「こんな俺、好きになんか、なってくれないよな……」
いや、好きですが何か???
おっと、いきなり失礼。思わず本音が。初めましての人は初めまして。そっじゃない人はごきげんよう。ガスト・アドラーだ。って何いきなり自己紹介してんだよ。
虚しく一人ツッコミを入れながら、目の前の現実をどうにか飲み込む。俺の視線の先にいるのは、ウィル・スプラウト。ついさっき、トレーニングルームでちょっとした口喧嘩になって、足早に出ていった相手だ。そして俺は、そんなウィルの忘れ物を慌てて届けに来た紳士。よし、ダメだこれ。
話の流れ的に、おそらく、きっと、ウィルは俺のことが好きで、今までの態度から叶わない恋だと思い込んでいる。これは俺の願望ではないはず。ではここで調子こいて『マジで!? 俺も!!!』と出ていったらどうなるか。良くて逃げられる、悪くて振られる。両思いなのに。だがこれはほぼ間違いない。だって考えても見ろ。オトモダチもお断り、いつでもどこでも大嫌いと言い続けて来た相手にどの面下げてあなたが好きですって言える? いや、こっちからしたらバッチ来いだけど本人の心情としてさ、無理だろ。言ってて地味にダメージ来た。なんで俺がこんな目に、両思いなのに。
「っ、アドラー……!?」
「あ、はい、アドラーです」
アドラーですじゃねえんだよ。
俺がぐるぐる考えていたせいでうっかり見つかった。これはムチも致し方なし。甘んじて受けよう。脳内マリオンにベチベチしばかれている間に、ウィルの方も何かしらの整理がついたらしい。
「……聞いてたんだろ」
「まあ」
「なら、隠す必要はないか。バカみたいだろ。あれだけお前に辛く当たったのに、好きだなんて」
「俺としては大勝利なんだけど」
「こういう時までお前はそうなんだな……。いいよ、別にはっきり言ってくれて。そうしてくれた方が踏ん切りが着く」
ウィルは儚げな笑みを浮かべ、何やら覚悟を決めたようだ。なるほど、それがお望みならこちらも応えてやろうではないか。
「じゃあはっきり言うけど、お前が俺に辛く当たってる頃は一方的に惚れてるんだよ。優しいいいやつみたいに言うけどそりゃそうだろ、惚れてんだから。必死のアピールだよ、アピール。その感じだとまっっっっったく伝わってなかったみたいだけどな!! そもそもなんだそのケジメつけよう感。つけられたら困るんですがね、こちとら。むしろ未練タラタラで縋ってくれた方がよっぽど良かった。なに、俺への思いってそんなもん? 俺がお前のこと興味ねえよって言ったらさよならバイバイってか。ふざけんなよ」
まだまだ言いたいことはあるが、肺活量が足りなかった。大きく息を吸って口を開こうとする、がそれはウィルの手に遮られた。少し俯いているせいで表情は伺えない。分かることは、触れたウィルの手のひらが震えているということだけ。
やっちまった。ついカッとなって色々言い過ぎてしまった。今更弁明したところで、吐いた言葉は飲み込めない。両思いとわかった瞬間にきちんと嫌われて振られるとか、立ち直れる気がしない。
「ホントなのか……?」
「……ごめん、どれ」
「え、あ、……俺のことが、好きだって」
「どちゃくそに好きですけどなにか???」
先程散々口にした気がするが、それほど信用がないんだろうか。ただただへこむわ。
テンションとともに落ちる肩にそっと重みが加わる。ウィルの額が押しつけられて、震える手のひらが俺の服の裾をギュッと掴んだ。
「えと、もしかして、両思い、であってる?」
「それは俺が聞きたい。散々アピールしてきたはずなのに、諦めモードに入られてたし」
「そうか、アピールされてたのか……」
マジで気づかれてなかったことに涙が溢れそうだ。この悲しみを癒してくれるのは、目の前の人物しかいない。俺は寄せられた体に腕を回してそっと力を込めてみる。 意外にも、その体はすんなりと俺の腕に収まった。
「それで? ウィルはどうなんだ」
「……さっき聞いたんだろ」
「直接は聞いてない。俺は言ったのに」
「お前のは、なんか、違くないか?」
「知らねえ、言ったもんは言った」
「…………仕方ない、一回しか言わないからな」
──俺もアドラーが好きだよ。