そして私も前を向く 実力があれば。
氷月の中で、それは一つの指針だった。
同年代の門下生たちに師範代の息子だから特別扱いをされているのだと後ろ指をさされた幼少期に。嫌味ったらしい教師に学生の本文をおろそかにするな、何の意味があるんだと蔑まれた学生時代に。若すぎるのだ、愛想がないのだと文句をつけられ挙句の果てに門下生たちを奪われたあの日に。
実力があれば認めてもらえる、力があれば有無を言わさずに済む、努力を続けていれば理解ってもらえる。心の中で唱えた気休めは氷月を救わず、やがて悪態の芽ぶきを迎える。向上心がない。努力しない。目標がない。見通しが甘い。成功への執着がない。
つまり誰も彼もちゃんとして、いない。
『今回は高校生にして世界の頂点、奇跡の男をゲストにお呼びしています。では獅子王司さん、どうぞ!』
テレビの中で、ちゃんとしているのに世界に蝕まれている男が笑顔も作らずに佇んでいる。
「弱者に腕を食わせている」
思ったことが口から飛び出た。夜明け前、今日は東京へ出稽古へと向かう。石に成る朝。