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    🐼ぱつ🐼

    KOP/カケタイ
    🎾 /月寿

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    月寿
    察しが良すぎるせいで、人から向けられる好意にやんわり壁を作ってしまう寿三郎くんの話と、その続き
    ⚠️大学でモテまくる寿三郎くん
    ⚠️モブ女の子出てきます

    恋の涙【壁】
     
     これは、モテ期っちゅうやつなんやろか。
     
     波のように押し寄せる眠気と必死に戦ってなんとか勝ち抜いた講義の後。バイトの時間までどこで昼寝しよかな……なんて考えていたら、小こくて可愛らしい子(俺から見れば大抵の人間は小さいんやけど)が近寄ってきて、連絡先を聞かれた。まぁ連絡先くらい教えてもええか、減るもんちゃうし。と、軽い気持ちでLINEを交換していたら、私も私も~言うて数人の女子に囲まれてもうて。なんや有名人になった気分やけど、嬉しいかと聞かれるとようわからん。
     決して自慢では無いけれど、こんな風に女子に囲まれるのはこれが初めてではない。大学に入学してから同じような状況が発生することが度々あって、おかげさんで俺の友だちリストは名前と顔の一致せん女の子達でいっぱいやし、ストーリーを開けば、よく知らん子達のキラキラした日常や、黒字に小さい文字でびっしり書かれた愚痴なんかが、怒涛の勢いで流れてくる。以前、髪色を変えたという投稿に何となく『似合っとるね』とコメントしてみたら、その後事あるごとにDMがくるようになったから、軽い気持ちで反応するのはもうやめた。
     何度かメッセージのやり取りをしてみても、好きだとか付き合って欲しいとか、本気で告られるわけやない。飯、映画、みんなで遊園地。テニス教えてほしいとか、あと、ボランティア参加したいから着いて来てだとか。オモロそうな誘いには乗っかってみるけど、だからと言って相手と良い雰囲気になることはない。それは、本気で俺のこと好きなんやろうなって子にはさりげなく壁を作っているからなんやけど。必要以上に踏み込まれないように、踏み込まないように。絶妙な匙加減で人間関係を構築する。
     俺、ほんまはそういうの得意やねんで。最低やろ。
     
