ウィル・スプラウトを表す言葉は色々ある。好青年、お人好し、甘党、お兄ちゃん属性、世話焼き。少しひねくれるなら味音痴に過保護といったところか。
裏を返せば彼を貶められる要素がその程度という証明でもある。要するに、大抵の人間は彼を品行方正な人物と捉えるのだ。
そうぼんやりと、世の中の認識と目の前にある現実を照らし合わせては、詐欺だよな、と独りごちた。
「何が?」
「何って、……今ここにある全てが?」
漏れ出た言葉に呼応してウィルが首を傾げる。それだけならば普段の彼と何も変わらない。ここがラブホで、シーツを纏い、手元に火のついたタバコがなければ、だが。
「ほんと、詐欺だよね」
「だーかーらー、何が?」
「ウィルが。こんなこと何も知りませーんみたいな顔しといてさ」
「何それ。そもそもこういうことを俺に教えたのはフェイスくんじゃないか」
それを言われるとぐうの音も出ない。元ルームメイトをたぶらかしたのは事実だから。
何くれと世話を焼いてくるくせに、俺自身を見ていないウィルに対する腹いせだったのか、その奥にある寂しさにどこか同じ匂い感じた傷の舐め合いだったのかはもう自分でも判断がつかないけれど。
「ウィルも染まっちゃったね」
「別に成人してるし、何も問題ないだろ?」
「ウィルが吸ってるってだけで犯罪感あるよ」
からかうとウィルは不満げに頬をふくらませた。先程自分は成人だと宣言した男の動作にしては滑稽でありながら、それはウィルによく似合っていた。
「フェイスくんなんてもう知らない。一人で寂しく夜を過ごせばいいよ」
「ゴメンって。冷たいこと言わないでよ」
ウィルの肩にしなだれかかって甘えた声を出す。ウィルはこうして甘えられるのが好きだから。思った通り、ちらっとこちらを見てから仕方ないなぁというポーズをとるウィルに笑いをこらえるのが大変だ。
「仕方ないから許してあげる」
「っふ、アリガト」
「……フェイスくん?」
まずい。 思わず吹き出してしまった。
途端に浮上したウィルの声も地獄の底ほど低くなる。取り繕った笑顔を向けたがもう手遅れだった。
「……ノースにあるホテルのスイーツバイキングでどう」
「その中にある和菓子屋さんのいちご大福もテイクアウトで」
ニッコリ笑顔で上納品を巻き上げてくるウィルに苦く笑うしかない。静かに首を縦に振るとパッと笑顔が華やいだ。
「やった!じゃあ早く行こ!」
持っていたタバコを灰皿に押し付け、さっさとベッドを出ていく。その変わり身の早さに嘆くべきか笑うべきか。
「フェイスくん! はーやーく!!」
人のことをほっぽってバスルーム向かったんじゃないのか。やれやれとこちらもようやくベッドから出る。
この関係が良いのか悪いのか、未だに判断が付けられないけど、この時間を失うことは惜しいと思うのだ。