ウオ×スカ/2頭がクラクラする。
痛くは無いけど、脳みそが遠い所に行っちまってるような…エレベーターに乗った時みたいなよくわかんない浮遊感みたいな……
クラクラよりはボーッとの方が表現は近いかもしれない。
それに、何だか落ち着かない。
尻尾も俺の意志とは関係ナシにブンブン揺れて、正直根っこの方が痛くなってきた。筋肉痛になりそうなレベル。何だよ尻尾筋肉痛って。
心臓の音もうるさくて、ぞわぞわする。
緊張する事なんて何も無いのに、大金がかかったクイズ番組か何かのCM明けの解答を待ってる気分だ。
…………な〜んて自分の心境をつらつらと語ってるけど、もう限界だ。
冷静になんてなれない。
何でって?知らねぇよそんなもん。俺が聞きたいくらいなんだ。
あぁもう、なんか身体がガクガクする……
大声で叫び散らして走りたいけど、口から漏れるのは何故か吐息ばかり。走ろうにも、脚が震えてるし動く度にゾクゾクする。
ぶわ〜って血管の中を耳かき棒の後ろについてる……何だっけ、ぼんなんちゃら……が駆け巡ってるみたいな感じ。
震える身体に鞭を打って、普段なら歩いて5分しか掛からない寮への帰路は、今日は急いだつもりでも15分近く掛かった。
……どうしよ、これ…………。
あぁ神様。アタシに凄く良い、イチバンでカンペキな解決法を教えて下さい。
自分のベッドで寝転がって英単語帳を捲ってるアタシを他所にウオッカが何やらもぞもぞしてる。
時折、「うぅ」だとか「あぁ」だとか聞こえるけど、そのどれもが苦しそうで……助けてあげたいけど、解決策が見当たらないのだ。
今日のトレーニングを終わらせて部屋に帰ってみれば、ウオッカはベッドに座り込んでいた。
それだけ聞いたらなんて事無いけど、異常だったのは他の事。
玄関から一望出来るベッドには、ズボンと下着を下ろして、下半身を露出したウオッカがそこにいた。
最初に感じたのは、『一人部屋じゃないのに何してんのコイツは』だった。
気不味い現場に遭遇してしまった……と頭を抱えていると、ウオッカから声が掛かった。
「なぁスカーレット……お前に聞きたい事があるんだ……」
珍しく弱気な態度に逃げ出す訳にもいかず、距離を取ったまま話の続きを促した。
「何よ、聞きたい事って」
「えっと…その……、お前、さ。股から、何か……変なドロドロしたやつ、とか、出た事あるか……?」
「……はい?」
「なんか止まんねぇんだよ、このドロドロ……拭いてもすぐ出てくるし…………これ、何かの病気だったりしないよな……?」
「…………多分病気じゃないからとりあえず下着とズボン履きなさいよ」
───ここまでがさっきの回想。
それからのウオッカの態度を見るに、恐らくアイツは『発情期』だ。
一言で言っても、その症状が出る娘もいれば出ない娘もいる。すぐに収まる娘もいれば長期間続く娘もいる……
ウオッカはどうやら症状が重度な娘らしい。
耳をぺたんと垂らして、鼻息も荒いし、顔を真っ赤にしてずっとそわそわしてて落ち着きが無い。
アタシはウオッカを苦しみから解放してあげる術を知らない。
…………いや、正直に言うと知ってる。
一人で発散する方法を教えてやれば良い。
でも流石に……そんな事を友人に、しかも同室の娘に教えてあげられる程の経験も無ければ度胸も無かった。
ウオッカは未だにもぞもぞしている。
それは『いたしている』動きじゃなくて、単に落ち着かないから、手を擦り合わせたり頬をつねったり首の後ろを掻いている動きだ。
……教えてあげられる度胸はなくても。
苦しんでいるウオッカを、そのままにしておけるほどの酷い心も持ち合わせていないのだ。
せめて、気を紛らわせてあげることくらいは………………
「…ねぇウオッカ」
「……あ?」
ふるふると震えながら布団から顔を出したウオッカの額には、うっすらと汗が滲んでいる。
「アンタ、いつからそうなっちゃったの?」
「………今日、の、放課後のトレーニング中、からだと思う…」
「トレーナーは?何か言ってた?身体を触られたりしてない?」
「え、と……体調が悪そうだから、今日は早めに帰れって…………それと、確か、出来る限り誰かに見つからないように帰れ、とも……背中をさすってくれたけど、それ以外は何も……」
「……ふぅん」
そのセリフから察するに、ウオッカのトレーナーは、ウオッカの状態に気付いてる。
発情してる娘を襲わない紳士な人だってわかったら、少し安心出来るかも。
……にしてもどんな心の持ち主なのよ、ウオッカのトレーナーは……
涙目になって顔を真っ赤にして、荒い吐息を漏らしてもじもじしている女の子(ウオッカ)に手を出さないなんて…………繁栄本能死んでるのかしら?
……まぁ、未成年に手を出すような男にもドン引きだけど、ここまで来たらウオッカの事をちゃんと女の子だと認識してるのかすら危うくなってきたわね……
「……ほら、苦しいんでしょ?こっち来なさい」
ちょいちょいと手招きすると、ウオッカは身体を震わせながら大人しく私の隣に腰掛けた。
両手人差し指の爪が伸びていないことを確認して、ウオッカに正面から向き合う。
そして
「……おま、何す──あっ…………」
両人差し指をウオッカの両耳の中に突っ込んだ。
コソコソと第一関節だけ動かすと、ウオッカはオーバーな程ビクビク震える。
コイツは耳が弱いのはもう知ってる。
……でも冷静に考えてこんな事だけで解消出来るのかなぁと不安もあったけど、むしろこっちが恥ずかしくて逃げ出しちゃいたいくらいには効果てきめんだったらしい。
今度はうぶ毛がうっすら生えてる耳のフチを親指と人差し指で挟んで優しく擦ってみた。
「……どう?」
ずっと無言なのも恥ずかしいから声を掛けてみたけど、これなら声なんて掛けない方が良かったかもしれない。
「どう、って、言われても…よくわかんねぇ……なんか…ぞわぞわする………」
こんな性知識小学生2年生のウオッカちゃんに感想を聞く方が間違ってた。
でも嫌がらないってことは案外悪くないと思ってるのかも。
顔もさっきの苦しそうな顔とは一変して、リラックス──してる訳じゃ無いけど、顔はとろーんと緩みまくっている。強いて言えば顔が真っ赤なのが変だけど。