ある「元」光の戦士の6.02その4 ペンダント居住館の前を通りかかったエルフは、甘い香りに誘われた。窓の空いている一室からハーコットの香りが流れ出ている。
そういえば最近甘味を食べていない。
元より香りの強いハーコットが目立つが、他にも果物を使っているように気がする。それなりの手間をかけて作られているのかもしれない。
あの部屋の住人は何か祝いごとでもあったのだろうか。
「ご所望の品です」
うやうやしい態度で妖精王に器をお届けする。
「くるしゅうないのだわ」
器には果物を煮詰めてゼラチンで固めた涼菓、ハーコットゼリーが盛り付けられている。
「ふーん」
と、ゼリーの周りを飛びながら観察するフェオに、フィーネは謝罪する。
「お茶かけちゃったのごめんよ!!」
改めて謝罪する。この間も怒らせて仲直りしたばかりなのだ。次は気をつけないと、と肝に銘じる。
「どうしようかしら。ん、まあまあね」
フェオがゼリーを口に運ぶに。イマイチそうな口ぶりだが、食べるペースを見ると気に入ったようだ。
「よく冷えているわ。どうやったのかしら」
「アイスシャードを使うとよく冷えるんだ」
本来料理には使わない触媒だが、持っていれば何かと使い道はある。
フィーネもいつも多めに確保していた。
「あなたのことだから魔法を撃ったのかと思ったのだわ」
確かに横着してファイアで食材を焼くことはあるけれど。だいたい焦げるし、ファイジャだと消し炭になる。
「魔法で冷やすのは加減が難しくて。凍って砕けることが多いからやめたんだ」
できなくはないのだろうが、炎魔法より苦手なのである。
「やったことはあるのね?」
じっとりした目で見られている。ピクシーにあきれられるヒト、フィーネ。
「むかしね。タタルさんにめちゃめちゃ叱られた」
「なにを凍らせたのよ」
「巨匠の水薬(HQ)を12グロスほど。ブリザラで氷を出して飲み物を冷やそうとしたら、間違えてフリーズ撃っちゃってさ。あんな虚無の顔は生まれて初めてみたよ」
「水薬……おいしくなさそう。そんなもの凍らせてしまって良いのだわ」
「たしかに美味しくなかったけど。タタルさんは美味しい水薬がとかいっていたな」
「ヒトは不思議なのだわ」
「味覚は人それぞれだからね~」
あはは、と楽観的に笑っているが、実はその時の損害賠償をまだ払っていないフィーネである。原価で良いので弁償するか働いて返すように言われている……。
「材料はどうしたの?」
ぱくぱくとゼリーを食べるフェオが問う。
「リトルレモンはユールモアの帰りに採集した」
「あなた、そんなことしていたかしら?」
「昨日はフェオちゃんが寝ていたからね。その隙を狙いました」
渾身のドヤ顔を決めるアウラがそこにいた。
「これは?」
ややスルー気味に聞いたフェオの持つスプーンにのっているのはハーコットだ。
「イル・メグの木にあった気がするけれど、行ってないでしょう?」
「それはベスデンにわけてもらったんだ」
博物陳列館で働いている人だ。アウラ同士なのもあってなにかと交流がある。
「あなた……」
驚いたようにフェオの瞳が大きくなっている。感激したのだろうか。
「ヒトの友だちがいたのね」
そこかい。
「『美しい枝』」
フィーネの瞳は閉じ気味である。『美しい枝』に友だちがいないと思われているのはショックが大きい。せめてオブラートに包んでほしい。ピクシーがオブラートを使うのかはわからない。
「ま、まあ、お詫びだからさ……ちゃんと材料も集めたんだよ。ガーデンビートシュガーも入っているけれど、これもベスデンにもらった。彼は甘いものが好きみたいだよ」
闇の戦士として過去に恩を売っておいてよかった。また依頼するからよろしく、とも言われてしまったが。
「私もたべよーっと」
フィーネは冷やしておいた自分の分を取り出して、フェオの向かいに座る。
「おかわり」
スプーンを手に持ち、さあ実食というところでフェオが言った。
「ふたり分しかないんだよ」
困ったように笑いながら、フィーネが告げる。
「じゃあ交換しましょ」
食べ終わった器を差し出して、フェオが笑っている。
「何を」
「私の器と、若木の器よ」
にっこり。
フィーネは自分の器と彼女の器に交互に視線を移す。
「フェオちゃん、食べ終わってるじゃない」
「お詫びに。何でも。するって。あなたが。私に」
区切りながらフェオが言葉を紡ぐ。首をかしげるようなしぐさがかわいらしい。
「私の……ゼリー……」
「若木のものは、私のものよ」
かくしてフィーネのハーコットゼリーは『美しい枝』の胃袋に収まることになる。
〜おまけ〜
フィーネが凍らせた巨匠の水薬(HQ)
漆黒時代、みんな大好きだった巨匠の水薬。HQ3個をクリスタリウムでリーヴ納品すると7000ギルもらえる。
12グロス=1728個=約400万ギル分である。※6.0でナーフされたので半分以下の金額になってしまった。
タタルさんのいう「美味しい水薬」は「利益が美味しい水薬」の意味。
クリスタリウムに行けないタタルさんはフィーネに換金しに行かせようとして呼びつけたらこれである。
その後フィーネはアン・アヴァンとイルーシブジャンプを駆使して逃げた。
タタルさんはフィーネ対策をしっかりしたので、今はもう逃げられないだろう(ある「元」光の戦士の6.01その3参照)。
ブリザラ
漆黒時代の話なので使用者の周囲に氷が発生する。暁月からは遠距離範囲になった。
ハーコットゼリーの素材
リトルレモン
コルシア島 6:00~ 18:00〜 未知
ユールモアの帰り(ある「元」光の戦士の6.02その3)で採集した。
ハーコットとガーデンビートシュガー
採集するならイル・メグだが、今回はベスデンにもらった。
このエピソードはサブクエスト「水晶公の御用達」をベースにしています。
クエスト報酬でベスデンにもらえるのはハーコットゼリーそのものですが、彼なら材料のハーコットも持っているでしょう。
ゼラチン
クリスタリウムの素材屋に売っている。
みんな素材屋の位置知ってる?ショップの中でも端っこにあってわかりづらいんじゃけど。