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    ゆかりこ.

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    ゆかりこ.

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    えーっと、朝です。途中は書けてないけど。

    #ブチャジョル
    buchajol

    原稿74.

     いつもより早く目が覚めてしまい、隣にある温もりの元を見つめる。少し焼けた肌、真っ直ぐな眉、閉じた目の奥には深い海がある。青みを帯びた黒髪が、枕の上に広がっている。湿ったままで眠ったので、寝癖が酷いだろう。眉間に寄った皺を指で撫でながら、この男の見る夢を思う。
    痛む腰を押さえながら、ベッドから抜け出した。昨夜は夢も見ずに、ぐっすりと眠ってしまった。開いたままの窓のせいで、室内の空気は清浄だ。事後の気配は消え去っている。床に落ちていた昨夜の下着に足を通した。
    裸足のまま音を立てぬようにドアを開けて、キッチンへと向かう。食器棚の中から安物のグラスを見つけて冷蔵庫を開けると、賞味期限前の未開封のオレンジジュースを探し出す。勝手に封を切りグラスに注ぐと、甘い香りが漂ってきた。ジョルノは一気にオレンジ色の液体を胃袋に流し込む。
     何か食べるものをと思い、狭いキッチンの中を見回した。ビスケットの箱すらもなく、果物もない。
     カウンターに置かれたエスプレッソマシンの隣には、置き忘れられたタバコが覗いていた。細身のメンソール入りのものは、駅前のタバッキでは余り見かけない銘柄だった。
     箱を手に取ると取ると、薄荷の匂いが漂ってくる。一本取り出し、ジョルノはライターを探した。女物の華奢なライターが、エスプレッソマシンの後ろに隠すように置かれていたのを見つけた。
    この部屋で夜を過ごした女の残り香だろうか。煙草を一本咥えて火を付ける。カチリと無機質な音の後で、メンソールの匂いの紫煙が漂った。口内に広がる苦さと刺激に、少年はキュッと眉をひそめた。

     昨夜は酒に酔った勢いで、ブチャラティの恋人のふりをすると答えた。誘われるままに、彼の部屋に入り込み一夜を共にした。
    「これって、ちょっとまずいんじゃあないだろうか」
     小さな呟きは、紫煙と共に溶けていった。胸がモヤモヤする。小さな針を刺されたように、チクチクと心臓が痛む。
    「何がまずいって言うんだ? お前は――」
     いきなり耳元から男の声がした。振り向こうとしたが、腰をしっかりと抱え込まれて身動きが出来ない。
    「ちょっと、ブチャラティッ! あんたは……」
     抗議のために上げた声は、男の声に遮られた。
    「おはよう、ジョルノ・ジョバァーナ。俺を置き去りにしてベッドから消えるなんて、ちょっと酷いんじゃあないか?」
     背後から抱かれたまま、触れるだけのキスが落とされる。そのまま、乱れたゴールデンブロンドを掻き分けて、首筋に唇が押し当てられた。
     まるで恋人同士のような会話だ――そんなことをぼんやりと考えながら、細身のタバコを再び口に咥えた。大きく吸い込みながら、背後の男を横目で眺める。
     くしゃくしゃの黒髪は寝起きのままだろう。一応下着だけは身に着けているらしい。裸の上半身は、ジョルノの背にピッタリと密着している。
    「俺も吸おうかな……」
     熱いくらいの体温が離れ、背には乾いた空気が撫でていく。少年は二杯目のオレンジジュースを飲もうと、冷蔵庫を覗き込んだ。パックから注ぎ込んだ鮮やかなオレンジ色が、グラスの中で爽やかな朝に相応しい雰囲気を醸し出していた。
     冷たい柑橘系の飲み物が、ジョルノの口内から薄荷の刺激を消していく。カウンターに置かれたクリスタル製の灰皿で一本目のタバコを揉み消して、箱から二本目を取り出した。口に咥えると、忘れ物のライターで火を付ける。
     リビングから戻ったブチャラティの手には、マルボロの箱が握られていた。二本目の煙草を燻らすジョルノの隣に立ち、男はマルボロを咥えて笑った。
    「おい、未成年。火を貸してくれ」
     ジョルノは振り向き、女物のライターに手を伸ばした。
    「いや、違う。お前が咥えてるヤツだ」
     男の手がジョルノの顎を捉えた。咥えられたマルボロの先が、ゆっくりと近づいてきた。
    「大きく吸い込むんだ」
     耳元で囁かれた言葉の通りに、咥えた煙草を大きく吸い込んだ。先端が赤く染まる。ブチャラティの手が後頭部に回されて、マルボロの先がその赤に押しつけられた。微かにジジっと音がしたような気がする。男のマルボロの先に赤が移り、紫煙が微かに立ち上る。
     シガー・キスは確かにセクシーな遊びだ。だが、銘柄の異なる煙草では、風味が変わってしまうと聞いたことがあった。
    「こんなことして――味が変わってしまうんじゃあないですか?」
     ジョルノの疑問に、男は曖昧な笑みを浮かべた。悪戯好きな唇から、ゆっくりと煙を吐き出している。
    「まあ、いいだろ?」
     半分まで吸ったメンソールの煙草を、ジョルノはクリスタルの灰皿に押しつけた。
    「ブチャラティ、時間に遅刻するとフーゴが煩いですよ」
     ブチャラティの手が、少年のゴールデンブロンドをくしゃりと撫でる。煙草の匂いの吐息が、ジョルノの耳元を掠めていく。
    「ああ、昨日のこともあるからな。説教は覚悟しなければならないのかな」
     昨夜の恋人ごっこ宣言を釈明する必要があるだろう。隣に立つ男の顔を見上げると、紫色の煙を吐き出している。腰に手を回されて、そのまま抱き寄せられた。
    「――ジョルノ……」
     ジョルノの唇が塞がれて煙草の匂いの舌が差し込まれる。苦いキスを受けながら、フーゴへの言い訳を考えていた。
     
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