どんな手を使ってもお前とまだ一緒にいたい【後編】元の時間軸、元の場所に帰ってきた。ジェイドがいる保健室に。
時計を見ると針は6時を指していた。
「ジェイドが呪いをかけられたのは昨夜9時頃でした。あと3時間ほどで24時間経ちます」
「そうか…」
3人それぞれ、ジェイドが横になっているベッドの近くに椅子を置き座る。
「お邪魔しますよ。やはり3人ともここにいましたか。」
学園長が入ってきた。その表情はとても晴れやかだった。
「皆さん朗報ですよ!なんとあの、犯人が呪いの絵を手に入れた店の店員さん、渡した絵は“見ると種族関わらず24時間仮死状態になる呪いの絵”を渡したと言ったんですよ。なんということでしょう!ジェイド・リーチ君は永遠に仮死状態になることなく今日目覚めることができますよ!いやぁよかったよかった!」
そう聞いた俺達は顔を見合わせ笑った。
○●○
夜9時を回った。あの事件から24時間経つ。
ピクッとジェイドの右手が動き、
そして…ジェイドの目が、ゆっくりと開いた。
「…?ここは…?保健室?どうして僕はこんなところにいるのでっ「「「ジェイドーーーー」」」
ジェイドが目覚めたことに感激し、俺達3人は思わずジェイドに抱きついた。話している途中で抱きつかれたジェイドは驚いていた。
「一体何があったんですか?」
すると、見守っていた学園長がジェイドに話しかけた。
「ジェイド・リーチ君。君は昨晩ある男に呪いをかけられ仮死状態になっていたのです。何かの絵を見せられた記憶はありませんか?」
「そういえば…。絵を見たあと急に意識が遠のいて…。なるほど、あれが原因で。」
「危ないところだったのですよ。目覚めて本当によかった。クローバー君、アーシェングロットくん、フロイド君、君達3人は自分の部屋に戻りましょう。ジェイドくんはそのままここにいて休んでいてもいいのですが、どうなさいますか?」
「僕も部屋に戻ります。」
○●○
各寮に繋がる鏡の間。オクタヴィネル寮の鏡の前でジェイドが立ち止まった。
「アズール、フロイド。今日はトレイさんの部屋でお泊りしてもよろしいでしょうか。」
「えぇ、構いませんよ」
「オレも別にいいよ〜。ジェイドと話はしたいけど、今はとりあえず寝たい気分だし〜」
ジェイドがアズールとフロイドに了解を取り、俺もジェイドが泊まりたいというなら断る理由はないから了解した。
ハーツラビュル寮の鏡に入る前に、オクタヴィネル寮の鏡に入ろうとしている2人に声をかける。
「アズール!フロイド!今日は本当にありがとう。俺に協力してくれて…。後でお礼に新作のケーキを持っていくよ。」
俺の声に反応し、2人は微笑んで軽く手を振り自分の寮へ帰っていった。
2人を見届けたあと、ジェイドの手を取りハーツラビュル寮に入った。
寮のキッチンでお腹が減っているであろうジェイドのために夜食を作り、俺の部屋に帰った。
「さぁジェイド、めしあがれ。」
「ふふ、ありがとうございます。いただきますね。」
ジェイドは俺が作ったサンドイッチを1つ取り口に運んだ。
「美味しい。お腹が空いていたので助かりました。…ところで、もしかすると学園長がお話していた事とは別に、何かあったのではないですか?例えばアズールとフロイドとトレイさんの3人で何か大きな事をやり遂げた…とか。」
やっぱりジェイドはさっきの会話を聞き逃さなかったか。落ち着いてから、と思っていたが本人が希望しているため話すことにした。
“見た人間の命を奪う呪いの絵”を見せられたジェイドは、幸いにも人魚だった為死は免れたが仮死状態が永遠に続く状態だったこと。ジェイドを助けるためにアズールとフロイドと一緒に過去の時間軸へ行き、犯人が取引した店員へ俺がユニーク魔法を使って“見た人間の命を奪う呪いの絵”ではなく“見ると種族関わらず24時間仮死状態になる呪いの絵”を犯人に渡すようにしたこと。
全てを話した。
「そうだったのですか。後でアズールとフロイドにもお礼を言わなくては。」
