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    bin_tumetume

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    bin_tumetume

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    書き納めに。

    『来年もよろしく』 お互いの気持ちを確かめあって、これからもずっと一緒にいようと誓いあった。彰人との関係に恋人が追加されてから早一ヶ月。
     それから、少しくすぐったいふわふわと浮ついた気持ちはありながらも、それまでとほとんど変わらない日々を過ごしていた。学生生活に、歌の練習に、イベントに、作曲に。俺たちが普通の学生よりも忙しくしていたせいというのも、もちろんあるだろう。でも、学生ができるような、デートとか少し距離を詰めるだとかの恋人らしいことは、俺と彰人からしたら付き合う前からしていたこととあまり変わらなかった。深夜の一人きりの自室で恋人同士がすることを調べてみて、付き合う前から距離感が変わらないことに一人で照れ臭い気持ちになったのはここだけの話だ。
     ひとつ挙げるとするならば、手を繋いだことだろうか。彰人はあまり手袋をする習慣がない。着るものに拘りがあるから、手袋にも妥協はできないのだろう。今年の冬もカイロで凌いでいるようだった。それを口実に片手を掬いあげてみたら、そのままぽかぽかの彰人のポケットに招き入れられてしまった。そういうことがさらっと出来てしまえる辺り、本当に彰人は格好良い男だと思う。
     ただ、年が変わる区切りの前にというのもおかしいが、そろそろもう一段階進んでもいいのではないかと思うことがある。ただ、このペースが彰人にとって早いかどうかが分からなかった。俺は、許されることならば唇で彰人に触れてみたい。その味は、感触はいったいどんなものだろう。でも、彰人が嫌がるようなことを無理強いもしたくない。
    「上の空」
     思考の海の中に揺蕩っていたのがバレたらしい。彰人の声ではっ、と現実に引き戻される。二人きりでこうして会えるのは年内最後だと惜しむように人気のない夜の公園でひっそりと逢瀬を重ねていたのに、その相手がぼうっとしていれば敏い彰人でなくとも気がついて当然だった。頭の中は彰人のことでいっぱいだったとはいえ、放置してしまったようで申し訳なくなる。
    「あ、すまない……」
    「別にいいけど。なんか悩みごとか?」
    「いや、悩んでいると言うほどのことでも……」
     ない。とも言いきれないまま、視線だけは未練がましく彰人の唇を追ってしまう。さっきリップを塗り直していた唇は、充分な湿度を保ってふっくらとしている。彰人はこんな体のパーツのひとつですら魔法のように俺を魅了して止まない。血色のいい唇から目を離せないまま観察していると、そこが歪んではあっと白い息と共に溜息が吐き出される。しまった、またやってしまった。
    「す、すまな……」
    「あのな」
     俺の口が謝罪を紡ぐのを防ぐように、彰人が喋りだす。珍しいことだ。彰人の片手がふわふわな自身の後頭部に添えられる。
    「べつに、お前がしたいならオレは嫌じゃねえからな」
     への字に歪んだ口に、顰めた眉。逸らした瞳。表情はどれも怒っているようなのに、寒さだけでなく真っ赤になった頬のせいで全部台無しだった。
     表情の可愛らしさに目を奪われてしまったが、言っていることも大概だ。それはつまり。
    「……あの、キスをしても、いい、ということだろうか」
    「い、いちいち聞くなよ……」
     どんどん顔を俯かせていってしまうと、もこもこしたネックウォーマーに口元が埋もれてしまう。手を繋ぐときはスマートだったのに、さすがにキスは恥ずかしいらしい。彰人も自分と同じく経験が無いのが分かってほっとした。
    「……ふふ。でもそれじゃあキス出来ないぞ」
    「お前なぁ……、ん!」
     じとりと睨むような表情も、すぐに瞼が閉じられてしまう。くるくる変わる表情はいくら見ていても飽きることがない。しかし、ヤケクソのような勢いでつんと少しだけ突き出した唇をこちらに向けられてしまったら、途端にドキリと心臓が跳ねた。
    「い、いいのか」
    「いいって」
    「す、するぞ……?」
    「どーぞ」
    「わ……かった……」
     正しくキス待ちと呼ばれる状態で目を閉じていてくれる彰人の両肩に置いた手が、緊張で震えている。彰人もそれを感じ取ったのか、くふ、と鼻から息が漏れる。なんとか笑いを堪えたらしい唇がもにょりと動いた。悪気がないのは分かるが恥ずかしさからついムッと負けん気が沸き起こる。
     そっと近づけて、ちょん、と唇同士が触れ合う。さわった! と認識した瞬間には唇を離していた。
    「……っ、くふ、なに、いまの」
    「……キス、だが」
     ふるふると肩を震わせる彰人は笑っているのがもう隠せていなかった。だって、数センチしか離れていないのだから笑うたびに吐息が俺の口に当たっている。楽しそうな顔は可愛いけれど、今はちょっとだけ憎らしい。
    「はぁ……、ほんと、かわいーな、おまえ」
     彰人だってさっきは顔を真っ赤にしていたくせに。そんな俺の反論は彰人の唇によって防がれてしまった。口を口で食べられるように、さっきよりもしっかりと重なり合う。すぐに反論なんてどうでも良くなって、その感触に溺れてしまう。柔らかくて、しっとりしていて、彰人の味がして……それからあたたかい。もっと欲しくて腰を両腕で抱きしめると、驚いたように彰人が腕の中で距離をとった。
    「ちょ、ここ、外だって。これ以上はマズイ」
    「……それを彰人が言うのか」
    「悪かったよ。……オレもテンション上がってた」
     とんとん、と宥めるように背中を叩かれてしまったら、もう何も言えなくなって彰人の肩に額を擦り付けた。
    「……もっとしたい」
    「つぎ出来るのは来年だな」
    「早く年があければいいのに……」
    「無茶言うなって」
     こういう時、どうして自分がまだ学生なのだろうかともどかしくなる。お互いの家には他の家族が居て落ち着かないし、もっとゆっくり二人きりで過ごせる場所があればいいのに。
    「冬弥」
    「ん?」
    「来年は、もっとすごいの、しような」
     こそりと耳打ちされて、頭の中をすごい勢いで恋人同士がすることのあらゆる知識が駆け抜けていく。
    「彰人っ」
     ぎゅうっと抱きしめる腕に力が篭ってしまう。叱りつけるように名前を呼べば、腕の中の愛しい存在はケラケラと無邪気な笑い声をあげた。こんな調子では、悶々とする煩悩が年末の除夜の鐘で消されるたび、新たに湧き上がってくるんじゃないかと心配になってしまった。
     それでも、来年以降もずっとずっと彰人とこうして過ごせることは楽しみだった。
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