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    Satsuki

    短い話を書きます。
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    Satsuki

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    灰色の悪魔さんと人食い燕さんの邂逅についてまだ考え続けている……敵対ロマン〜〜!!
    220523

    「てめえら、下がってろ!」
    夜闇を切り裂き、目の前に一羽の黒鳥が舞い降りたかのようだった。一瞬でも剣の切っ先を下げていれば、やられていただろう。ベレトは鈍色に光る刃を受け止め、払い除けた。素早く斬り返され、また受ける。重くはないが、的確にベレトの隙を突こうとする太刀筋だ。剣戟が辺りに響き、閃光の如く次々と攻撃を繰りだされ、後じさる。突然現れたその男は、明らかに今までの賊と動きが違っていた。
    (まずいな……)
    チラ、と背後の様子を窺う。どうやら囲まれている。父の傭兵団から離れすぎたのは誤算だった。請け負った盗賊団の討伐依頼では、奴等の拠点はもっと西のはずだ。人数も、聞いていたより多い。影からこちらを見ている賊の存在に気づいたまでは良かったが、たった一人で深追いした。そこに、こんな剣士が現れるとは。
    「余所見とは余裕だな!」
    「ッ‼」
    フードを被った青年は、ベレトが周囲に気を取られた一瞬の隙をついて間合いをとると、ニヤリと笑った。その手に魔力が集中する。身を引き、剣を構えて防御した。
    「ハッ‼」
    青年の声と共に、何か、無数の目に見えない風の刃のようなものがベレトを襲った。幸い、その身を切り裂かれるようなことはなかったが、体勢を崩されるには十分な威力だった。剣を弾かれ、ガラ空きになったベレトの懐に、信じられない速さで青年が潜り込む。やられるわけにはいかない。ベレトは正面から迎え討つ。暗灰色のフードが外れ、月明かりに相手の顔が晒された。
    初めは黒鳥だ、と思った。その次は、言葉を失った。朝焼けの、夜との狭間色をした髪がふわりと靡き、同色の鋭い目がベレトを真っ直ぐに睨んでいた。一瞬、少女と見まごうような、美貌。
    籠手で鉄の剣を受け止め、相手の勢いを利用して体術を仕掛ける。体格は同程度、相手の方が軽い。勝てる、と踏んだ。しかし、背後に回っていた彼の仲間がそうはさせるはずもなかった。
    「ぐっ……!」
    ゴッ、と鈍い音が頭蓋に響き、ベレトは相手を掴んだままぐらりと傾ぐ。鋭い肘打ちが鳩尾へと叩き込まれた。
    「ガハッ……!」
    地面に膝をついたベレトを、夜明け色の髪が容赦なく蹴飛ばして転ばせる。背中に膝が乗った。髪を掴まれる。
    「おい。今、なんで手加減した? 死にてえのか?」
    ドスの効いた声はまだ若い。ベレトは砂混じりの唾を吐き捨てると、呟くように答えた。
    「先に加減したのはそちらだ。それで、自分達の標的ではない、と気付いた」
    「ふっ……盗賊なんて、どれも同じだろうに、金にならねえなら戦う義理もないってか。御苦労なこって、傭兵サンよ」
    ベレトを囲んでいた連中が姿を見せる。三人、いや、四人。偵察していたところを見つかった男が、お頭、面目ねえ、と頭を下げている。ベレトは冷静に思考を巡らせた。今すぐに背後の男を跳ねのけて、全員殺すこともできる。お頭、と呼ばれたこの青年を逆に組み伏せて、人質にすることもできるだろう。ベレトの冷たい目に、ゾクリと夜明け色が瞬いた。髪を掴んでいた手が、もう一度強くベレトの顔を地面へと押し付けると、すぐさま手際よく、呻く傭兵を後ろ手に縛り上げてしまう。やはり、命を奪うつもりはないらしい。
    「ッ……すぐに自分の仲間が来る」
    「その前におさらばするさ。あんたの命までは取らねえが、その代わり仲間に伝えろ。ここらは元々、俺たちのシマだ。勝手に荒らして、商人を襲ってたのは奴らだけ……こちらにまで手を出すんじゃねえ、ってな」
    「分かった」
    「……」
    静かな返事に、それ以上の問答は続かなかった。ベレトは首を捻って青年を見上げる。自分を殺さない、ということは、傭兵団に恨みを買いたくないのだろう。それだけ、守りたい大切なものがあるということだ。青年の目には、満月のような輝きがあった。刹那、ベレトを見つめる、その瞳。
    「……俺の仲間に手を出したら、次は容赦しねえ。行くぞお前ら」
    再び目深にフードを被り、踵を返すと、青年は連中を引き連れて闇に紛れていってしまう。足音の消えてゆく方向は散り散りだ。なんて用心深いのだろう。ベレトは彼の足音に耳をすませる。きっと、また会うことになるだろうという予感がした。彼らの気配が消えたのとほとんど同時に、ジェラルトの馬の蹄が地面を蹴る音と、仲間がベレトを呼ぶ声が聴こえはじめた。


    終わり

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