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    Medianox_moon

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    3章のはじまりです! ダメ男のソウジくんがやって来ました

    ##ユントマ
    ##ワタネコ

    ワタクシが猫で、アナタがネコで 3話 そういうトコロヨ? その日はいつも通りの日常を過ごしていた。
     ユンユンはカナタに何を説明したのやら。いい猫友達ができてよかったね、と携帯端末にメッセージが入って、トウマは苦笑いすることになった。猫友達なんだか、猫の友達なんだか。
     ともかく、トウマは不思議なことにユンユンのことを少しも嫌にもならず、それまでと同じように撫で、ブラッシングし、ユンユンのほうも甘えてきた。たとえ前立腺開発をしてきたり、アダルトショップに連れ込まれても、ユンユンは世界で一番かわいい飼い猫なのだ。それは決して変わることが無かった。
     そしてトウマはこの奇妙な体験を、幻想小説家『時次』として最大限活かそうとした。
     拾った子猫が実は猫又で、主人に隠れて他の妖たちと協力して現代社会の平和を守るストーリーはどうだろう。ありきたりだが、その猫が変わった見た目、変わった経歴で、パソコンも使えるようなスーパーヒーローなのに、飼い主の前では猫に戻らなければいけないという制約を付ければ、スリルも出るかもしれない。女の子がいいだろうか。人間の姿の時に主人と出会ってしまって、恋愛関係になっていたりしたら面白いかもしれない。
     そんなことを妄想して、それを文字に起こそうとする。そこではたと気付いた。これではまるで、ユンユンと恋愛関係になりたがっているようなものではないだろうか。
     一瞬ぽぽぽと頬が染まった。ベッドの上で、びろーんとばかりに仰向けに伸びて寝ているユンユンをちらりと見て、それから首を振る。これはあくまで創作、この関係から着想を受けただけ。そうとなればせいいっぱい良い作品にして世に出したい。トウマは気を取り直して、キーボードを叩くのだった。