そうジェイドは言うと、持っていたサンドイッチを皿に置き、左手を胸元に添えた。
「トレイさん。助けていただきありがとうございました。またこうして一緒に過ごすことができて僕は幸せです。これからもよろしくお願いしますね。」
「!あぁ、こちらこそ。」
ジェイドは微笑んで皿に残っているサンドイッチに手を伸ばし食べ始めた。たくさん作ったサンドイッチがなくなった後、俺はジェイドからベッドに横になってほしいとお願いされた。
「実は僕まだ眠くないんです。なのでこれから僕がトレイさんに子守唄を歌って差し上げますのでゆっくりお休みになってください。」
「えっ」
あれよあれよと誘導されて俺は横になった。するとジェイドはベッドの傍らに腰掛け、俺の頭を撫でながら歌い始めた。頭を撫でられる心地よさと、優しい歌声で俺は眠ってしまった。
○●○
「〜♪
まさか僕がトレイさんより先に死んでしまうところだったなんて……おやすみなさい。トレイさん。」
ジェイドはトレイが眠りについたことを確認したあと、あの事件の時のことを思い起こしながら、そっとトレイの隣に横になった。
ーーー
ーモストロラウンジ 21:00ーー
「すみません。ちょっと。」
「はい。ただいまそちらへ向かいます。」
ジェイドは、何故か中々帰ろうとせずに今やっと自分を呼んだ客に対して、バレないように心の中でため息をついた。
一般公開日の今日。特に客の数が多かった。アズールが機転を利かせて、ラウンジの利用時間を1時間毎の時間制にしたおかげで、なんとか何もトラブルなくここまで営業できた。他の客は既に帰っている。その男が最後の客だった。
やっと終わると思った瞬間、ジェイドはトレイのことが頭に浮かんだ。翌日の10時にトレイと待ち合わせをしているのだ。明日の今頃自分は意気揚々と準備をして早めにあの時計台へ向かい、普段通り早くに着いて愛しい恋人を待つのだろうと考えていた。
そしてメガネをおもむろにかけ始め何かを服のポケットから取り出している客の様子を見て、あぁトレイさんとおそろいのメガネを用意するのも悪くないな等と考えてしまうくらいに恋人のことで頭がいっぱいだった。
「お待たせいたしました。」
「すみませんね。ちょっと確認してほしいものがあるんですけど…」
もしやこの客、さっきから笑みを浮かべているが何か取引をしようとしているどこかの業者の方がとジェイドは思い、身体を屈めて顔を近づける。
すると男性客は手元の封筒から絵を取り出しジェイドの目の前に出した。
それを見た瞬間、ジェイドはその場で倒れた。
ジェイドは意識が遠のく中、男性客の怒鳴り声が聞こえたような気がした。
ジェイドの意識はついになくなった。
そして24時間後、ジェイドは保健室で目が覚める。
○●○
あの事件から数週間が経った。
待ち合わせの場所に向かう途中、ジェイドから
[寮でトラブルがありそれを解決するのに時間がかかってしまいました。少し遅れます。]
と、メッセージが入った。
[わかった。いつものところで待ってるから気をつけて来いよ]
と返信し時計台へ向かった。ベンチに座って待つことにしよう。
「トレイさん」
俺を呼ぶ声に顔をあげると、俺と目線が合うように身体を屈めて微笑む愛しい恋人の顔が目の前にあった。
「大変お待たせしてしまい申しわけっ…」
謝罪しながら身体を起こしたジェイドに俺も立ち上がってつい抱きしめてしまった。不意にあの日のことを思い出してしまったから。ジェイドがいる。助けることができて本当によかった。本当に…!
「おやおや…。熱烈に抱きしめられてしまいました。ふふっ。」
いきなり抱きつかれたにも関わらず、ジェイドは優しく抱きしめ返してくれた。
「トレイさん。今日は一緒に行きたいお店があるんです。」
「あぁ、一緒に行こうか。ジェイド。」
「はい!」
地面にはジェイドを抱きしめた際に落としてしまった本。少しついてしまった砂をはたいてそれを鞄にしまい、ジェイドと並んで街の中を歩いていった。
End