『BADDOGSのこたつ詰め~みかんを添えて~』「ん」
「あっ、タンマ!」
こたつで温まった体をぎゅうぎゅうと寄せ合いながら、二人とも視線はテレビから外さないままだ。年始の恒例になった番組が、同居中のリビングを賑わせている。
冬弥はこの番組を見るのが初めてらしく、オレの家では恒例だった家族でどっちが正解かをテレビの前で予想しながらという視聴方法に随分と興味を持ったようだった。普通のクイズ番組ならこうはいかないので、それが楽しかったのもあるんだろう。
ダンスでプロチームを見極める回では二人してプロの動きに見入ったり、食べ物で出題された高級料亭に冬弥が連れて行ってもらったことがあると言い出して、実家のランクの違いを思い知らされたり。これまで出題される問題の回答を思い思いのタイミングで口にしながらそれなりに楽しく視聴していたが、とある問題を前にしてオレはそれに待ったをかけた。
「どうした?」
「オレが答えるまで正解は黙っておけ」
画面には弦楽器とピアノが映し出されている。毎年音楽系の問題が必ず一問は出題されるが、よりにもよって今年は六重奏らしい。
ピシッと人差し指を冬弥の口の前に突き立てると、分かりやすく困惑した表情を見せた。
「正解って……、別に俺の出した答えが合っているとは限らないだろう」
「お前がこんな問題を外すわけないだろ」
何をとぼけたことを言っているのか。謙遜にも程がある。クラシックの現役を退いたと言っても、冬弥の耳をこの程度の問題で誤魔化せるわけがない。そしてそんな冬弥の相棒なんだから、オレだって専門外とはいえ間違える訳にはいかねえ……! より気合いを入れてテレビの音を拾おうと前のめりになって耳をすます。
「ふふ」
「……どうした?」
「いや、嬉しいものだなと噛み締めている」
「何を?」
「相棒として信頼して貰えていることを実感するのは、何度体験しても嬉しい」
そんなことを言われてしまったら、テレビに集中するなんてとても無理で、つい冬弥に視線をやった。が、それも失敗だった。例えるなら、極上カスタードのとろけるプリン。こたつに入ってるせいだけじゃなく上気したほっぺたに、甘ったるい微笑みを浮かべた冬弥の顔には嬉しいと明確に書かれていた。こんなに気の抜けたふにゃふにゃの笑顔を浮かべている男が、数年前まで表情が乏しいと言われていたなんて誰が信じるだろう。
「年始からいい思いをしてしまった。来年もまたこうして居られたらいいな」
そのセリフはお互い様だった。