     そんなある日のことである。
     ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴った。とても珍しいことだ。元々あまり交友関係の広くないトウマの部屋に人が訪れることは稀で、ユンユンも目を覚ましてこちらを見ている。トウマは書きかけの原稿を上書き保存すると、モニター付きのインターホンに向かった。
    「もしもし?」
    『あっ、トウマ~!』
     小さなモニター越しに、金髪の青年が映っている。パーカーを着込んで困ったような笑顔で手を振っている男を、トウマは良く知っている。
    「ああ、ソウジか」
     トウマは微笑んで、すぐに鍵を開けに行った。ユンユンが「なーん」と鳴いていたけれど、「昔馴染みの友達だよ」と返しながらチェーンのかかった玄関を開ける。部屋の前には、ソウジと呼ばれた男が立っていた。金色に染めた髪は根本が黒くなっていて、いわゆるプリンの様相を呈している。ゆるいパーカーもダボダボのデニムも、だらしないという印象しか与えない。顔は整っているのに。
    「来るって連絡入れてくれてりゃ、何か用意したのに」
    「いやいや、別にそんなおもてなしとか大丈夫、そう長居はしないから安心してくれよな」
    「まあ、上がってくれ。猫がいるけど……」
     トウマがそう言うと「猫!」とソウジは驚いた声を出した。
    「万年、猫に逃げられてばっかりだったトウマがついに猫を飼えたのか⁉ やったじゃないか、どんな猫ちゃんだろうな」
     トウマが促すと、ソウジはいそいそと部屋に上がって行った。また玄関に鍵をかけている間に、居室から「デカッ!」という大声が聞こえる。そのまま冷蔵庫に向かって麦茶を取り出し、グラスと辛うじていったスナック菓子を持ってリビングに戻る。
     ソウジは床にしゃがみこんでいた。ん、と見ると、ベッドの下から白と黒の尻尾がちょこんと出ていて、べしんべしんと床を叩いていた。
    「あれ、ユンユン。人見知りしてるかな」
     その尻尾の動きが、猫の苛立ちを表しているということはトウマも知っている。意外だな、と思った。あれほど堂々と夜の街を闊歩し、初対面のカナタとも打ち解けられるようなユンユンが、人見知りをするなんて。そういえば、家に誰かが来るのは初めてだった気もする。
    「すげぇデカい猫だな、本当に猫なのか不安になるレベルだぞ」
     ソウジはそう笑いながら立ち上がり、ベッドにどっかりと腰かける。来客用の椅子など無いから、そこはソウジの定位置だ。またユンユンの尻尾が、ビターンと床を叩いた。トウマは「ユンユン、こいつは俺の友達だから勘弁してやってくれ」と苦笑しながら、ソウジに飲み物とお菓子を渡す。
    「悪いな~! いや、連絡してからきたほうがいいのはわかってたんだけど、スマホが止められちゃってさ」
    「また資金繰りが上手くいってないのか? しょうがない奴だな」
     お菓子を受け取ると、迷いなく開けて貪り始めたソウジを見て、トウマは肩を竦めた。そして隣に腰掛ける。
     ソウジとトウマは小学生からの縁だ。彼は顔が良くて、自信家で調子がよかったが、どうにも実力が伴わない。偉そうな口ぶりもするし、その実、何をしたってダメだし誠意が無い。自然とソウジは嫌われていったようだけれど、トウマはそんな彼を特段除け者にしたりはしなかった。トウマ自身、見た目や寡黙なことで人から距離を置かれがちだったからかもしれない。そうして、トウマがソウジを悪く扱わなかったのがよほど嬉しかったとみえる。彼はずっとずっとトウマに懐いていた。
     いわゆる、腐れ縁という奴にも相当するかもしれなかった。ソウジは成績も悪く、努力もせず、遊ぶように暮らしては酷い目にあい、その度トウマに泣きついてきたものだ。正直、トウマも彼が家を訪れた時点で、何の要件なのかはわかっていたのだ。
    「……で? 今日はいくら借りたいんだ」
     ソウジが言い出しにくそうにしているのを待つのも面倒だった。このやりとりは何度も繰り返してきたし、一度として彼が借金を返したことも無かった。それでも、トウマは彼を邪険に扱ったりはしなかったし、金を返せと怒鳴ることもなかったのだ。ベッドの下からはみ出た尻尾がピタリと止まったのが見える。
    「……トウマ~! お前、本当にいい友達だよ~!」
     ソウジはスナック菓子を食べる手を止め、飲み物を置くとトウマに抱き着いた。お定まりの流れにトウマは苦笑しながら、「あーわかったわかったから、いくらいるんだよ」と返す。ソウジはパンッと手を合わせて、「すまん! この通りだ! 10万貸してくれ!」と頭を下げた。
    「10万か……」
     いつになく大きな金額に、トウマは流石に目を見開いた。いつもは1万とか3万とかそういう数字だったから。10万ともなると、流石にすぐ財布から出て来るような金額ではない。どのみち金を下ろしにいかないとどうにもならないが、今回ばかりはトウマも「何に使うんだ?」と尋ねた。
    「オレは、オレは今度こそ真っ当になるよトウマ!」
     真剣な眼差しでソウジがトウマを見つめる。その台詞も何回聞いたかわからない、と思っているのがわかったのか「今度は見込みが有るんだ!」とソウジは大きな声で説明してくれた。
     知り合いのバーの店主が、ソウジのどうしようもない生き方を心配して、仕事先を斡旋してくれるというのだ。それも、真っ当な会社員として。真面目に勉強してこなかったソウジには何かと難しいことではあるけれど、大チャンスであることは間違いない。ソウジはこれから起こるあらゆる困難に立ち向かう覚悟を決めたという。その為に、とりあえずスマホや水道電気の滞納を解消し、スーツとビジネスシューズと鞄を買って髪を切り染め直さなくてはいけない。その金を貸してほしい、ということだった。
    「必ず返す! 必ずだ! 就職が決まったら少しづつでも絶対に返す! オレ、もうこのチャンスを逃したら次は無いと思ってんたよトウマ……! これは俺が人生やり直すラストチャンスだ、頼むよ、もう誰もオレのこと信じてくれないんだ、頼れるのはトウマだけなんだよ~!」
     泣きつかれながら、それはそうだろう、と心の中で思う。ソウジがどれほど苦労をしていても、それは半ば自業自得のようなものもあるし。こういうことを何度言って、何度失敗してまた泣きついてきたかもわからない。今回だって同じかもしれない。第一、本当にそんなチャンスがあって、そういう前向きな理由で使うのかも怪しいと言えば怪しいのだ。
     なのだけれど。
    「……わかった、わかったよ。でも手持ちが無いから、銀行に下ろしに行かないと」
    「……! トウマ、ありがとう~! お前はオレの親友だよ~!」
     トウマが溜息混じりにそう答え、ソウジが再び抱き着いてきた時。
    「フシャアアーーーッ!」
     突然ベッドの下からユンユンが飛び出して、ソウジに飛びかかった。
    「「うわぁあああ⁉」」
     ソウジとトウマは二人して悲鳴を上げて飛び退く。ユンユンは全身の毛を逆立てて、まさに怒髪天といった様相だ。
    「お、おい! 猫ちゃんめちゃくちゃ怒ってるよ⁉」
    「ど、どうしたんだろうな。ユンユン、落ち着いて……お客さん来てドタバタしたから興奮したのかな、ごめん、ごめんな、ちょっと俺達、出かけてくるから……」
    「うみゃぁあああああんなああああ!」
     なんとも形容しがたい叫び声を上げて、ユンユンはまたソウジに飛びかかろうとする。「ワーーッ!」とトウマはなんとかその巨体を捕まえて、「いい子にしててくれーっ!」となだめようとしたが、どうにもいうことを聞かない。
    「ソウジ、悪い! 先に外に出ててくれ、俺もすぐ出るから! 夕飯でも一緒に食おう、どうせ飯代無いんだろ」
    「おおお、おう、トウマ本当にありがとうな! じゃあオレは先に出てるから、」
    「うみゃああああおおおおおっ!」
     ユンユンは怒り心頭だ。大慌てで逃げていくソウジを見て喚いているのを、トウマが「ユンユン、いい子だから」と抱きしめる。がぶ、と軽く肩を噛まれて、「いてて」と思わず声を漏らすとすぐに口を離してくれた。
    「ユンユン、どうしたんだよ。頼む、いい子にしててくれ、な? 帰ったら話聞くから……」
     そう言って逆立った毛を撫でてやる。ユンユンはじっとトウマを見つめると、それでようやく大人しくなった。尻尾は、たしーん、たしーんと床を叩いていたけれど。
    「じゃ、じゃあ行ってくるから。お留守番しててくれよ? 大丈夫、アイツは悪いやつじゃないから、人になって追いかけてこなくても大丈夫だからな?」
     トウマはそう言い残して、財布を手に取るとソウジと共に家を後にした。
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    Medianox_moon

