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    kmsskn_p

    @kmsskn_p

    秀鋭や百鋭百などを書くのかもしれません

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    kmsskn_p

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    青い看板のコンビニに出かけ、互いに特に最適でもなんでもないやり取りをしている秀鋭

    無題デザートが並ぶ棚の前で考え事をしていたら、隣に人の立つ気配があった。
    「秀、なにか買うのか」
    「あ。すみません」
    一緒にコンビニに入った同じユニットの先輩が、秀の視線の先を眺めていた。ダンスレッスンの休憩時間にコンビニへ行ってくると立ち上がった鋭心に着いてきたのだった。鋭心の手元をみると、ミネラルウォーターと、振付動画を確認したいからとスタジオに残っている百々人に頼まれた炭酸飲料がジャージの腕に抱えられていた。
    「いろいろあるんだな」
    そう言って棚の中の商品を眺めている。季節柄、かぼちゃや栗、さつまいもなどのフレーバーのもの、ハロウィンを意識したかわいらしいパッケージのものが多かった。この人は果物が好きみたいだけど栗やかぼちゃはどうなんだろうと秀が思っていると、隣で先輩が何か言う。
    「もっちりクレープ」
    え、と顔を上げると鋭心もなぜか秀を見ていた。目が合うと一度瞬きをして、また棚に視線を戻す。
    「雲ふわティラミス」
    パッケージに書かれた文言を読み上げているらしい。それで、言い終えるといちいちこちらを見る。ふむ、と一人で何かに得心した様子でまた視線が分かれていった。生カスタードエクレア。秀はただ、鼻筋の通った横顔を見つめながら折々自分に向けられる眼差しを意図も掴めず受け止めて、いつも通り真面目な声色で気の抜けたかわいい商品名が読み上げられていくのを聞いていた。もちぷよ。いま先輩がもちぷよって言った。
    「ほぼほぼクリームのシュー」
    「あの、」
    秀はそこでやっと声を上げた。というのも、奥から手前へ順番に名前が読み上げられていくデザートの並びの、そこから先がぜんぶシュークリームだった。別にこの先輩は知らないだろうし揶揄うつもりもないのだろうが、小さいころ名前が同じだからと言って祖母がよく買ってきてくれたのを思い出してしまい、すでにむずがゆいような恥ずかしいような心地になっていた。
    「これか?」
    ほぼほぼクリームのシュー、もう一度読み上げながら鋭心は棚に手を伸ばし、ひとつ手に取ると何か尋ねる間もなくレジに向かって歩き出していた。
    一体何だったんだ。そう思いつつも、秀は秀で自分の用事をレジで済ませると、すでに会計を終えてドアのそばで待つ先輩のもとへ向かった。

