手折って騎士様、恋の花 アレインがアデルに恋をしたのは、アデルにとって自分は特別なのだということを知ったからだ。
『殿下はすごいお人だなって……』
酒で赤く染まった頬と溶けた瞳でアレインを褒める、あの姿。アレインはアデルのあの言葉が純粋に嬉しかった。"アレイン殿下"ではなくて"アレイン殿下になろうとしているアレイン"自身を分かって褒めてくれていると感じたからだ。
『ほんとーに頑張ってるなって』
思い出す度に顔が緩む。と、同時にアレインは夢想する。アデルのような兄が居たらどんなに良いだろう。アレインは、本当は兄や姉が欲しかった。ギルベルトやトラヴィスが羨ましかった。アラミスのように弟の前を行き、ベレンガリアのように弟を守る、心の柱が欲しかった。親でもなく、騎士たちでもない、アレインの隣で微笑んで頼りに出来る人が欲しかった。
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