丈夫だと言って聞かなかった。最近は体調を崩す事も全くと言っていい程ないらしいし、咲希の事を信頼しよう。
「かんぱーい!」
ジュースの入った紙コップを掲げる。この屋上から見るセカイの夜空はいつだって綺麗だ。
持ち寄ったフライドポテトをもそもそと食べながら、夜空を見上げる穂波の顔を覗いた。
思い込んでるだけだと言われたら否めないけど、やっぱり、まだ元気がないように見える。
穂波の力になりたいけど、何を悩んでるかって、聞いてもいい事なのかな。私がどうしても力になれない事だったり、そもそも、穂波が話したくない事だったらどうしよう。
胸がキュッと締め付けられるような気がした。
咲希がこちらを一瞬見て、唇に指をあてる。その後少し離れた所で志歩にこそこそと何かを話したかと思えば、「何か歌わない?!」といつにも増して元気そうな声で問いかけてきた。
「いいけど、何で急に?」
「日の出までまだまだ時間あるしさ! ご飯食べてるだけじゃちょっと退屈だろうと思って」
穂波も「いいよ」と笑顔を浮かべて言えば、咲希は飛び跳ねて喜んだ。楽しそうな咲希の事を見ていると、思わず笑みが零れてしまう。人を笑顔にする魔法でも使えるのかな。
教室で数曲演奏した所で、一旦休憩しようと志歩が言った。今はライブに向けた練習をしている訳ではないからいつもよりはビシバシ言ってこないけど、志歩は演奏の技術的な面を指摘してくれる。でも、志歩のアドバイスはとても参考になるから、聞いていて楽しかった。
教室の窓から穂波が夜空を見ている。
「綺麗だね」
私が穂波に歩み寄れば、穂波は少し驚いたような顔をして私の方をまた見た。
「うん。とっても綺麗」
歯を見せて笑う穂波を見て、私の心がすっと晴れたような気がした。
大丈夫。私はまだ歩ける。歩けるから。
穂波のためなら、裸足で走る覚悟だってあるから。
午前三時。
「そろそろじゃない?」
咲希が目をギラギラとさせて言う。途中で眠くなって解散かもと思ったけど、咲希はよっぽど楽しみにしていたらしく、全然眠そうな様子はない。志歩は「眠くない?」と数十秒おきに咲希に聞いている。志歩も眠いという訳ではなさそう。
ふと、穂波の方を見た。
穂波も私の視線に気づいたらしく、私と目を合わせた。
「顔に何かついてる?」
そう言って照れくさそうに微笑む穂波を見て、私も自然と頬がほころんだ。
「あ!」
咲希が指をさす方向を向く。
ほら、夜が明けた。