・記憶喪失ネタ
・数年後設定、アオイちゃんは少なくともアカデミーは卒業している
・捏造と妄想のオンパレード
・まだくっついてないけど無意識にカノピ面するチャンチリがいる
・作者は東日本の民、なんJとか西の高校生探偵の影響が滲み出たコガネ弁になってる
・チャンチリ以外にも色んな人の口調がとても怪しい
・元々文章力語彙力表現力経験不足の人間がリハビリに書いたやつ
・なんでもゆるせる人向け
・とにかく広い心をお持ちの方向け
●
――アオイが緊急搬送された。
その一報が入ってきたのは日もどっぷり暮れた頃のことだった。朝から書類仕事に追われ、ようやっと一段落したと思ったところで、オモダカから電話がかかってきた。人使いの荒い我らが総大将のことだ。今度はどんな仕事を回してくるのだろうかと思うと、自然とため息が出てしまった。
「はいトップ、今度はなんですー?」
(こら定時で帰るんは諦めなあかんな)と苦笑いしつつ、いつもの調子で応答した。
「……いいですか、チリ。落ち着いて聞いてください」
電話の向こうの彼女は、普段から砕けた話し方をする人ではない。だがそれにしても、明らかにいつもと違いすぎる。チリは息を呑んで、話の続きを待った。けどそれは、あまりにも衝撃的な内容だった。
「アオイが事故に遭い、病院に運ばれました」
●
オモダカからの知らせに、どんな返答をして電話を切り、何と言って職場を抜け出し、どうやってここまで来たのか。チリにはいっさいの記憶が無かった。気がつくと、アオイが搬送された病院の入口にいた。
とりあえず病院の中に入ったが、総合病院ということもあって、かなり広い。アオイに会うにはどこへ向かえばいいのか分からない。そもそも、通してもらえるものだろうか。治療は終わったのだろうか。それとも――
チリの脳裏に最悪のケースが浮かび上がってきたところで、ボタンが駆け寄ってきた。
「チリさん!」
「ボタン……そうか自分、今日は休みやったもんな」
アオイの友人、ボタン。彼女はチリと同じリーグ勤めだが、今日は休日であった上に、ボタンの家はこの病院から近いため、先に到着していたのだった。
「その、アオイは……」
「実際に見た方が分かると思うので……アオイの病室に案内します」
くるりと踵を返すボタンの後を追って、エレベーターに乗り込む。彼女が押したのは8階行きのボタン。扉の上の階数案内を見ると「病室」とだけあった。エレベーター内はボタンとチリの二人きり。お互い無言のまま、重苦しい雰囲気が流れている。アオイの症状がとにかく軽いものであってほしい。必死に祈りつつ、横目でちらりと見たボタンの顔色は悪かった。
ボタンはエレベーターを降りると、蛍光灯で照らされた廊下を早足で進んでいき、とある病室の前で立ち止まった。ネームプレートには、アオイの名前が書かれている。
ボタンがドアをノックしてから、「チリさん来た」と声をかける。応答はなかったが、そのままボタンが「どうぞ」と入室を促した。
深呼吸をして、扉を真横に引くと、目に飛び込んできたのは――真っ白なベッドの上にいる、アオイの姿。頭と腕に包帯がぐるぐると巻かれ、左の頬にガーゼが当てられているのが痛々しい。
「……っ、アオイ……!」
病室にはネモとペパーもいた。二人は安堵と心配が入り混じったような表情のチリを見て、何か言いたげにしながらもベッドサイドから少し離れた。チリは二人に軽く礼を言ってからアオイのそばに寄り、傷が痛まないようにそっと抱きしめた。
「アオイ……ほんまに……生きててよかった」
まるで壊れものを扱うかのような、そんな抱擁ではあっが、彼女はちゃんと生きているのだということが直に伝わってくる。あたたかくて、真新しい包帯と薬の匂いがする。
「あ、あの」
腕の中から、少し遠慮がちなアオイの声がした。もしかして痛かっただろうか。チリは慌ててアオイを解放した。
「あ、ああ、堪忍な! 怪我してるんにハグしてもうて。チリちゃん、アオイが事故に遭ったって聞いてもういてもたってもいられんくてな。でも、生きててくれて」
「だれ、ですか」
「……へ?」
だれですか。その文の意味が分からない、なんてことはもちろんない。何でそんなことを今さら聞くのか。チリにはそれが理解できなかった。だって自分たちは数年前からの知り合いで、年の離れた友人のような、姉と妹のような――そんな関係ではないか。
「ええと、その……あなたは、いえ、あなたも、だれですか?」
目の前のアオイの表情には見覚えがある。カラフジムの受付で初めて会った時の――あの時の顔だ。自分は今と変わらずリーグ勤めだったけど、彼女はまだアカデミーの生徒で、子供だった頃。
初対面の、見知らぬ人間に自分の強さを褒められて、嬉しいけれど、ところでこのひとはだれなんだろうと、疑問に思っている時の顔。
その時の顔と同じということは、つまり。
チリは結論に辿り着きはしても、それを受け入れられなかった。
「ア、アオイ〜、冗談きついて。チリちゃん悲しいわ。そんなん言うてたら治るもんも治らんで」
は、ははは。自分の乾いた笑い声だけが部屋に残る。
アオイのアンバーの瞳は、困惑の色に染まっていた。
「その、冗談とかじゃ、ないんです。本当に、ごめんなさい。……私、何も思い出せないんです」
●
自動販売機でミックスオレを二つ買って、ペパーとネモに手渡す。「さっきみっともないとこ見せてしもたし」と言えば、黙って受け取ってくれた。流れで自分の分のブラックコーヒーも買ったが、プルタブを開けても、飲む気になれなかった。
「……それじゃあ、自分のことも含めて全部忘れてるっちゅう」
「生活をしていく上で必要なことは覚えてるみたいなんだけどよ……」
「わたしたちや、ポケモンのことはみんな……」
「……そか」
二人が病室に入ってきたチリを見た時、複雑そうにしていたのはアオイの記憶喪失のことを知っていたからだろう。きっと二人も、自分と同じようなやり取りを彼女としたのだ。