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    水菜!

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    水菜!

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    ラストッツォで苦しみました。恐らく誤字があります。自己解釈山盛りのアノ御です。

     ごく普通の一般男性、アノの家に自らを「御」と名乗る女性が居候し始めてから何週間か経つ。
     あれは確か何の変哲もない普通の夜のはずだった。
     スーパーで安くなっていた惣菜を食べ、テレビを見て、風呂に入り後は寝るだけだとソファでくつろいでいた。
     その時、インターホンの音がやけに鋭く耳に入ってきた。こんな時間に誰なんだと少し苛立ちを覚えつつ、そういやこの前寝ぼけて通販で何か買ったっけかと適当な事を考えていた。後にして思えば、その通販の宅配だったとしてもあんな時間にはこないだろう。
     ドアを開けて、すぐに閉めようと思った。
     少し青がかったような綺麗な白髪とも銀髪とも言える髪をもった女性が一人、そこにいたからだ。
    「どなたですか」
     当然の反応だろう。苛立ちを隠せない様子のアノに、女性はニコニコとした表情で言った。
    「こんな時間に押しかけてしまって本当に申し訳ありません。でも、どうしても貴方にお願いしたい事があって」
     一つ小さなため息をついて、アノが「お願いとは?」と尋ねる。
    「しばらく居候させていただきたくて」


     すっかり馴染んでしまった。どうしてあの時オーケーと答えてしまったのだろう。
     御はどうやら割といいご家系の出身らしく、家事は完璧。「居候させていただいている代わりに」と、彼女の作る料理は絶品だった。
     しかし、だからと言って素性も何もわからない女に家の一室を預けるわけにはいかない。
     そう思いアノが御に「どうして俺の家に居候なんて」と聞くと、御は「他に泊めてくださる所がなくて」と答えた。そういう事ではない。
     御についてまだまだ謎は多い。御はニートというわけではなく、週に数回外に出ては夕方にくたびれた様子で帰ってくる。仕事でもしているのだろうかと、アノはいつも思っているが生憎御は教えてくれない。
     そんなある日。
     その日は何も予定がなかったから、前日は深夜遅くまで御とテレビゲームをして、昼頃に起きた。
    (御はゲームも強いんだなあ)
     昨晩、某パズルゲームをタイマンで勝負して、御に舐めプをされた挙句ボコボコに巻けるなどという屈辱を味あわされ、そのまま不貞腐れて眠ったのだ。幼稚だというのは自覚している。
     喉が渇いていたので、水を飲もうとキッチンに行こうと思った。部屋から出ようとドアノブに手をかけた時、廊下から御の声が聞こえた。怒鳴り声だ。
     初めて聞いた御の怒鳴り声とその迫力に、思わず身震いする。電話でもしているのだろう。
     人としてダメだという事は重々承知で、アノはそのまま聞き耳を立てた。
    「貴方とはもう別れると言ったでしょう! しつこい人ですね!」
     会話の内容からして元カレ辺りらしい。
     御は美人だから彼氏の一人や二人くらいできるかと考えたと同時に、胸の奥に巣食う黒い感情の存在に気が付いた。その気になれば名前くらい付けてやれたけど、アノは「その気」にはならなかった。
     それから数分経って御が無理矢理というように電話を切ると、ずかずかとリビングの方へ歩いた。そういえば、もうすっかり昼ご飯の時間だ。
     見ている限り、昼ご飯を作っている時の御も、それを食べている時の御もいつものニコニコ笑顔ではあったものの、どこか違和感があった。
     御の顔をじーっと見つめていると、御は「そんなに凝視しないでくださいよ」とへらっと笑って受け流し、アノに手を振った。


     アノの予感は、的中していたと言えばそうなのだろう。
     ある週末、夕飯を一緒に食べていたアノに、御は至って自然に「お金が溜まったので、週明けにでもこの家を出てどこかへ行きますよ」と言った。
     アノは少し固まって、「そう」と返した。
     結局、御がアノの家に居候しようとした発端は何だったのだろう。今なら、教えてくれるだろうか。
    「私、元カレがいるんですよ。その元カレの束縛があまりに激しいから痺れを切らしてしまって。今思えば、あの時もう少し冷静になれていれば、アノさんにも迷惑をかけずに済んだんです」
     静寂が、二人の間に漂った。アノは何か言わなければと思ったけれど、その静寂にかき消された。


     御という嵐のような美しい女性は、やけに静かにその場を去って行った。
     御が居候していた時間の方が圧倒的に短かったはずなのに、心のどこかが寂しいと鳴いている。
     今ならまだ、会えるだろうか。
    (未練がましいな)
     まだ遠くへは行っていないはず。御はどこに行くとも言っていなかった。でも、もし本当に「どこか」へ行くのだとしたら、駅にいるのではないか。
     理屈のない考察を並べて、アノは駅に走り出していた。


     御は、駅の中でキャリーバッグを引いていた。彼女によく似合う、一切の穢れない白色のキャリーバッグ。
    「待って!」
     息もたえたえに、御の手を掴む。
     驚いた御がこちらを向いて、手を振りほどいた。目の下が少し腫れていた。
    「なんでここに?」
    「御に言いたい事があって。御は、なんで泣いてるの?」
     そう言われたのが気にかかったのか、御は目を擦った。
    「元カレが駅の近くで私の事を見かけたらしくて、後を付けられたので、しつこいとビンタしたら殴られました」
    「それで泣いてたの?」
    「違います! 私怒ってるんです!」
    (なんだか喜怒哀楽がハッキリしてきたなあ……)
     初対面の時のような無表情とは程遠い御の姿に、アノは思わず感心してしまった。
    「でも、あんなクソ男から離れられてスッキリしました。アノさん、本当にありがとうございます」
     御はふっと笑った。今までに見た事のない笑顔だった。
     アノはまた、胸の奥の黒い感情に息を詰まらせた。御との生活が、どこの馬の骨かもわからない男によって引き起こされたものだと思うと腹立たしい。
     アノはこの気持ちに、名前を付ける事に決めた。
    「そうやって笑った方が、御にはよく似合う」
     意地悪のつもりで言ってやった。御に、頬が赤いのが見破られていないといいが。
    「うるさい!」
     御はアノの手を掴んだ。
    「切符買っちゃったのに! もう! 人生設計台無しです!」
    「そりゃごめん」
    「勘違いしないでくださいね! 限りなくいい方向ですから!」
     ふんすと鼻息を荒立てて、御はアノの家のある方へ帰る。
     アノは力が抜けたように笑った。彼女が今日も、楽しそうで何よりだ。
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