喋れなくなった春千夜(バージョンA)『三途、何でオレを殺した』
『海の底は暗くて寒いんだ』
真っ暗な空間で目の前に居る始末したはずの裏切り者の姿。アイツは出所迎えをした時の姿で無防備に棒立ちになって俺は対峙していた。これは夢だ、夢なんだ。アイツは死んだ。気付くと俺の片手にはあの時に使った日本刀。
『うるせぇんだよ!』
斬りつけて、血飛沫を浴びて、死んだアイツが消えた途端にまた現れて。
『三途』
『三途』
『何で』
『殺した』
『あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!』
「っ……!!」
自分の絶叫で飛び起きたが身体中に滲む汗がウザったい。耳にこびり付いた声は鳴り止まずに俺の行動を静かに責め立ててジリジリと追い詰めてくる。
俺は王を、マイキーを裏切った奴を始末しただけだ。俺がやった事は間違ってない、裏切り者は始末しなければならない。王を脅かす者は消さないとならないんだ。
「…っ、うぇ…」
ぐるぐる、ぐるぐると思考が回って咥内に胃液が込み上げる感覚に口元を押さえてトイレへと走る。
便器に顔を近付けて胃の中の物を全部ぶちまけた。消化しきれなかった晩飯のサンドイッチの残骸を出し切っても吐き気が止まらなくて苦しい、涙が出る、鼻水も垂れて出しっぱなしの舌からも胃液混じりの唾液が便器に落ちていく。
───吐くのも体力使うから、疲れんだな。
なんてクソ程当たり前の事をぼんやり考えて口に溜まった不味い味を最後に吐き出すと緑色にまで染まっていた。
フラつく身体を壁を支えにしてキッチンに向かい、ミネラルウォーターを取って何個か所持していた睡眠薬をラムネみたいに噛み砕いて水で無理矢理飲み込んだ。
嗚呼、これで夢も見ないで眠れるはず。