     ◇

    「いやホンマに勘弁したってや……タクシー呼んだるから。一人で帰れるやろ」
    「嫌。毛利くんのこと待ってたんだもん。一緒に帰る」
    「一緒に帰るてどこに……」
    「毛利くんの家」
     これは、修羅場っちゅうやつなんやろか。
     もしくは罰だ。他人から向けられる気持ちに気づいていながら、有耶無耶に過ごしてきた罰。
     バイトのシフトを聞かれたから、飯食いに来てくれるんかな思て素直に答えた。ただそれだけで、この子と一緒に帰る約束をした覚えはない。はよ帰るように促しても道端にしゃがみこんで動こうとせんし。とは言え既に0時を越えとるし、流石に女の子一人夜道に置き去りにして帰るわけにはいかんやろ。
     ――お手上げやわ。
     この子は、俺のことを本気で好きっぽいからやんわり遠ざけていた内の一人。大人しくて、品の良い笑い方をする子。こない大胆な行動力を秘めているのなら、いっそ正面から告ってくれた方がマシやった。まさか、こんな荒業で壁をぶち壊そうとしてくるやなんて。俺の曖昧な態度が呼んだ事態なんやとしたら、甘んじて受け入れるしかない。ほんまに最悪や。
     せやけど家に連れていく気には到底なれん。大学生になってから始めた一人暮らしのアパートに、他人が足を踏み入れたのはたった一度だけ。その一度が俺にとってずっと大切で、忘れられなくて、諦めることもできんくて。
    「毛利くん、彼女いないでしょ」
    「……おらんけど」
    「じゃあいいじゃん」
    「いやいや、何もようないて」
    「じゃあ家じゃなくていいからさ、どこかその辺の」
    「彼女はおらんけど! ……彼女やなくて、好きな人、おって……」
    「……」
    「だから、あかん」
     あかんのや……と、自分にしか聞こえへんような声量でもう一度呟く。誰にも言うつもりあらへんかったのに。どうすんねんこの空気。
     モテ期なんか来たって、本当に好きな人に振り向いてもらえな意味がない。俺に好意を向ける人間に対して壁を作って、本当に好きな人まで遠ざけてしまったら何も意味ないんやて。
     もしも俺が、俺の好きな人の前でこんな風に駄々こねてみたら、どんな反応すんねやろ。きっと優しい人やから、とりあえず家に招いてくれるやろ? あったかい風呂に入れて、適温までさめたお茶なんか用意してくれて。当たり前やけど既成事実はできん。だって男同士やし。『お前はベッドで寝ろ』とか言うて自分は床で寝ようとする。俺に背を向けて。あかん、月光さんを床で寝かせるわけにはいかん。この妄想は無し。
    「その人と付き合わないの?」
     問い掛けで、思考が現実に引き戻される。
    「無理やろなぁ。好きとかよう言わんし」
    「家の前しゃがみこんで泊まらせてって駄々こねたら?」
    「いや力業がすぎるやろ。もしかして常習犯かいな」
    「毛利くん顔かわいいからいけるかも」
    「かわええ訳ないやん」
     しゃがみこんでいた彼女は急に立ち上がるとスマホを取り出してインカメを起動させた。パシャリと無機質なシャッター音が響く。
    「ね、加工しなくても可愛い」
    「暗くてぼやけとるし。アンタの方がかわええよ」
    「そういうとこなんだって!」
     ポケットの中でスマホが震える。早速今の写真を送ってくれたらしい。どないすんねん、これ。
    「その人にフォローされてる?」
    「されとる」
    「じゃあストーリー載せてさ、嫉妬する? て聞いたら」
    「だから力業がすぎるやろ……」
     こんな写真載せるのは気が引けるけど。ていうか、載せたところで見るかわからんけど。
     俺今めっちゃモテてますけどどう思いますか? て聞いたら、分厚い壁にひび割れくらい入れれへんかなぁ……なんて。





    【恋の涙】

    「……あの、夜分遅くにすんません。一晩だけ部屋に置いてもらえませんか」
     インターホンを押して二十秒。毛利ですと名乗り、扉が開くまで十五秒。好きな人の領域に足を踏み入れるまでに、一分とかからない。
     こんな風に何もかもが上手くいくのなら、恋で涙を流す人間はおらんやろなぁ。
     
     ◇
     
     飯に誘われた。他に予定が無いから行った。
     相手は同じ学部の女子。何度か会話したことがあって、すれ違えば挨拶や世間話くらいする。そんな関係の子から、二人でご飯に行きたいという旨のLINEが届いた。
     俺には好きな人がおるけれど、残念ながらその人と付き合うてるわけやない。男女の友情は成り立つと思うタイプやし、女の子とサシ飯くらい許されるやろ、と判断して誘いに乗った。
     ……いや、それは言い訳だ。ホンマは彼女が俺に気があるっちゅうことは察していた。えらい勇気を出して連絡をくれたことも伝わってきた。だから、無下には断れへんかった。好きな人に拒まれる辛さは、俺にも痛い程わかるから。
     
