両片想いの恋人ワンツーは「司くん、スター養成スーツのサイズ調整をしたいから採寸をしたいんだけどいいかな?」
「む、採寸か。……よし、いいぞ!」
「では失礼するよ。おや、なかなかのバキバキマッソウになったねぇ。」
カーディガンを脱ぐと、メジャーを持った類がしゃがみ込む。シャツのすき間からチラりと見えたオレの筋肉をじっと見つめ、
「……えいっ」
「どわ―――――!!」
突然身体をぐにぐにと揉まれて、反射的に声をあげた。
「びっくりした……相変わらず司くんの声は大きいね。」
「びっくりしたのはオレのほうだが?!?」
類のガレージいっぱいに俺の声が響く。近所迷惑になってしまっただろうか。
「ごめんごめん。僕もショーキャストとしてそれなりに筋肉を鍛えているつもりだけど、司くんには勝てそうもないなぁ……何か、特別なトレーニングでもしているのかい?」
「う~む、特別なトレーニングか……普段のメニュー以外となると、カッコいいポーズをしながら歩いたり、ストレッチをするぐらいだな?」
他になにかあっただろうか。
類がやっていない、オレだけがやっている、特別に筋肉を使うこと……
「……お前の爆発に巻き込まれてフッ飛ばされているうちに、色々な筋肉が鍛えられていたのかもしれん……。」
じっとりと恨めしげな視線を投げる。
前髪チリチリ事件の後は少しだけ威力が抑えられていたが、オレの対応力が上がるにつれてドンドン派手な演出が追加されているのだ。
おかげで今日も先生に追いかけられて大変な思いをしたんだぞ!
「どうしてそんなに爆発にこだわるんだ?とにかく飛ばせばいい、っていうものでもないだろう。」
「そうだねぇ……ヒーロー戦隊ものとか、ハリウッド映画とか、派手な爆発シーンがあるとみんな盛り上がるだろう?爆発を欲するのは人間の本能なんじゃないかな。」
「た、確かに。言われてみるとそうなのか……?」
思い返せば、物語の山場で爆発するのが十八番のジャンルは結構ある。連続ドラマの最終回で大爆発なんてパターンも見たことがあるな。
「司くんが有名なスターになったら爆発する仕事が沢山あると思うんだ!それなら、今のうちから慣れておいた方がいいはずだよ。」
「なるほど、類の言う通りかもしれん……!スターになるためには、爆発が必要不可欠……そうか、オレのためを思ってのことだったんだな!」
「その通りだよ!それにね、司くん。」
眩しそうに目を細める。そっと微笑む表情はすごく嬉しそうだ。
「君のジャンプを初めて見た時に、すごくドキドキしたんだ。ステージの上で、僕と同じ歳の子が、何も着けずに自分の力だけであんなに高く跳べるなんて。……僕が演出をしたらきっと、もっと高く、もっと楽しそうに飛んでくれるんだろうなって。」
「類……」
「他の誰でもない司くんだからこそ、爆発して高みを目指してもらいたいんだ。」
類……!オレをただメチャクチャに爆発させて面白がっていた訳ではなかったのか!まあ、好きなやつが夢中になってくれるのならば、どちらにしろ全力で期待に応えるまでだ。
「オレだって、毎日ドキドキしているぞ!」
「うん?」
「まっさらなノートを、類と2人で考えたドキドキワクワクする物語で埋め尽くしていくのが本当に楽しいんだ。お前の演出案に引き込まれて夢中になれる時間が、1番好きだ!」
懸命に熱い想いを伝える。しかし、類はきょとん……と間抜けな顔をして黙り込んでしまった。何か変なことを言っただろうか。
「類?どうしたんだ?」
「ああ、すまないね。ちゃんと聞いていたよ。1番好き……だなんて演出家冥利に尽きるなぁ。嬉しいよ。」
「まぁ演出家としてもそうなんだが。それ抜きにしてもお前と2人で過ごす時間が何よりも好きだな!」
「……何よりも?」
いつの間にか採寸を終えた類がコトン、と机の上にメジャーを置く。図面に最後の数字を書き込んでから、そっと視線をこちらへ向けた。ライムイエローの瞳と見つめ合う。
「そうだ。座長のオレにとってはショーをする時間が、神校2―Aの天馬司にとってはお前といる時間が、1番だ!」
えっへん!と胸を張って答える。まさに、想いをよせている相手と2人で過ごす放課後……今この瞬間が、1番幸せなのだ。
「君ねぇ……そんなことを言われると、まるで口説かれているみたいな気分になってしまうよ。」
「……!」
しまった!まてまてまて、違う。いや違わないが、これは告白ではないのだ。この想いはこんな風にさりげなく言うんじゃなくて、もっとロマンチックなシチュエーションで、もっと盛大に伝える予定だったんだ……!
