Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍙 🍣 🍩 🍨
    POIPOI 67

    ナンデ

    ☆quiet follow

    #氷司

    そして私も前を向く 実力があれば。
     氷月の中で、それは一つの指針だった。
     同年代の門下生たちに師範代の息子だから特別扱いをされているのだと後ろ指をさされた幼少期に。嫌味ったらしい教師に学生の本文をおろそかにするな、何の意味があるんだと蔑まれた学生時代に。若すぎるのだ、愛想がないのだと文句をつけられ挙句の果てに門下生たちを奪われたあの日に。
     実力があれば認めてもらえる、力があれば有無を言わさずに済む、努力を続けていれば理解ってもらえる。心の中で唱えた気休めは氷月を救わず、やがて悪態の芽ぶきを迎える。向上心がない。努力しない。目標がない。見通しが甘い。成功への執着がない。
     つまり誰も彼もちゃんとして、いない。
    『今回は高校生にして世界の頂点、奇跡の男をゲストにお呼びしています。では獅子王司さん、どうぞ!』
     テレビの中で、ちゃんとしているのに世界に蝕まれている男が笑顔も作らずに佇んでいる。
    「弱者に腕を食わせている」
     思ったことが口から飛び出た。夜明け前、今日は東京へ出稽古へと向かう。石に成る朝。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ナンデ

    DOODLE鰈→彼→カレー

    千司Webオンリー「賢者と旗手を結ぶ糸」展示小説です。
    二日目の彼 千空は研究所へ、司は外交へ。数年会わない日々が続いて、やがて二人の関係性が過去になっていく。笑顔を作って世界を周り、過ごす日々がつまらなかったかと言うとむしろ真逆で、科学王国時代からしても仲が深まったゲンと肩を寄せ合って思い出話をするのも、五年の月日の間に丸く大人しくなったゼノが幼馴染との再会をきっかけにまた口数が増えたのも、普段は煙草をくわえて静観しているのに四人の中で一番喧嘩っ早いスタンリーに慣れていくのも、世界を石に変え、全てを奪い、けれど確かに司の妹を助けた機械生物と明日の天気のことを話すのも、司は楽しかった。何もかも分からない中で命を懸けていた冒険の日々よりは穏やかで、旧時代に生きていたころよりは治安が悪く、でもあの頃よりずっと愛に溢れ、優しい世界のひとつひとつに触れていく毎日が楽しかった。けれど晴れた日に移動のために乗った車の中で十年でも二十年でもこうしていられると思った時……思ってしまった時に、司はふと「ああ、千空に会いたいな」と気が付いてしまったのだった。千空に会いたいな、十年、二十年、彼と会わない生活を続けて過去の人になってしまうのが、何よりも嫌だな。真っ白なテーブルクロスに落ちた、ワインの染みみたいにその気持ちは残って、徐々に広がっていく。
    2312

    related works

    recommended works