夢花火7霊幻の言葉に後押しされたのか、女性はさらにヒートアップする。
「やっぱり!あの宗教狂いのキチババア、何が『この蛭子様は一体50万する特別な像なのだから、朝昼晩かかさず祈りを捧げなさい』よ。こちとら像の呪いのせいで体調悪くなるし、あんたが金せびるせいで貯金も溜まんないんだけど?年金や亡くなった義父の遺産ぜーんぶ、変なカルト宗教団体に貢いで、すっからかんのくせに、それで御利益があるのーって阿呆か脳内お花畑で幸せかああそうかよ一人で勝手にしろ人様に迷惑かけんな!大体、安産祈願のお守りなら親、友達、会社。合計3つ、もう持ってるっつーの!それもあんたが熱心に信仰してる胡散臭いところじゃない、由緒正しい神社のお守りをね!何なら肌身離さず持ち歩いてるし、どう考えてもこっちの方が御利益がありますよーだー!あんだけ大金貢ぎまくって対価が呪われた像なんて可哀想にお気の毒様!ざまーみろ!」
そう一気に捲し立て
「もうあの二人と一緒にいるなんてうんざり!先生決めました!私……離婚します!」
彼女は高らかに宣言した。
ソファから身を乗り出し、霊幻の手を掴んで、ぶんぶん振り回す。
「ああもっと早く決断すればよかった!ありがとうございます、先生のおかげで私、決心つきました!あいつらに離婚届叩きつけてやる!」
最初のどんより曇ってた顔からはとても想像できない、女性は闘志に燃えた戦う者の目をしていた。
「……解決されたのなら何よりです」
「ええ本当に!あ、その像はいらないので処分しちゃってください。燃やすなり砕くなり思いっきり破壊してもらって構わないので!」
そう言って女性は霊幻に相談料金を支払うと、足取り軽く帰って行った。
女性がいなくなり、部屋が静かになって。
「……いつの世も嫁姑問題は変わんねーな」
一連のやりとりを傍観してたエクボは神妙な顔で呟き、霊幻もまたそれに同意するように、同じく神妙な顔で頷いた。
……結婚するときは気をつけよう。
「しっかしこの像はどうしたものか……普通の大黒様なら事務所に飾るのもアリだと思ったが、出所が胡散臭い宗教団体だとちょっとなー……」
変なカルト宗教と繋がりがあると噂されたら、信用問題に関わる。
「……勿体ないが仕方ない、捨てるか。木像って燃えるゴミで出せっかなー」
「あ、待て。うかつに触ると」
霊幻が何の気なしに大黒様の像を掴んだそのときだった。
「……え?」
無機物であるはずの像の顔が突如、ニタリと不気味に笑い。
「呪われるぞ」
エクボが言った直後、ブワッと木像から黒い靄のようなものが噴出した。
なっ……呪いって本物かよ!?
慌てて像を手放そうとするも、靄は既に霊幻の体を包み込んでいた。
黒い靄に触れた箇所から急激に力が抜けていき、その場に霊幻は倒れ込みーーそのまま意識を失ってしまった。
静まりかえった事務所の中で。
「あーあ。遅かったか」
呆れたように呟く悪霊の声だけが響いた。