べろべろに呑んだとき見る夢の中でしか月くんに会えない鯉くん このあいだの月島はよかった、と、鯉登は店員を呼びとめて追加の冷酒を注文しながら、ひとつ前に見た夢のことを考えていた。酒をあびるほどのんだ夜にだけ見ることができる夢。場所は七人乗りのファミリーカーで——なにしろ夢なのでロケーションには脈絡がない。ときによってそれは知らない家のリビングルームだったり、よくわからない倉庫だったり、さびれた砂浜だったこともあるし、病院の待合室風だったこともある——、そこで月島は少し乱暴に鯉登を抱いた。ほとんど言葉もなく、けれど何度も髪を梳いた指先が、行為の激しさと裏腹にとてもやさしかった。
鯉登さんはきれいにお酒をのみますね、と、先月(先々月だったかもしれない)の飲み会で誰かが言ったのを思い出す。
そんなものはくそくらえだ、と鯉登は思った。藍色のぐい吞みを一息に空にして、びしょびしょとだらしなく濡れた唇をぬぐいながら。今夜はただ、酔えればいいのだった。けれど何故だか家ではだめで、たくさんの他人の気配の中でひとりでのむのが一番〝よく効く〟のを知っていた。酔えればいいのだから勿論ちゃんとした店である必要はなく、だからそこらへんのチェーンの居酒屋のカウンターでじゅうぶんなのだ。
気が付くと、さっきまで鯉登の隣で一つのカラフェからちまちまと順繰りに酒をのんでいた男女がいなくなっていた。いつ二人が席を立ち、会計をして店を出て行ったのか、鯉登にはまったく覚えがなかった。いいペースだ、と、鯉登はぐらぐらしてきた頭で考える。そろそろ頃合いだ。これ以上酒がまわる前に、会計をしてタクシーを捕まえなくては。