パンの無い日は長い日だ最初は「こんな店出来たのか」という程度だった。
会社から徒歩で10分くらい。今日の昼飯は外で食べるかと辺りをぶらぶら歩いている最中、見慣れない看板を見つけた。
『 NOW OPEN
フジマルベーカリー 』
ベーカリー……つまりパン屋だ。
「パンか……そういや最近食ってねぇな」
日本人としてやはり白米というのは譲れないが、たまには気分転換でパンを食べるのも悪くない。
「行ってみるか」
俺は店の扉を開けた。
チリンチリンとドアベルが鳴り、レジに居た店員らしい赤毛の女の子が「いらっしゃいませ〜」と挨拶してくる。
か、可愛い……いやいや、セクハラとかじゃなく純粋な感想だから。
邪な感情とか無いなら、感想を述べるくらい良いよな?
誰に言うでもなく内心でそんな言い訳を述べながら、俺は入り口近くに置いてあったトレーとトングを手に取った。
「ふむ……」
パンの種類は思ったよりも多かった。
食パンやフランスパン、クロワッサンみたいな定番の物は勿論、おにぎりパンみたいな変わり種、何かのキャラクターらしいフォウくんクリームパンやコンちゃんメロンパンなんてのもある。可愛いけど謎だ。モチーフは一体何なんだろうか?
「ん?この香りは……」
その時、俺の鼻をくすぐったのはパンの焼ける匂いだった。
多分、厨房で誰かが焼いているんだろう。
昼休みの時間にも限りがあるので、取り敢えず俺はカレーパン、エビカツコッペ、それからコンちゃんメロンパンの3つをトレーの上に乗せ、レジに持って行った。
「お会計680円になります」
「じゃあこれで」
レジカウンターの上に千円札を一枚置く。
「320円のお返しです。ありがとうございました〜」
「どうも」
店員の女の子に軽く会釈して、俺は店を後にした。
近くの公園のベンチに腰を下ろし、買ったパンを取り出す。
「さて……いただきますか」
まずはカレーパン。定番と言えば定番だが、だからこそ他の店よりどう美味く作ってるのか楽しみだ。
パクリ。
「おぉ……美味い」
思わず感嘆の声が漏れる。
カレーの辛味とコクがパンによく染み込んでいて、それでいて生地はカリカリ、モッチリとした食感を保っている。これは美味い。
次にエビカツコッペを頬張る。
「うん、こっちもいいな」
エビカツは衣がサクサクで中はプリプリの海老のミンチに、シャキシャキのキャベツとたっぷりのオーロラソースが堪らない。
で、コンちゃんメロンパンとやらは……。
「……何のキャラクターかは分からないけど、やっぱり美味いな」
クッキー部分はサクサクでメロンの香りが良く、下はふんわりとした生地が美味い。
甘い物があまり得意じゃない俺でも美味しく食べられる辺り、いい仕事してるなと思う。
「ごちそうさまでした」
あっという間にペロリと平らげてしまった。
にしても美味しかった。それにあの店員の女の子も可愛かったし……また明日にでも行ってみるか。