夢花火(仮タイトル)たとえそれがーー夢幻のごとく散る花火だとしても。
副題・霊とか相談所 出張除霊。
※色々と捏造してます。ご注意ください。
薄雲のかかった群青の空の下。
大通りにずらりと露店が建ち並び、人でごった返している。
店によって並んでる品々は異なっており、箒や茶碗など日用品を手頃な価格で取り扱うところもあれば、紅や漆で装飾された櫛や職人の技巧を凝らした飾りなど値の張る一品を売ってる店もあったりと千差万別だった。
「すごい……」
隣りにいる弟子が目を丸くし、感嘆の声を漏らす。
普段人の多いところを好まない弟子だが、やはりまだ子供、好奇心には逆らえないのだろう。そわそわ落ち着きがなく、頻繁に立ち止まっては気になった露店を指さして、あれは何ですかと俺に逐一尋ねてくる。
次から次に飛んでくる弟子の質問に答えてやりつつ、色んな店を冷やかしていく。
出店の半分ほど見終わった頃、俺は言った。
「何か欲しいものあるなら買ってやるぞ」
俺の提案に弟子は数度目を瞬く。
「いいんですか?」
「手伝い頑張ってくれてる弟子にご褒美だ。甘いもんでも食う?」
「……あのお店でもいいですか?」
そう言って弟子が指さしたのは独楽や人形など玩具を取り扱ってる露店だった。
「いいぜ。どれにする?」
「……あれがいいです」
弟子が選んだのは赤い風車。
また変わったものを選んだな。
不思議に思いつつも露店の店主に代金を支払い、買った風車を弟子に渡した。
「ほら。大事にしろよ」
手渡した直後に風が吹き、弟子の手の中で風車がかんらかんら音を立てて回り出す。
回転する赤い風車を暫し見ていた弟子だが、
「師匠」
何故か受け取ったばかりの風車を俺に差し出してきた。
一瞬行動の意味がわからず困惑するも、弟子の真剣な表情の中に緊張が混ざってるのをみて、もしやと思い尋ねてみる。
「俺に?」
俺の予想は当たっていたらしい。
こくりと弟子は頷き、ぐいぐい風車を俺に押しつける。
まさか俺への贈り物だったとは。
それはお前のものだから、俺にくれる必要はないと何度も説得したのだが。
「受け取ってください」
この日の弟子はやけに頑固で俺が受け取るまで絶対に引き下がらず、結局根負けした俺は、風車を受け取った。
風車で遊ぶような年じゃないんだが……。
とりあえず腰に挿してみる。
地味な色合いの布地に風車の赤い色がよく映え、なかなかに粋で風流だ。
「どうだ?」
似合うか?
俺の問いに弟子は破顔し大きく頷いた。
他に欲しいものをたずねてみても、特にないと答える無欲な弟子に呆れつつ、それならばと近くにあった茶店に寄り、二人で団子を食った。
久々の甘味に舌鼓を打ちつつ、弟子と他愛ない話をする。
といっても、俺が一方的に喋って、弟子は適当に相づちしつつ団子頬張ってるという構図だが。
団子を食い終わった後も、弟子と一緒にぶらぶら大通りを散策した。
「……そろそろ行くか」
気づけば日は暮れかけていた。
必要な買い出しも済ませたし、もう用はない。
俺の隣りにいる弟子に向けて手を差し出す。
「はい」
迷うことなく俺の手を握る。
賑やかな大通りから離れ、人気の少ない通りを歩いてたときだった。
どこからか子供の笑い声が聞こえると思った次の瞬間、数人の子供達が近くに路地裏から飛び出す。
弟子と同じくらいの年頃だろうか。楽しげに笑いながら俺たちの横を駆けていった。
「師匠?」
その場に立ち止まり、群衆に紛れこむ子供達の後ろ姿を見送る俺に、弟子は首を傾げる。
「……何でもない。さあ行こう」
口の片端あげて笑ってみせ、弟子の手を引いていく。
俺の導きに疑うことなくついてくれる弟子。
繋いでた手に力がこもる。
「……」
弟子も強く握り返す。
華やかな大通りを尻目に、俺たちは町を後にする。
からからと回る真っ赤な風車。
茜色に染まった空の下、何処でひぐらしが鳴いていた――
夢花火