僕の愛を受け取って【前編】ラウンジの買い出し中にふと海が僕の目に入り、人魚の姿に戻って泳いだ。すると、魚が目の前を通った。
「ちょうど良かった」
僕はそれを1匹、また1匹と捕まえては食べを繰り返し小腹を満たした。
満足したため浜辺に上がろうとしたとき、男の声が聞こえた。
「人魚がここにいるってのは本当かぁ」
「間違いありません!この前ここで見たってやつがいるんですから!」
「人魚の肉は高く売れるらしーですね。あーでも、自分で食べて不老不死ってのもいーな。」
岩場の影から様子を見ると、男が3人いた。
人魚を食べて不老不死とは。人魚を捕まえるのは法律違反だというのになんて馬鹿な人達。あの人間達は僕達人魚の敵。海に引きずり込んでやろうか。しかし相手の持っている能力、武器を知らぬまま手を出すのは分が悪い。そう考え人間の姿になった。
あの人魚狩りを企んでいる男達が去ったあと、自分が置いた荷物を取りに行ったがあるはずの物がなかった。
「あぁ。こうなるならラウンジに転送するべきでしたね。」
幼馴染みになんて嫌味を言われるか。やれやれと思っていると、死角から魔法で攻撃された。
「…っ!」
足が痛む。血の匂いがする。
魔法が飛んできた方向を見るとさっきの男達がおり探していた荷物を持っていた。やはり犯人はあなた達ですか。すると先頭にいた男が話しかけてきた。
「よぉ兄ちゃん。ここらで人魚を見なかったか?」
「さぁ。見ていませんね。」
「嘘じゃあねーだろうなぁ」
「えぇ。」
嘘ではない。僕は人魚は見ていない。僕自身は人魚だが。
「でも俺達の話を聞いちまった可能性があるなぁ。可哀想だがここで死んでもらう。」
男が攻撃態勢になった。
そちらがその気ならと僕も構えようとしたとき叫び声が聞こえた。
「こっちです!警察官さん」
それを聞いた男達は舌打ちをして逃げていった。
何を恐れることがあるのか。気配は1人分。それが叫び声の主ならば警察官などこちらに来ていない。少女が走ってきた。ほらやはり、さっきのははったりだ。
「あの!大丈夫ですか?」
少女が自分に話しかけてきた。微笑んで大丈夫ですよと答えようとしたら、少女が目を丸くして驚いた表情を見せていた。
「足から血が出てますよ!手当しないと!」
「大丈夫ですよ。かすり傷なのでこのくらい治せます。」
魔法で自分の怪我を治す。するとその少女はキラキラと目を輝かせてその様子を見ていた。魔法を知らないのか?
話を聞くと、その少女はユウという名前で魔法が使えないことが分かった。魔法が使えない方がいらっしゃるとは珍しい。養子で、義父のお手伝いをしながら過ごしているらしい。そして妖精や獣人とは最近初めて会ったと言う。
「ふふっ。では人魚にも会ったことないのでは?」
話しているうちに彼女のことをもっと知りたくなりつい聞いてしまった。
「人魚もいるんですかすごいなぁ。会ってみたいです。」
彼女は微笑んだ。それを見て僕は心が温かくなった。これはもしや、僕は彼女に惚れてしまったようだ。
「よろしければ人魚に会ってみますか?」
「いいんですか」
「えぇ。ですが今日はもう学園の寮に戻らなくてはなりませんので、明日またこの場所で僕とお会いしませんか。」
「はい!うわぁ、楽しみです!」
笑顔の彼女を見て自然と自分も微笑む。
「ではまたこの場所で」
そう言ってその場を去った。
明日彼女は僕が人魚だと知ったらどんな顔を見せてくれるだろうか。
○●○
寮に向かう間も、アズールから海で小腹を満たしている間に荷物を取られた件について小言を言われている間も、彼女のことで頭がいっぱいだった。
「ジェイド、なんかいいことあった?」
「えぇフロイド。とっても良いことが。明日僕はでかけてきますね」
「げっまた山でキノコ取ってくる気」
「ふふっ。今回は海です。」
「へー。まぁ気をつけて行ってきなよ。」
「はい。」
部屋でフロイドと話したあと、早く明日が来ないかと思いつつ眠りについた。
○●○
彼女が待っているであろう浜辺へ向かう。
あなたは人魚を見て、僕を見て何と言ってくれるだろうか。ワクワクしながら歩いていると、彼女の後ろ姿が見えた。
「ユウさっ………えっ。」
僕は信じられないものを見てしまった。彼女は1人ではなかった。あの人魚狩りの男達と一緒だったのだ。
仲間だったのですか?
違う違う!きっと間違いだ!そんなわけない!
そっと隠れて耳をすませる。
「……人魚…ここに…だろ?」
「早く……来て…人魚を捕まえる…」
あの男の声。そして彼女の声…。
裏切られたのだ。僕は彼女に裏切られたのだ。
嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき!
許さない許さない許さない許さない許さない!
なんて愚かな自分。会ったばかりの人間に心を奪われるなんて。騙されて…。どうして…。
先程まで温かかった心は急激に冷えていった。
○●○
その後どう戻ってきたか分からないが気づいたら自分の部屋にいた。
怒りと悲しみ、そして恨みを抱えながらベットに座っていた。
部屋のドアが開いて、フロイドが入ってきた。
「うわっ、ジェイドめっちゃ殺気立ってんじゃん」
「…フロイド。」
「なになに。ジェイド今朝あんなにルンルンで出て行ったのに〜。」
「…裏切られたんです。」
「はぁ?」
フロイドに全てを話した。昨日の夢のような出会いから、今日の地獄のような光景まで。
「ふーん。で、ジェイドはどうしたい?オレはジェイドの味方だよ。」
「…僕は。」
「…なんかオレもその子に会ってみたくなっちゃったかも〜。案内してよ〜。ついでにそのニンギョガリって奴らと遊びたい気分〜。」
「フロイド。」
「いつまでうじうじしてんの?ジェイドらしくねぇよ。普段なら慎重に事実確認して行動するだろうが。何やってんだよ。まぁジェイドがその子を殺したいほど憎んでいたとしてもオレは別にいいけどさぁ。もしそれが間違いだったらどうするわけ?オレはジェイドが後悔してこの先屍みたく生きる姿を見んのはすげーつまんねー。」
フロイドに言われて考えた。彼女を恨み絶対に許さない気持ちと、彼女をまだ信じたいし愛したい気持ちが同時に存在している。今冷静に考えると、あの会話も全てではなかったのかもしれない。
一縷の希望。一筋の光。僕の中に残る彼女への愛。それにかけてみようではないか。
僕は立ち上がって片割れに声をかけた。
「フロイド。よろしければこれから行きませんか。」
「あはっ。いいよ〜。」