灰春 半獣人類が少子化で現象した事により世界政府から人口の増加を目的として発令された、人類と動物を交配させた“半獣人“という存在が生まれたという歴史がある。
最初は社会に溶け込めず、金持ちの愛玩用にとされていたという。オレが子供の頃には既に半獣人も世間に認められ、半獣人と人間の両種族が働き生活していた。
日本最大の犯罪組織“梵天”。そこのNo.2に身を置いているオレは首領のマイキーからの命令で鶴蝶と裏切り者の処理に向かっている。道すがら車内で運転する鶴蝶に書類を渡すよう手を出した。
「今日バラすヤツは何したんだ?」
「半獣人の売買を任せていたヤツだが…裏ルートで海外からも売買していた、それについての上納金も無し。報告も無し。さらには人類を半獣人にする研究もしていて……」
運転しながら助手席に置かれた鞄から出した書類を受け取り、目を通す。そこには鶴蝶から告げられる事が書いてあり写真に写る海外の半獣人は日本のヤツらよりも獣の遺伝子が強いのかモロに獣の顔や体つきをしていた。
…日本でも半獣人と半獣人の交配が進んで遺伝子が強くなればこうなっちまうんだろうな。
「マイキーへの上納品にその研究結果の薬が混ざってた」
「はぁあ!?」
思わずシートに投げ出した体を起こして運転シートをガッ、と掴んでしまった。鶴蝶は表情一つ変えずにハンドルを握り続けている。
それ以上は口を閉ざした鶴蝶に舌打ちして、衝撃に散らばった書類を拾い上げ続きを読み進める。
どうしようもないクズだとしか形容できないコイツはオレの怒りを増長させる事しかしてねぇ。
甚振ってからスクラップにしてやるよ。
「裏切り者に梵天の鉄槌を!」
でっぷりと太ったクソ親父を部下に縛らせて横たわらせたペルシャ絨毯。裏切り者を中心にアンモニア臭と共に広がるシミに眉を顰めた。
「きったねぇな…オレらに隠れて稼いだ金で買ったんだろ?それならオレらの物になるはずだったのになぁ」
下ろしたてのシャネルのドレスシューズにそのシミが付かない程度に近寄り、動かないゴミを蹴り飛ばす。唸り声も発さないそれを冷ややかな目で見下ろしていると家捜しを任せた部下からの報告が入った。
「三途さん、地下室にヤツが売買していた半獣人のガキが何人か居ました」
「……クソッ…面倒くせぇな、地下室は何処だ!案内しろ!」
案内された地下室への入口には悪趣味な動物の銅像。重厚な扉を開かせれば牢獄のような造りの中に書類で見た通りの薄汚れた半獣人のガキが数名。救いが来たと言わんばかりのそいつらを部下を使って移動させ、ココの手配で売買をさせるよう伝えた。
気付けば牢獄の奥には更に続く扉。また違う雰囲気に部下を全員向かわせたのが間違いだった。
まぁ、まだ弾丸はたっぷりある。歯向かうヤツらは即スクラップだ。
警戒しながら扉を開く、が…広がるのは牢獄とは全く違う部屋が広がっていた。ヤツが寛ぐだろう豪奢なソファー、カーペット、テーブル、クローゼット。そこに場違いに置いている巨大なゲージ。
「あれ?兄ちゃん、あのオッサンじゃなくて血塗れのイケメン来たんだけど」
「マジで、あのオッサン死んだんじゃねぇの?もうあの美味い飯食えねぇのかぁ」
ゲージの中に居たのは金髪に水色のメッシュの男と、黒髪と金髪が交互になった男。いや、二十歳には至らないくらいの青少年が二人居た。
家の主人が殺された事も察してもなお楽しげに“普通”に笑っている。
━━━━狂ってやがる。
昔、小学校の時に友達から見せて貰った漫画を思い出した。そこには半獣人という存在は無くて、動物は愛玩用などに飼われていた。小学校の教育にと飼育されていた。飼育されていたウサギは小学生に構われるストレスからか共食いをしていた。そのウサギの目にそっくりだった。
ゲージの中でケラケラと笑う顔の造形が似た兄弟は毛色こそ違うものの、ロップイヤーの耳を揺らしている様はとてもそっくりだったんだ。
「ねぇおにーさん」
「オレらの新しい飼い主になる?」
オレはコイツらが、年下のガキが少しだけ怖く感じてしまった。
コイツらは部下に任せておけない。首領に判断を仰がねぇとならない。連れて行くしかねぇか…。
ゲージの鍵を壊して出させたガキ共は名前を灰谷蘭、灰谷竜胆と名乗り兄弟だとオレや運転する鶴蝶に説明した。
スクラップにしたクソ親父が秘密裏に取引した“観賞用”のウサギの半獣人だとも。クソ親父の愛玩になっていたのかと疑ったがそんな事はなく“オッサンはただオレらに飯を用意して眺めていただけ”らしく手を出していないようだった。それについては兄弟が性成熟をしていないからと付け足された。
図体はデカいくせに性成熟していねぇのか、とびびった。
こんなにオレに懐く、というか両サイドから腕にへばりついて来てやがんのに。
意味が分からねぇ。
マイキーに報告する場でもコイツら兄弟は口が上手く、他の半獣人のガキとは違い梵天で面倒を見るようにと命令が下った。
更にオレが面倒を見るようにと交渉しやがった蘭と竜胆を忌々しく睨みつける。ニヤリと笑って腕に絡む二人を払い除ける気力もなく白目を向いて倒れかけちまった。
「よろしくな、春千夜♡」
「美味い飯用意してくれよ♡」
舌なめずりをして捕食者の瞳をする二人に気付けなかった。
九井と鶴蝶、マイキーはそれを見て居たのにオレは気付けなかった。
蘭と竜胆を引き取って一ヶ月。我儘と悪戯ばかりのこの兄弟の面倒はとても面倒くせぇ。
ウサギの耳と尻尾しか見た目には見えねぇが、習性やらはウサギの其れが強く出ている。
暇さえありゃ溜まった洗濯物をひっくり返して穴掘りの真似もするし、家中に顎やら体やらを擦り付けてマーキング、部下に電話する度に警戒心剥き出しで足ダンしやがって階下のヤツがマンションの管理人に通報。クソ面倒くせぇが金を払って下の階は空室にさせたのは引き取ってからすぐの事だった。
「マジでダリィよテメェら…ちょっとは大人しくしろ!あと噛むな!」