    MOURNING田中と宇津土とスキスギ君 っていうタイトルの、全くBLでもなんでもないコメディを書こうとしたものです。
    0 サラリーマンゾンビと神ベースとうっすい名刺 終わった。終わっちまった、何もかも。
     全てを失った……と言っても過言じゃない。俺はそう……一言で言って絶望に打ちひしがれ、孤独なサラリーマンゾンビのようにフラフラと歩いていたわけさ。
     街はすっかり日が暮れて、暗闇を街灯や店の照明が華やかに彩っている。道行く人は足早に駅へと向かう者と、逆にこれから夜を楽む者とでごった返していた。止まらない車の列は台風の日の河みたいに吸い込まれそう。そんな表通りは、サラリーマンゾンビと化した身には酷だ。
     そんなわけで、俺はその波から逃れるように、路地を曲がった。
     道が一本違うだけで随分静かになるもんだ。とはいっても、まだまだ繁華街の端。それなりに人は歩いていたし、暗い顔をして佇んでいる人影や、都会を生き抜く野良猫の姿も有る。通り一本挟んだ大通りの、人混みや車列がたてる音ははっきりと聞こえた。騒音だ。今の俺には、まごうことなき騒音。やけに大きく聞こえるから耳を塞ぎたくなったその時、俺の耳にボォン、と音が聞こえた。
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