「一歌ちゃん、これ何?」
一歌ちゃんの部屋で、隅に置かれた丸い装置を見つけた。
「ああ、それ」
その装置を持ち上げたわたしからそれを受け取って、一歌ちゃんはどこか照れくさそうに、わたしじゃないどこかを見つめた。人は考える時は柄のないものだとか、情報量の少ないものを見たくなるっていうから、壁をじっと見つめているのかもしれない。
「穂波の誕生日に渡したかったんだけど、やっぱり不出来かなと思って」
一歌ちゃんはその装置をしばらく愛おしそうに見つめて、それから思い出したかのように「手作りのプラネタリウム」とその正体を明かした。
「不出来だなんて。一歌ちゃんが一生懸命作ってくれたんでしょ? よかったら見てもいいかな」
わたしが一歌ちゃんにそう言うと、一歌ちゃんはわたしを見てほんの少し目を見開いて、それからすぐ、嬉しそうに笑った。
その日は一歌ちゃんの家でお泊まりをする予定だったし、どうせならという事でプラネタリウムは夜に見る事にした。わたしは一歌ちゃんの部屋に敷かれた布団の中で、一歌ちゃんがせかせかとプラネタリウムの準備をしているのを見ていた。
「穂波、暗くするよ」
わたしが一つ頷くと、一歌ちゃんは部屋の電気を消した。急に真っ暗になって、わたしは一瞬目を閉じた。プラネタリウムの電源が入れられる音がどこからか聞こえて、次に目を開けた時には部屋には床も壁もなくて、そこにはただ、私達だけの宇宙があった。
「綺麗……」
思わずそう呟くと、一歌ちゃんは「ありがとう」と返してくれた。顔はよく見えないけれど、きっとへにゃっとして笑ってるんだと思う。
一歌ちゃんがのそのそとわたしの隣の布団に潜ってきて、わたしと同じ目線で宙を見上げた。
「ほら、見える? あそこ」
一歌ちゃんはわたしの真上の辺りに指をさした。
「あれ、夏の大三角形のつもりなんだけど、隣に存在しない星がある」
一歌ちゃんは自虐気味に笑った。
確かに、夏の大三角形らしき正座の横に妙に明るい星がある。このプラネタリウムの中で一番明るいんじゃないのかな。
「でも、すごく綺麗じゃない? わたしは好きだよ。一歌ちゃんが創ったあの星」
「規模大きくない?!」
一歌ちゃんが布団の中で声を出して笑った。そしてひーひー言いながらわたしに「ありがとう」と言う。なんだか一歌ちゃんによく感謝されるな。
わたしもつられてへにゃっと笑った。その後しばらく静寂が続いて、一歌ちゃんが寝てしまったことに気が付いた。
可愛らしい一歌ちゃんの寝顔をひっそりと見つめながら、わたしはそこにいる一番星の名前を呼ぶ。
いつだって見つけてみせる。あの一番眩しい星の名前は、わたししか知らない。