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    bin_tumetume

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    年齢操作。ルームシェア。冬←彰

    ##ワンドロ

    毒にもなれない とぷん、とぷん。
     くつくつと煮立った鍋に、割った板チョコのかけらを幾つか投入する。美味しくなあれ……なんて唱える柄じゃあないが、ニンジンの入っていないカレーでも不満ひとつ口にせず美味しいと目を綻ばせる冬弥を思い浮かべて、喜んでくれれば良いなとか考える。
     甘ったるいチョコの匂いは、より濃いカレールーの香りに隠れていった。あーあ、オレの報われない片思いもこうやって溶けて消えて無くなったら楽だったのに。

     冬弥とは、高校を卒業してすぐにルームシェアをした。お互いに早く家から出たい身だったし、コイツの家事レベルが心配すぎて一人暮らしをさせるのに不安を感じたのもある。
     と、いうのは便利なタテマエで。本当は、大学でさぞモテるだろう冬弥に女が出来ないようにする牽制だった。一人暮らしとルームシェアじゃ、付け入る隙が段違いだ。
     自分でもみみっちいと理解はしている。でも、さすがに学びたいことが違ったので、大学は別々にするしかなかった。そうなれば、高校の時のようにベッタリとはいかない。
     冬弥ほど性格も顔も良ければ引く手あまたというのは、高校の時に嫌というほど理解した。あんなにオレと一緒に居たのに、それでも冬弥が告白で呼び出された回数は片手じゃ足りない。
     高校時代もそんな有様だったのに、大学生になって、一人暮らしで、家事はあまり出来なくて……なんて言えば、女を家に上がらせる格好の口実を作ってしまう。高校の時は目指す夢があるからと告白を断り続けていたようだが、世の中には既成事実という言葉がある。きっと純粋な冬弥には思いつかないんだろうが。
     だってオレのこと、全然疑わないんだ。男同士でルームシェアする相手が下心を持ってるなんて、想像も及ばない世界に生きてるんだろう。冬弥は同性同士の恋愛なんて無関係な世界で生きていく。いつか彼女が出来るまでなんて、ちょっとでも時間稼ぎをしようとオレが小狡い手で藻掻いていることなんか、お前は一生知らないでいてくれ。

    「今日はカレーなのか」
     鍋を火にかけながら、付け合せのサラダを準備していたらコート姿の冬弥がマフラーを片手にキッチンへとやってきた。夕飯は早く帰ってきた方が作る。オレたちのルームシェアをする上でのルールだ。
     まあ、今日のように翌日オレが遅くなりそうな日にはカレーだのシチューだのを多めに作っておいて、冬弥の調理の負担を減らすようにしている。何しろ、大分マシな手付きになってきたとはいえ、見ていないところで冬弥が一人で包丁や火を扱うのは怖すぎるので。
    「ああ。多分、明日はちょっと遅くなるかも」
    「用事か?」
    「まあ、そんなとこ」
     バレンタイン当日に会いたいと、何人かに声をかけられたのを後回しにしたツケだ。まあ、当日はムリだと断った時点で、ある程度の結果は察してくれているだろう。それでも会うのは、用意された甘いものたちに罪はないからだ。
    「分かった。帰る時間が分かったら連絡してくれ」
    「おう。お腹空いたら先に食べてていいからな」
    「……ああ」
     あ、この間は分かってねえやつだな。何しろコイツには前科がある。遅くなるから先に食ってろって言ったのに、ポツンと食卓に座って待っていたのだ。あまつさえ、彰人と一緒じゃないと味気ないとか言い出す始末だ。どれだけ期待したくなったことか。
    「そうだ、彰人」
     冬弥が手元で何かゴソゴソと音をさせたかと思ったら、四角い箱が差し出される。シックな青い色味の箱に、チョコレートブラウンのリボンがかけられている。
    「コンビニのもので悪いんだが」
    「は……?」
     冬弥からのバレンタインチョコレート。喉から手が出るほど欲しかった夢のような存在が実在して、いま目の前に差し出されている。受け取るために伸ばした手は震えてはいないだろうか。
    「いつも世話になっているお礼だ。受け取ってほしい」
    「……ああ、何かと思ったじゃねーか」
     ヘラリ、と口を緩めることが出来たのを誰かに褒めてほしいくらいだった。
     ……なんだ。そうか、ただのお礼か。
    「悪い、オレ何も用意してねーわ」
    「構わない。俺が彰人に渡したかっただけだ」
    「ありがとな。食後にコーヒー入れて、一緒に食おうぜ。ほら、もうメシ出来るから、さっさとコート脱いでこいよ」
    「ああ、そうする」
     冬弥を都合よくキッチンから追い出して、ほうっと息をつく。打算で始めたルームシェアだったが、今のようなことがある度に期待して、その度に隠した恋心に自分で釘を刺さなくてはならないから困る。
     ああ、チョコの香りがバレなくて良かった。アイツとオレとじゃ、チョコに込めた想いの種類が違うから。
     オレの恋心は本人の知らない間に腹の中に収まって、身体中を犯す毒にもなれずに消えていくだけでいい。

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