大当たりをもう一度 持たされていたスマートフォンは部屋に置いてきた。中学の入学祝いに買ってもらったもので、6年間大事に使い続けたが、とうとう卒業までアドレス帳には2人しか登録がないままだった。
『……獪岳?』
電話口には、善逸が出た。そうなるように、慈悟郎の居ない時間に、狙って掛けている。
「電話の取り方も忘れたかよ、カス」
『公衆電話からかけてくるのなんて、獪岳だけだよ』
「そぉかよ」
『今爺ちゃん居ないよ、ねえ、獪岳……?元気してるの?爺ちゃんも声、聞きたがってるよ』
元弟弟子の、泣きそうな声に獪岳はふんと鼻を鳴らす。手元にはしわくちゃになったメモ用紙と数枚の十円玉。メモ用紙は子どもの頃、自分を引き取った桑島が何かあった時のために……と持たせた桑島家の電話番号が彼の達筆な字で書き付けられたもので、獪岳はこれを言い付け通りに大事にしていた。小学生の時はランドセルのポケットの一番奥深くに入れて、中学に上がってからは財布の中に、高校生になってからはスマートフォンのケースの中に隠すみたいにして、ずっと、ずっと。
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