アワアワと慌てるオレの様子を見て、類がくすくす笑っている。
「フフッ、君のリアクションは見ていて飽きないねぇ。なんだかLIKEとLOVEを勘違いしてしまいそうだ。」
「なっ!」
ふにゃりと緩んだ笑顔が愛しい。慌てて勘違いを訂正しそうになったが、こんな顔を見せられたら嘘をつきたくなくなってしまうだろう!
「勘違いではないぞ!この気持ちは……LOVEだっ!!!」
「えっ」
「類のことが好きなんだ!!どうか、オレの気持ちに応えてはくれないだろうか!!」
必死に声を張り上げて、お辞儀をしながら勢い良く右手を差し出した。心臓はバクバクと激しく鳴り、緊張で身体が強ばる。頼む、この手をとってくれ。
「……そうだねぇ。これは提案なんだけど、」
少しの沈黙が終わり、楽しそうな声音が降ってきた。暖かい両手が優しくオレの手を包みこむのを感じる。
「爆発させたり爆発されたりする変人の関係から、ハグをしたりキスをしたりする恋人の関係になる…というのはどうだい?」
「こ、こ、恋人の関係?!!!」
「おや?そういう意味だと思ったのだけど。」
「そういう意味で間違いない!!のだが、本当に恋人になってくれるのか?」
高揚する気持ちを抑えられず、距離をつめて再度問う。
「司くん……演出家の僕にとってはショーが1番だ。でもね、高校生の神代類にとっては天馬司が1番愛しいんだよ。告白のプランも練っていたのだけれど先を越されちゃったねぇ。」
「類……!もしかして、オレたちは両片想いというやつだったのか?」
「どうやらそのようだね。」
「そうか……!」
嬉しさのあまり涙が滲んできたが、いつの間にか左手もまとめて握り込まれていたのでぬぐうことが出来ない。頬を伝う一筋を追って柔らかいキスが落とされた。
「んぅ……っ!ま、待て!」
「ダメ?」
「だ、めではない……」
「じゃあ、目を閉じて。……3、2、」
1、と心の中で数え終わり、チュッと短いリップ音が響く。
「これでオレたちは晴れて恋人同士だな。」
「変人ワンツー改めて恋人ワンツーといったところかな?」
いたずらっぽく眇められた目が愛らしくて、どうしようもなく幸せな気持ちになる。
「でも少し惜しいなぁ。君に告白するために作ったロボと演出案を、お披露目できればよかったのだけど。」
「オレのために考えてくれた演出か!?今からでも是非見せてほしい!!頼む!」
「君ならそう言ってくれると思ったよ。次の休みに時間をもらってもいいかい?」
「もちろんだ…!!」
たまらずに抱きつき、ギュ~っと力を込める。
「わっ……!あ!痛い!司くん!!痛いよ!バキバキマッソウ!!!」
「悪い!!加減を間違えてしまった!!!」
「いたた……いやぁ、思っていた以上に身体が仕上がっているね。これなら次のショーでやるワイヤーアクションでも綺麗に跳べるよ!」
「本当か!?」
「本当だよ。フフッ、僕のスターが高く飛んでくれるのが待ち遠しいなぁ。」
「オレの演出家が望むならどこまでも飛んでやるぞ!」
「ありがとう、司くん。大好きだよ!」
今度は類がおもいっきり抱きしめてくる。
「うぐっ!く、苦しい……!お前もなかなかバキバキマッソウじゃないか!!!」
そういえばゲリラショーのために大量のロボや機材を運んだり、背負ったままハイキングに行ったりしていたな……。筋肉がついてなければこなせないだろう。
恋人の努力に愛しさを募らせながら、幸せな苦しさに閉じ込められるのだった。