Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    HbZld

    @HbZld

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 3

    HbZld

    ☆quiet follow

    若い頃の姐さんは王妃様に実らせる気のない片想いをしていたと思っています。

     城の石畳に軽快な蹄鉄の音が響く。蔦に彩られた城壁の間を、常歩で進む馬が二頭。白馬には黄金の髪の貴婦人が娘と共に横乗りし、白馬よりやや大きな馬体の黒馬には燃えるような赤い髪の女が跨っていた。
    「ウルボザは馬に乗るのも上手ね」
    「先生が良かったのさ」
    「ふふ。もうとっくに追い抜かされてしまったわ」
     目的地である桟橋まで辿り着くと、砂漠の女傑は黒馬からひらりと飛び降り、白馬に歩み寄って姫と王妃が下馬するのに順に手を貸した。
    「ウゆボじゃ、また来て。やくそくね!」
    女傑の名の発音は幼い姫にはまだ難しい。舌足らずに呼ばれた砂漠の若き長はくすぐったそうに笑って小さな姫を抱き上げた。
    「ああ。また会おう、御ひい様。約束だ」
    浅黒く精悍な頬が子どものふっくらとした頬に寄せられ、青く染めた唇がちゅっちゅっと音を立てる。頬を寄せ合う砂漠式の挨拶に姫は慣れた様子で応じた。
    「このまま連れて帰っちまいたいねえ」
    姫を桟橋に下ろしながら、女傑はしみじみと呟いた。王妃が片手で口もとを覆ってクスクスと笑う。たったそれだけの仕草がひどく優雅だ。
    「ダメよ。ロームが寂しがるわ」
    女傑は大袈裟にため息をついて見せてから、両腕を広げて胸の中に親友を迎え入れた。
    「戦に備えるのは良いが、無茶はしないどくれ。ゲルドは協力を惜しまない」
    華奢な友を守るように筋肉質な腕に力が込められる。
    「ええ、頼りにしています」
    王妃も目を細めて強まる抱擁に応えた。
    「道中気を付けて。ハイリアの加護がありますように」
    「うん」
     二人は別れを惜しんでなかなか離れようとはしなかった。そんな折だった。姫の耳にカラコロカラコロと不思議な音が聞こえてきたのは。
    森の妖精が黄色い花を辿る散歩に姫を誘っていた。姫が了承すると、彼女の身体はキラキラとした光の粒になって風のように駆け出した。浅黒い肌の女従者たちも侍女も馬丁も誰一人として気が付かなかった。
     長い抱擁をようやく解き、砂漠の民の長は船上の人となった。姫の姿が見当たらないと騒ぎになったのは、船影が見えなくなるまで王妃が親友を見送った後だった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏👏👏👏👏☺☺☺☺☺👏👏👏👏👏👍👍👍👍👍👏👏👏👏👍🙏🙏🙏🙏🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    HbZld

    PROGRESS若い頃の姐さんは王妃様に実らせる気のない片想いをしていたと思っています。 城の石畳に軽快な蹄鉄の音が響く。蔦に彩られた城壁の間を、常歩で進む馬が二頭。白馬には黄金の髪の貴婦人が娘と共に横乗りし、白馬よりやや大きな馬体の黒馬には燃えるような赤い髪の女が跨っていた。
    「ウルボザは馬に乗るのも上手ね」
    「先生が良かったのさ」
    「ふふ。もうとっくに追い抜かされてしまったわ」
     目的地である桟橋まで辿り着くと、砂漠の女傑は黒馬からひらりと飛び降り、白馬に歩み寄って姫と王妃が下馬するのに順に手を貸した。
    「ウゆボじゃ、また来て。やくそくね!」
    女傑の名の発音は幼い姫にはまだ難しい。舌足らずに呼ばれた砂漠の若き長はくすぐったそうに笑って小さな姫を抱き上げた。
    「ああ。また会おう、御ひい様。約束だ」
    浅黒く精悍な頬が子どものふっくらとした頬に寄せられ、青く染めた唇がちゅっちゅっと音を立てる。頬を寄せ合う砂漠式の挨拶に姫は慣れた様子で応じた。
    「このまま連れて帰っちまいたいねえ」
    姫を桟橋に下ろしながら、女傑はしみじみと呟いた。王妃が片手で口もとを覆ってクスクスと笑う。たったそれだけの仕草がひどく優雅だ。
    「ダメよ。ロームが寂しがるわ」
    女傑は大袈裟にため息をついて見せてか 881

    recommended works