     案の定、飯食ってあっさり解散とはいかんかった。駅に向かう途中の公園で告白された。
     彼女は俺との出会いを「運命」だと語った。
     好きになったのは高校生の頃。と言っても、立海出身の同級生ではない。じゃあどこで……と、頭にハテナを浮かべる俺に、彼女はうっとりとした口調で続けた。
     曰く、高校時代のお友達の彼氏がテニス部で、試合の応援に付き添ったところ、お友達の彼氏くんが俺にこてんぱんにやられる様を見て好きになってしまったのだと。
    「あの試合のこと覚えてる?」なんて尋ねられ、「ああ、あん時かな……」と曖昧に答えたものの、申し訳あらへんがどの時なのかは検討がつかん。
     それから高校に通う間、彼女はずっと、俺に恋をしていたそうだ。まるで接点の無い、他校の生徒である俺に。それを聞いて、胸が張り裂けそうな程苦しくなった。青春を犠牲にしてまで好きで居てもらう価値なんか俺にはないのに。
     しかし彼女は、何の後悔もしていないのだと言う。偶然同じ大学の同じ学部に入学したのは、彼女にとって夢のような出来事だった。やっと出会えて良かった。会話できる距離まで近づけて嬉しい。これはきっと運命だから。だから私を、毛利くんの恋人にしてほしい。
     そう言って俯く彼女の声は、少し掠れて涙混じりやった。
     ……俺と一緒やね。俺も高校三年間、それから今も、ずっと同じ人に恋い焦がれとる。そんでな、俺も好きな人に一方的な「運命」を感じとるんやわ。しかも俺が思うに、こっちの「運命」の方が強力でドラマチック。試合でこてんぱんに負けた俺のこと、向こうは覚えとったしな。だから俺は、多分君の運命にはなれへんのや。堪忍な。――なんて言えやしないから、言葉を選びに選んで丁重にお断りした。
     勿論ゴネられ泣きつかれ、なんとか彼女の最寄り駅まで運び家まで送り届け、これからも友達でいようっちゅう一応の和解はしたんやけど。
     駅に戻る頃には終電の時間も過ぎていて、一晩野宿は流石にしんどいし、ネカフェでも探そうかとスマホを取り出したところではたと気づく。
     この駅、月光さんの家の最寄りやん。
     なぁ、やっぱり俺の運命の方が強力やんな。
     