    「秀」
    さっき聴いた音の響きを頭のなかで繰り返し再生していたところ、名前を呼ばれて隣を見る。すると鋭心が先程のシュークリームをこちらに差し出していた。
    「えっ、それ俺のだったんですか」
    「そういう流れじゃなかったか」
    顔を見合わせるとお互いにきょとんとした表情をしていた。
    「まあ……どうなんでしょうね」
    一から説明するのも少し恥ずかしいので、ありがとうございます、と受け取りながらポケットから財布を取り出そうとする。すると鋭心は手のひらをかざして秀を制した。
    「いや、気にしなくていい」
    「……鋭心先輩。それって口止め料って事ですか?」
    そう言って鋭心の顔を覗き込む。はじめは何のことか分からないというような表情で見つめ返されたが、秀が口元に力を入れて凄むとやがて先輩は苦笑い気味に目を伏せた。
    「お前が心配する必要はない。かすり傷程度だ」
    ほら、やっぱり。内心で秀は息を吐く。休憩に入る直前に全体を一度通して練習したときのことだ。派手に転んだわけでもなく、体勢が崩れてからのリカバリーも上手かったから、曲は止まらず最後まで進んだ。
    「この後の練習にも特に影響は、」
    「俺も先輩に奢られてほしいものがあるんですけど」
    鋭心の言葉を遮って、秀は先ほどコンビニで購入した物を取り出す。絆創膏だった。
    「……俺もさっき同じものを買った」
    「ほら、なんだかんだ痛むんじゃないですか」
    そう言ってずいっと絆創膏の箱を鋭心の目の前に突き出すが、そのまま強引に押し付けるでもなく、秀は腕をもとに戻す。
    「別に、鋭心先輩が俺や百々人先輩に言わないでおこうと思ったことを、無理に指摘したかった訳じゃないんです。すみません。ただ、なんて声かけようか考えてたら流れでこうなっちゃいました」
    何か甘いものが欲しくなってあの棚の前に立っていた訳ではない。レッスンスタジオからコンビニまでのわずかな道すがら、声をかけるタイミングを逃したままなのをどう切り出すべきか考えていた。大丈夫ですかなんて尋ねたら、間違いなく大丈夫だと返してくるだろう。
    「おかげで喧嘩腰みたいになっちゃいましたけど、本当はただ心配っていうか、気になっただけなんで」
    だから貰っておいてください。そう言ってもう一度鋭心の方に差し出してみる。
    「……」
    やはり大きなお世話だっただろうか。深く息を吸い込むと、行きには気がつかなかった金木犀のにおいが風もないのに空気の中に混ざっていた。伏せられた先輩の目元に睫毛の影が揺れるのを見ていたら、ぎゅっと絞ったように胸が痛くなった。普段あんなに落ち着いている先輩がまるで迷子のような顔をしていて、驚いたのと同時に見るべきじゃないものを見てしまった心地がした。
    「あの」
    その後になんと続けたらいいのか分からないまま声をかけると、切長の目が一瞬大きく見開かれて秀に向けられる。それから一つ呼吸を置いて、次に口を開いた時にはもういつも通りの先輩がいた。
    「わかった。ありがたく受け取っておく」
    やっと秀の手から離れていった絆創膏のパッケージを「大切にする」と言いながらポケットにしまおうとする。「そこはちゃんと使ってくださいよ」と咄嗟に文句を言ったら、「自分で買ったものがある。それに使わないに越したことはないだろう」と笑われた。
    そんなふうに話しながら歩いているうちにスタジオの入ったビルが見えてきてしまった。
    「……秀」
    「はい」
    それだが、と秀が手に持ったままのコンビニデザートを目で示す。
    「お前の絆創膏と同じで、考えてみれば俺もただお前に何かしてやりたくなっただけだ」
    百々人に見つからないように食べろよ。そう言って笑う目が優しかった。少し速くなった鼓動を落ち着けるためにゆっくり呼吸をすると、またどこからともなく金木犀が香った。
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    kmsskn_p

    DONE授業で山月記を読んでほんの少し不安になる秀と、むかし虎より厄介な何かだった自分のことを思い返している鋭心の秀鋭
    虎が我にかえるとき「鋭心先輩」

     向こうから一緒に帰りませんかと声をかけてきた割に、黙っている時間が随分長かった。ようやく口をきいたと思っていると、投げかけられたのはこんな質問だった。
    「現国、どんな教科書使ってましたか」
     昨年の春までは鋭心も秀と同じ高校生だった。ただ高校三年までの課程を一、二年生のうちに終えてしまう中高一貫校だったこともあり、当時使っていた教科書の仔細となると記憶がやや曖昧だった。
    「出版社の名前は思い出せないが」
     ポケットから取り出したスマホに「高校、現代文、教科書」と呟きながら入力した秀が画面をこちらに見せてくる。書影を画像検索したらしかった。
    「ああ、おそらくこれだな」
     指し示すだけのつもりだった指が画面に触れて画像が拡大される。うっすらと記憶に残っているものと全く同じではなかったが、見覚えのあるデザインが踏襲されていた。これですね、と秀はスマホを引っ込めて、しばらく指を動かしながら画面を眺めていた。出版社のサイトを見ているらしかった。秀の代わりに前を見ながら歩いていたが、流石に本人の足元までは気の配りようがない。街路樹として植えられている銀杏は根がよほど深く張っているのかあるいは地盤が柔らかいせいなのか、歩道のアスファルトをところどころ隆起させていた。一旦立ち止まるように伝えるべく、しゅう、と名前を口に乗せた瞬間に秀が言った。
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