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    bin_tumetume

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    ワンドロお題「年齢操作」「シャツ」「匂わせ」

    ##ワンドロ

    『23×14』「う」
     ずしり。遠慮ない重みに潰されて、意識が覚醒する。潰れたカエルのような声は自分のものだ。布団の向こうから朝日の気配と、鳥の囀りが聞こえる。
    「とーおーや、さん。朝ですよ」
     唸って抗議してみても、寝室への侵入者は気にする様子もない。声変わりが終わったばかりの少年の声が、体の上から降り注いでくる。恐ろしいことに、徐々に慣れつつある朝の行事に降参の声をあげた。
    「分かった、起きる。起きるから退いてくれ、彰人」
    「ええ?」
    「なんで朝からそんなに元気なんだ……」
    「部活の朝練で早起きは慣れてるから?」
     半身を起こすと、俺を跨いで寝そべっていたらしい彰人が不満そうな声をあげた。起こしに来たのは彰人本人だというのに。しかし、そこには朝一番で視界に入れるには刺激の強い光景が拡がっていた。
    「……なんて格好をしているんだ」
    「え、彼シャツ?」
     サイズの合わないシャツ一枚を身につけて寝転ぶ彰人は、無防備に肩と脚を晒しているのが目に毒だ。彼シャツと言うからには俺のシャツなのだろうが、まだ中学生の彰人には大きいらしくダボついている。部活で焼けたと言っていた日焼け跡がサッカーのユニフォームの形に残っていた。
    「どうです? ドキッとしました?」
     胸板に頭を預け、からかっているのかニヤニヤとこちらを見上げてくる彰人は楽しそうだ。いわゆる萌え袖と呼ばれる状態の手を口元に当てているが、目元が笑っているのを隠せていない。
     互いの両親が芸術家であるせいか、母親同士の気が合うのか、父の仕事の関係で両親ともに遠征に行く度に一人になってしまう俺は、時々東雲家に厄介になっていた。その家の子が、この彰人だ。九つ年下の彰人に懐かれたのは、ちょうど俺が今の彰人くらいの歳の頃だ。
     彰人は体を動かすことが好きであるせいか、絵名さんという姉がいるにも関わらず、兄が欲しいと嘯いていた。俺が泊まらせてもらう時は風呂も一緒、寝る時も一緒というべったり具合だ。俺も末っ子だったから、本物の弟のように懐いて来てくれるこの子を憎からず思っていた。
    「……その格好でいたら風邪をひくぞ」
    「そんだけ?」
    「それ以外にどう反応をしろと言うんだ」
    「なんかもうちょっとさあ、目を逸らすとか、欲情するとか!」
    「男子中学生の体にか? 俺を犯罪者にでもするつもりか」
    「ちぇー……」
     それがどうしてか、思春期に入ったこの子は俺のことを好きだと隙あらばアプローチをかけてくるようになった。
     社会人一年目を迎えて実家を出たはいいものの、今度は家に入り浸られるようになってしまった。彰人のお母様からも、冬弥くんのところなら安心ねなんて言われてしまう始末だ。
     一番悪いのは、ねだられて拒否することも出来ずに合鍵を渡してしまった自分自身だとは重々承知しているが。
    「彰人。何度も言うが、そんなに煽って、何かあってからじゃ遅いんだぞ」
    「ナニカって何? オレは冬弥さんとならいいもん」
     拗ねたように頬を膨らます彰人に、くらりと頭が揺れる感覚がする。子供扱いをしたい訳じゃないが、子供には大人の言い分が伝わらない時は往々にして存在する。
    「彰人が良くても俺は良くない」
    「なんすか、それ。意味分かんない」
    「俺は彰人のお母様とお父様から信頼されて彰人を預けられている。それを裏切ることは出来ないという意味だ」
    「母さんも親父も関係ないだろ」
    「ある。彰人は未成年だ」
    「冬弥さんのけち! わからず屋!」
    「そんな子供みたいなことを言っている間は相手にする気はない」
     まったく俺の上から退く気配のない彰人の両脇を掴んで、横によける。まるで伸びる猫のように軽々と持ち上げられてしまう体はまだ成長期も終えておらず、俺とは二〇センチくらいの身長差がある。
    「絶対、冬弥さんの身長抜かしてやるからな……」
    「楽しみにしている」
     ベッドに不時着させられた彰人が、悔しそうに足をバタつかせる。その度にオーバーサイズのシャツが翻って、ハラハラさせられた。
    「……でもオレ、この間クラスの女子に告白されたもん」
    「そうか。可愛い子だったか?」
    「冬弥さんの方が美人だった」
    「九つも年上の男と比べるな」
    「無理。オレが好きなのは冬弥さんだけなのに」
    「それは大変だな」
    「他人事みたいに!」
     まったくもって他人事じゃないのはよく理解している。だから、勝手に人の枕を奪って顔を埋める少年の剥き出しの項に、顔を寄せた。
    「ん……っ、いっ、何?」
    「さあな。ほら、着替えて朝食にするぞ」
    「ちぇっ、はあい」
     キスマークを付けられる感触も知らない子供に、手を出す訳にはいかないこっちの身にもなって欲しいものだ。
     これが思春期特有の身近な大人への憧れを恋と勘違いしているだけだったらどうしようかと、焦っているのは俺の方だというのに。せいぜい、この嫉妬と牽制の印が見つかった時に慌てるといい。
     俺もそんなに我慢の出来る大人じゃないと、この子が俺くらいの歳になれば分かってくれるんだろうか。
     ……なんて、まだまだ先は長そうな未来に思いを馳せた。

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