穏やかなひととき
今日は紺碧さんと草原に光を集めに来ている。
巨大な神殿は雲に浮いているようで、広々した空に自由に舞う大きなマンタと白い鳥。
いつでも強い風が吹いていて、俺たちのケープも風をはらみ勢い良くはためいている。
誰かが塔に火を灯したらしい、鐘が鳴り響いた。
* * *
星の子は火を体内でエナジーに変えて生きている。
そして星の子同士で一定の距離近づく、手をつなぐなどしたとき、お互いの光のエナジーが体内を行き来するようになっていて、距離が近いほどよく巡る。
エナジーが巡ることで互いに光を補完しあい、一緒に飛ぶとき動きを合わせられるようになる。
これにも相性があるようで相性がいいと動きも良くシンクロし、かなり飛びやすくなる上にエナジーの補給も早くなる。
* * *
「すごい飛びやすいんだけど、雪白くんどう?」
小鳥のさえずりのなか、俺の手を引きながら紺碧さんが聞いてきた。
「俺もそう思っていました」
雨林でキャリーしてもらったときもそう思ったが、彼も同じように感じていたのか。
お互いを行き来するエナジーの巡りが一定で滑らかだ。
「雪白くんが、結構エナジーの容量多いのかな? なんか流れ込んでくるのが早いというか、多い」
「え、でも俺そんなに羽根の数多くないですし、そんなはずないと思いますが」
容量は羽根の枚数で決まる。
彼は11枚羽根、圧倒的に俺よりも多い。
「紺碧さんのエナジー管理が上手だからじゃないですか」
「うーん。ま、相性がいいってことで」
顔にかかる髪を耳にかけながら彼は言った。
そういえば、彼は少し変わった髪色をしている。
腰までありそうな銀の長髪なのだが、所々が青色なのだ。
とくに耳の後ろ、左右にひと房ずつある青い髪の束が印象的だ。
ピンクの髪の星の子は見たことがあるが、こういう髪色の人もいるんだな。
俺は今自分が身に着けている「怒れる運び人」のケープを指先でつまんでみた。
明るい海のようなブルーグリーンの鮮やかなケープ。
これは紺碧さんに借りているもので、今まで着ていたケープはしばらく手入れをしていなかったせいで傷んでしまい、修繕に出している。
彼のケープは俺には大きいので、ケープというよりマントみたいだ。
彼と一緒に飛んできたケープは、今までどんな経験をしてきたのだろうか。
ふと、隣に彼が居ないことに気づいた。
慌てて見回すと、マンタに攫われていく紺碧さんの姿。
「あああ、雪白くーん! 飛んできてー!!」
上空から声だけが降ってくる。
俺は苦笑しながら、手つなぎを使ってすぐ隣にワープした。
しっかりしているように見えて、時々こんなことがあるんだよな。
「書庫の最後も、マンタトラップでなかなか火が取れないんだよねぇ」
悠々と神殿へ向かうマンタの背の上、彼がのんびりと言った。
陽の光があたたかい。
「ああ、あそこ。分かります」
ふわり、ぐるぐると何周もさせられた経験がたくさんあるのを思い出し、みんな経験あるんだなと笑う。
「さ、降りよう」
神殿が近づき、差し出された手。
日差しの中で彼の髪も、金の飾りのついた白いケープも眩(まぶ)しい。
このskyの世界は、どこを見ても美しいな。
目の前いっぱいに広がる景色と、目の前の人を見て俺はふとそう思った。
「紺碧さん!」
神殿横のキャンドルのメッセージを眺めていると、面白い伝言を見つけた。
いいものを見つけた、と顔に書いてありそうな表情の雪白を見て、紺碧が伝言をのぞき込む。
「なになに? “このメッセージを見つけた人はラッキーです! 小指という小指をタンスにぶつけないでしょう!”」
読み終えないうちに笑いだす紺碧さん。
我慢していた俺も吹き出し、笑いだす。
「これ・・・紺碧さんにぴったり・・・」
笑いを押さえながら俺が言うと、彼はさも意外そうな顔をした。
「えーなんでー!僕しっかりしてるでしょ」
「だって今朝、洗って乾かしたお皿、野菜を保管している棚に入れようとしてましたよね」
「ええ!見られてたの!!入れてないよ!入れそうになったけどさ!」
入れそうになったのは事実なんだな。
笑いすぎて出てきた涙をぬぐって、お互いなにか言い合いながら次のエリアへ向かう。
穏やかな一日の、小さいけれど幸せな出来事だった。