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    kouki_nzd

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    書きかけ没になった律楽

    (この人のことが好きだ)
     世間ではよく『恋は落ちるものだ』というが、俺の場合は落ちるというよりその感情がストンと胸の中に納まるような感じで自覚したのを覚えている。
     恋を自覚することになった日。
    「律瑠くんの嫌いなもの最近嫌いなものはなんだ?」
     その日は別に何か特別なことがあったわけでもなく、閉店作業が終わってコーヒーを淹れてくれた楽さんが時々聞いてくる質問にいつもと同じように正直に答えていた。
     楽さんはいつだって俺の嫌いなものを聞くと笑う。
     子供扱いされているようでいつも癪に思うわけだが、そんな俺の様子を知ってか知らずか楽さんがふいに「こうやって律瑠くんの嫌いなもの話を聞けるのも、今年で終わりかと思うとなんだか寂しいものだなぁ」と言った。
    「そういやそうッスね……」
    「就職先決まったのにギリギリまでバイト続けてもらって申し訳なかったなぁ」
    「いや、俺の方も就活中にシフトとか休み融通してもらいましたし」
     「あと面接のこととか自己PRに書くこととか、色々参考になったし……」と俺が言うと楽さんは「少しでも参考になったならよかったよ」そう笑って答える。
     楽さんが言った通り、憂鬱で仕方のなかった就活に成功した俺はもう少しでこのバイトをやめる。
    「なんだかんだ言いつつ律瑠くん就活頑張ってたし。うんうん、これも君の頑張りの成果だな!」
    「俺としちゃ社会の歯車に組み込まれることになるのが、かなり憂鬱なんっスけどね」
    「めでたいことなのに君はネガティブ全開だな!? ……でも、律瑠くんが働きたいと思えるような職場だったんだろ?」
    「まぁ……そう、なんっすけど」
    「それなら良かった良かった。君ならきっとどこでもやっていけるだろうし」
     時々俺のこと見透かしたようなこの人のこういう所がほんの少し苦手で、それと同時にその見透かされることに同じくらいには安心してしまっている自分がいる。
     鬱陶しいと思わないことがないわけでもない。
     でも、この人といる時間はなんだか妙に落ち着くというか。
     そんな風にうだうだと考える俺を他所に楽さんはまた先ほどと同じように「でもやっぱり律瑠くんの嫌いなものの話が聞けなくなるのは寂しいなぁ」と言う。
    「前々から思ってたんッスけど、それ聞いて楽しいもんッスかねぇ……」
     呆れたように言えば楽さんはニコニコと笑みを浮かべる。
    「いやぁ、なんというか定期的に聞きたくなるんだよなぁ!」
    (笑いながら言う事か?)
     そう思いながら視線を送ってみても楽さんはやはりニコニコと笑ったままだ。
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