     ◇
     
     そして、冒頭に戻る。
     いつぞや貰たアドバイスの通り、追い返されようものなら座り込んで駄々をこねる覚悟はできとったんやけど、そんなことには一切ならず。あっさりと部屋の中に通され、温かいお風呂を貸してくれて、お茶まで出してくれはって。
     しかも、いかにも訳アリなヨレヨレ姿で夜中に突然押し掛けたっちゅうのに、月光さんは何も聞こうとせん。
    「風呂に入るか」「部屋着はこれを使うといい」「茶を淹れる」「室内は寒くないか。いや、お前は暑がりだったな」
     ぶっきらぼうに見えるけど、紡がれる一つ一つの言葉がこんなにも暖かくて、優しい。気遣われる度に、この人を好きになる。好きになっては、絶対に核心には触れようとしない壁を感じて寂しくもなる。
     月光さんの家を訪れたのはこれで三度目。今までの二回はまだ俺が高校に通っていた頃で、日が沈むまでには帰宅を促されていた。せやから夜の月光さんを見るのは世界大会で同室やった頃以来。
     首元のゆったりしたパジャマに、風呂上がりのシャンプーの香り。貸してもろた部屋着だけでなく、今俺がケツの下に敷いているクッションも、湯呑みも、今俺を取り囲むもの全てが月光さんの所有物で構成されとる。そんな部屋に泊まって、好きな人と一晩過ごすのだと思うと、ぶわりと変な汗が吹き出した。いっそ野宿した方がマシかもしれん。
    「……月光さん、明日早いですか?」
    「学校は午後からだ。午前中は特に用事もない」
    「ほんなら良かったです。いや、何もええことないか。すんません、突然押し掛けたりして」
    「さして問題はない」
    「えーっと……ほな少し喋りませんか! 月光さんに会うんも久しぶりやし」 
     俺の提案を受けて、月光さんはこくりと頷く。
     あかん。頷いたらあかんのや。早く寝ましょうっちゅう流れに持っていきたかったのに、全く逆の展開なっとるし。
    「……あのぉ、さして興味はないと思うんですけど。一応何があったのか~とか聞かへんのですか」
    「さして興味はないからな」
    「さいですか……」
     そして立ち塞がる、分厚い壁。
     二メートルどころやない。もっともっと高くて遠い。手を伸ばせば触れられそうな距離に見えるのに、空に浮かぶ月には届かない。
    「俺な、大学入ってからごっつモテてるんです」
    「……」
    「こんな話、ほんまに興味ないと思うんですけど。俺のこと好きや言うてくれる子たちのこと、めっちゃ尊敬しとるんです」
     ――だって俺は、勝算も無いのに好きとか言えんし。好きって言うて、断られたら終わりじゃないですか。そこから先は、好きで居続けることさえ許されへんやん。そんなら俺は、叶わなくてもええからずっと好きでおりたい。ずっと一人で想い続けたい。一生。
     こんなずっこい自分を晒けだして、嫌われへんやろか。でも、一度動きだした口は止まらへんかった。ずっと恋をしているのに、誰にも打ち明けることができずにいた、心の声。ほんまは誰かに聞いて欲しくて。だからと言って、好きな相手に聞かせるのはアホや思うけど。
    「……まるでお前に、好いている相手がいるような口ぶりだな」
    「……わかります?」
    「ならば、こちらの話も聞いてくれるか」
    「え、」
     ――勝算が無いのに好きだと言えないのは概ね同意だ。告げないままずっと好きで居たいという気持ちも理解できる。今までがそうだった。けれど、区切りを付けなければいけない時は必ずやってくる。それは、好いている人間に、想いを寄せる別の誰かが居ると知った時だ。
    「……まるで月光さんに、好きな人が居るみたいやわ」
    「ああそうだ」
     目の前が真っ暗になる。手に力が入らない。変な汗が冷えて、体が凍える。俺と月光さんを隔てる壁はもうなくて、代わりに俺一人だけが深い谷間に落とされたような、そんな感覚。
     空に浮かぶ月が、どんどん遠退いていく。
     もしかして月光さんは、とっくに知っていたのだろうか。俺が月光さんを好きやって。好きでいても勝算なんか無いから、未来なんて無いから、今ここで、諦めさせようとしてはるんやろか。
    「……毛利」 
    「あ……すんません俺びっくりしてもうて……月光さんのこと、応援したい、のに……なんも上手いこと言えへんで……」
    「毛利、聞いてくれ」
     力の抜けた右手を強く引かれて、目の前が月光さんでいっぱいになる。今日、初めてちゃんと顔を見た。反らしたいのに、青色は真っ直ぐ俺を見つめていて、逃げることなどできやしない。
    「……月光さ、」
    「毛利のことが好きだ」
    「……へ?」
    「突然すまない。この気持ちには今日で区切りを付ける」
     掴まれていた右手が解放される。相変わらず力は入らへん。けれど、じわじわと熱を帯びていく。心臓がドクドク脈打って、体中がぶわって熱なって。
    「嘘やろ……」
     最後にようやっと頭が月光さんの言葉を理解したのに、出てきたのは色気も可愛げもない一人言やった。
    「嘘ではない」
    「興味ないて言うたやん……」
    「……興味がないと言ったのは、お前に頼りにされるのならば、理由なんて何でもいいと思ったからだ」
     すまない。これでもう、区切りを付ける。
     そう言って、月光さんは俺に背を向けてしまう。広くて逞しい背中が寂しそうで、苦しそうで。そうさせているのが自分やと思うと、たまらない気持ちになる。
    「嫌や、区切らんといてください」
    「……毛利?」
    「月光さん一人に勇気出させて、ほんま頼りない後輩ですんません。俺も、俺の気持ちも聞いてください。俺、」
     背中に触れる。気持ちを告げる。
     振り返った月光さんの青色から、ポロって滴が零れ落ちて。俺もなんや、目ぇ熱くて。
     嬉しくても涙が出てきよるん、知らんかったわ。そんなら恋の涙は、一生枯れることがないのかもしれへんなぁ。


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