酔いどれダーリン、嫉妬して偉大なる高等吸血鬼であるドラルクは酒が好きである。
まぁ、飲めないけど。
酒は百薬の長と言う言葉があるように、適量であれば、どんな良薬よりも良いと言われていた。
酒好きな人間が昔からそれなりに居たと言う話だし、古き血の吸血鬼であるドラルクも宴会とかは嫌いではない。
今までは、参加はしてこなかった。
胃弱だし、最近は、血ですら牛乳で割って飲まないと胃が荒れて死ぬドラルクは酒なんて飲める訳がない。
しかし、ドラルク最多死因である退治人のロナルドと付き合ってからの退治人ギルドの飲み会への出席率は良かった。
最初は酔っ払った恋人を呆れたように面倒を見ていたのだが、まぁ、度が過ぎるほど飲みまくるロナルドに新しい楽しみを見つけたと言うか。
最中と言うか、事務所に帰ってからが楽しいのだ。
今日もアホみたいにガバガバ飲んだロナルドはサテツとショットに担がれて帰宅した。
世界一可愛いアルマジロのジョンは、まだ、飲み会から帰ってきていない。女子勢にはなしてもらえないモテモテマジロだ。
ちなみにドラドラちゃんは恋人とは言え筋肉の塊ゴリラを持って帰るのは、愛の力を持ってしても不可能である。
普通に下敷きにされて、デスリセット。明日の朝日にチリチリにヴェルダンだ。
そうして、ソファーに座らされたロナルドはしばらく、頭をフラフラしていたが、二人が帰った瞬間、キッとドラルクを睨み付けた。
「どらこー!!」
「おっと、何だい?ロナルド君。顔が真っ赤じゃないか」
急に怒ってますと言わんばかりに睨み付けてきたロナルドの隣に腰掛けた。
銀の髪は汗でしっとりとして、潤んだ青の瞳は激怒の二文字。
普通なら、逃げ出すが、ここからがお楽しみなのだ。
もちろん、お酒が入ると薄らと肌に赤みがさして、それを眺めるだけでも、なかなか楽しいのだけど。
「なんで?ショットたちとのんでんだよ?」
「彼らは友人じゃないか」
「俺が一番だろ、だったら、俺と一緒に飲まないと駄目だ」
「駄目なの?」
「うん」
「わがままルド君、可愛いねぇ」
「もっと、ほめろ」
「可愛い可愛い」
「手も繋げ」
「うんうん」
「…ぎゅーとしろ」
「分かったよ、私の可愛い五歳児君」
手を繋いだ後、出来る限り強く抱き締めてやれば、細い腕の中で、ふにゃりとロナルドは笑った。
さっきまで、軽く殺気立っていたのに、ドラルクが可愛いおねだりを叶えるだけで満足する素直がいといけない。
それが可愛くて可愛くて、おでこにキスをしてやれば、嬉しげにクスクスと笑い声を上げる。
お酒を飲むとロナルドは酷く嫉妬深くなるのだ。
俺と一緒なら、俺が一番じゃないとやだ。
他の奴とは話しちゃやだ。
笑うのもズルい。
ショットと俺よりも目が合ってた。
サテツの腕、借りるな。
ジョンは世界一可愛いから良いけど、俺も構え。
そんな事をつらつらとドラルクに怒りながら、手を繋げとか抱き締めろとか甘えてくるのだ。
いや、この五歳児可愛すぎるだろ?軽く死んだ。三回は余裕の砂である。
最初はこんな事で殺されるの!?え??女性陣とも絡んでないのに!?!?ムサイ男と絡んだだけで!?!?1人はムダ毛フェチさんだぞ!?!?と思っていたし、週バンに退治人ロナルド、恋人に酒乱DVと載るとこまで過ぎったのだが、膨れて、怒るのは怒るのだが、可愛いわがままを叶えて貰えば満足らしく、最後にはニコニコ笑って、ドラルクの腕の中である。
いや、可愛過ぎて、畏怖るわ。
吸血鬼恋人が可愛過ぎて畏怖るに改名してしまう。
そう、ドラルクは、こんなに可愛い人が居たのかと思った。
もちろん、ドラルクは最初からロナルドに首ったけだ。
カッコ良く退治人の仕事をする彼も馬鹿みたいな変態共にブチ切れてる彼もお子様プレートにはしゃぎ回る彼だって、全部、ドラルクは愛おしい。
付き合うと言うのは、もちろん、最期の眠りにつくまで。
それがどちらの眠りになるかは、ドラルク次第だろうが、結構良い勝負になるんじゃないかと思う。
お父様とお母様と同じように、私達だって、ずっとずっと、一緒がいいのだ。
他の誰も代わりにはなれないし、ロナルドにもドラルクの代わりなんて要らない。
2人だけの世界にジョンとついでにメビヤツが居れば満足である。
他人から見れば、ロナルドは、嫉妬深く、大層めんどくさい男に違いない。
だけど、ドラルクはその嫉妬が嬉しい。
ロナルドは、ドラルクだけは奪われたくないと思ってくれている。
人の良い彼がドラルクだけは誰にも譲りたくない。
一番じゃないと嫌だなんて可愛いわがままを言うのだ。
それを愛さないなんて、出来るはずがないだろう。
「どらこぅ、おれ、好きか?」
「大好きだよ、ロナルド君」
「じゃあ、ちゅーしてやる」
「それ、君がしたいだけだろ、若造」
うるさいとペチンと頬を軽く叩かれたが、弱々し過ぎて流石に死ななかった。
触れるだけのキスは酒の味がちょっとだけした。
ままごとみたいなキスを唇にしたロナルドはふんぞりかえって、笑う。
「うれしいだろ?」
「恋人からのキスだよ、嬉しいに決まってる」
「ひひ」
小さく笑うロナルドはご機嫌で可愛い。
どこか自分に自信が無かったあの若造がキスされて、嬉しい違いないと胸を張るだけでドラドラちゃん、泣いちゃいそう。
しかし、悪戯っ子になっているようだが。
「でもね、ロナルド君、あんまりお酒飲み過ぎちゃ駄目だよ」
「やだ」
「やだじゃない。お酒飲むの控えるなら、この偉大なる高等吸血鬼ドラドラちゃんがとびっきり良い事を教えてやる」
「ん〜、じゃあ、ちょっと考える」
「考えるだけ?」
「教えてくれたら、もうちょっと考える」
「仕方ないなぁ、じゃあ、言うよ」
赤くて美味しそうな耳に誰にも聞こえないように囁いた。
「次は酔ったフリなんてしなくて良いくらい甘やかしてあげるから」
「……殺す」
「ヴァーーー!?!?!?」
ズドンと正拳突きを喰らって、ドラルクは死んだ。
「ばーーーか!ばーーーか!!明日はオムライスにしろ!!今日は1人で寝てろ!ばーーーか!!!」
「あーーー、ロナルド君、待って!そんな事言わないで!ね?明日のオムライスにジョンの旗乗っけてあげるから!!」
プイっとそっぽを向いたロナルドを宥めるように手を握る。
あのね、ドラドラちゃんだって、恋人がお酒をどれくらい飲んでるかくらい把握してるだよ。
君は知らないかもしれないけど、私の目には君しか映っていないんだから。
「…おやつ、プリンにしろ」
「うんうん、任せて」
「じゃあ、一緒に寝る」
可愛い人の可愛いわがままにドラルクは笑う。
何時もよりも遥かに少ない量で何故か酔っ払った恋人のうなじは見事に真っ赤に染まっていた。