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    ゆかりこ.

    @YukarikoR

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    ゆかりこ.

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    原稿3「おい、ジョルノ。飲んでるか?」
     ジョルノ・ジョバァーナの肩を抱き、ご機嫌な笑顔をミスタは浮べる。今夜はネアポリス郊外の小さなファミリーとの業務提携を無事に結んだお祝いだ。いつものリストランテではなく、エノテカと呼ばれるワインをメインにした店で祝杯を挙げている。
    「ええ、飲んでいますよ」
     十五歳の少年の前には、赤ワインのグラスが置かれていた。本当は飲酒可能年齢に達していないジョルノに、酒を勧めたミスタも警察にバレれば厳重注意だろう。ワインのせいでふわふわとした思考回路は、妙な事を考え続ける。



     ボスの――いや、ディアボロの娘であるトリッシュを、父親の手から守る旅をした。一人も欠けることなく、いつものリストランテに帰り着いたことは奇跡といえることだろう。
    再び仲間に復帰したフーゴが、上手く味方として取り込めそうな幹部をピックアップしてくれた。その幹部たちにとっては誰がボスであるかよりも、自分たちに安全に利益を与えてくれるか否かが重要なのだろう。彼らはこの若者が自分にとって有益であるうちは、決して裏切らない。彼らの忠誠心は金なのだ。純粋な利益を目的とした関係は、そう簡単には壊れはしないだろう。そのお陰で、ディアボロの消えた組織の中枢に入り込むことが出来た。
     ディアボロの私的に隠されていた財産を見つけ出し、現金化した一部はトリッシュに贈った。彼女からは『要らない』と素っ気ない返信が来たが、ジョルノは無理矢理送りつけた。彼女には受け取る権利と義務があると考えたからだ。そして、この財産の分与により、彼女との関係に距離を作るためでもある。
     彼女はギャングとの関係を断ち切らなくてはならない。勿論、彼女に手を差し伸べる必要があれば、ジョルノは喜んで協力するだろう。だが、彼女の明るい未来には、本来ならばギャングの影は必要ないはずだ。

     ディアボロの不動産のうち、駅にほど近い新しいビルをパッショーネは新しい本拠地に決めた。
     一階には、真新しいバールが入っており、いつもコーヒーの香りを漂わせている。息子が麻薬で身を崩し、その借金のカタに店を手放した老夫婦を、ブチャラティが連れて来たのだ。夫婦は新しいビルでバールを再開した。立地もいいし味もいいため、いつも賑わっているようだ。ジョルノたちが行くといつも店主が奢ろうとするので、今ではツケという形を取り月末に纏めて代金を支払っている。もちろん、この店の賃料は格安だが、老夫婦はきちんと支払っていた。互いに適度な距離を置いた、ビジネス上の関係をジョルノは保つようにしている。
     数ブロック先の角を曲がると、ブチャラティたちの行きつけであるリストランテもあった。オフィス街の端にあるこのオフィスは、銀行や駅にも程近く利便性が良かった。また、この新しいパッショーネにクリーンなイメージを与えてくれた。このオフィスを選んだフーゴのセンスに、皆は感心したものだ。
     それから二ヶ月経ち、ジョルノたちは多忙な日々を過ごしている。パッショーネの支配地域からの麻薬の排除を目指し、行動を開始した。ボスの名で麻薬の取り扱いを禁じる声明を発表し、一ヶ月の猶予期間を設けた。麻薬を取り扱っていた連中にも、生活があるだろう。一ヶ月の間に他のシノギを見つけるなり、パッショーネに泣きつくなりを考える時間を与えたのだ。一気にパッショーネから逃れて、地下に潜ろうとする者もあるだろう。だが、初回の通達であり投降する者も多いと考えたため、今回は猶予を与えたのだ。
     このネアポリスから逃げ出す者も、それなりのリスクを背負うだろう。裏切り者には罰を与えなくてはならない。見逃してはパッショーネ ーー引いてはジョルノ・ジョバァーナの責任も問われるのだ。そして、逃げ出したとしても、辿り着いた地で彼らは歓迎されるとも限らないのだ。

    「好きなようにするといい。選ぶのは自分自身だ」

     ジョルノの言葉はその一言だった。自分の責任で道を選択しろ。ボスである少年は、その少年らしい潔癖さで組織を支配していこうと考えている。
     恭順する者には保護と対価を、離れて行く者にはケジメを。そして、裏切る者にはそのツケを。シンプルな考え方だと言えるだろう。因みにこの一ヶ月で、数人の麻薬の売人が姿を消していた。彼らはパッショーネのボスからの通達を無視し、稼げるうちに稼いておこうなどと周囲に豪語していたらしい。



    「末端の売人は締め付けるか処分すればいいんですけど。幹部はなぁ」
     ワインのグラスを一気に飲み干し、ジョルノはテーブルに突っ伏した。
    「そもそも、何でぼくがボスなんだろう?」
     何度目か分からぬ疑問を小さく吐き出す。季節が変わる前は、ただの学生だった。夢はあったが、こんなに早く実現するとは思えなかった。覚悟が足りないーーそう言われてしまいそうだが、今夜は無礼講だ。店の片隅で愚痴っているガキのことなど誰も気にはしない。
     誰かの大きな手が、ジョルノの巻き毛をクシャリと撫でた。

    「そう言えば、ボスーーあなたに決まったお相手はいらっしゃるんですか?」
     今日の主役である男の一人が、隣のスツールに座った。慌てて体を起こし、ジョルノ・ジョバァーナは柔らかい笑みを浮かべる。
    「え? 何のことでしょうか?」
     唐突な質問に軽く困惑の表情を浮かべた。赤い髪の男はジョルノの耳元で囁いた。
    「恋人や婚約者がいるかーーということですが」
     空のグラスを灯りに翳すと、目の前に新しいワイングラスが置かれた。これで何杯目だろうか。失言をする前に帰った方がいいのだろうか。
    「私は、エミリオ・ルカーノ。ルカーノ・ファミリーの時期ボスです。私の妹が最近恋人と別れましてね。その理由が、あなたらしいんです」
    「え? ぼくですか?」
     ジョルノが軽く首を傾げると、輝く金髪がふわりと揺れる。赤毛の男が目を見開いた。
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