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    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    #氷司

    そして私も前を向く 実力があれば。
     氷月の中で、それは一つの指針だった。
     同年代の門下生たちに師範代の息子だから特別扱いをされているのだと後ろ指をさされた幼少期に。嫌味ったらしい教師に学生の本文をおろそかにするな、何の意味があるんだと蔑まれた学生時代に。若すぎるのだ、愛想がないのだと文句をつけられ挙句の果てに門下生たちを奪われたあの日に。
     実力があれば認めてもらえる、力があれば有無を言わさずに済む、努力を続けていれば理解ってもらえる。心の中で唱えた気休めは氷月を救わず、やがて悪態の芽ぶきを迎える。向上心がない。努力しない。目標がない。見通しが甘い。成功への執着がない。
     つまり誰も彼もちゃんとして、いない。
    『今回は高校生にして世界の頂点、奇跡の男をゲストにお呼びしています。では獅子王司さん、どうぞ!』
     テレビの中で、ちゃんとしているのに世界に蝕まれている男が笑顔も作らずに佇んでいる。
    「弱者に腕を食わせている」
     思ったことが口から飛び出た。夜明け前、今日は東京へ出稽古へと向かう。石に成る朝。
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    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
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