ある「元」光の戦士の6.03その13 よく晴れた日に見上げるクリスタルタワーは壮観だ。クリスタリウムでは雨や霧の頻度も高く、タワーの頂上が覆い隠されていることも多い。
生まれた時からそこにあるタワーに、ライナが思いを馳せていた時。星見の間の扉が開いてエンジン音が轟いた。
音の主たるバイクは運転手のドランを乗せて勢いよく階段を下りてくる。
「やっほーライナ!元気だった?」
階段のふもとに立っていたライナの脇を通り過ぎて、横に滑るようにして停止したバイクの上から運転手が声を掛けてくる。
「フィーネさん」
ライナは運転手の名を呼んだ。運転手の頭には彼女の『美しい枝』フェオ=ウルが掴まっている。
「はいよ」
「クリスタリウムの街中でのバイクの運転は禁止されたはずです」
「荷物が重くて」
「言い訳は聞きません。逮捕です」
「えっ」
「若木が前科持ちになってしまったのだわ」
フィーネが眉をひそめたのと裏腹に、フェオは楽しげに笑った。
「帰ってきた直後に何やってるんだい」
エルフの女性、カットリスが呆れたように首を振る。
座って待っていたフィーネと、その頭の上に座るフェオが声に反応し、同時に振り向く。
ぽりぽりぽり。バリスティクス造兵館に軽快な音が鳴り響く。
「あんたたち何食べてるんだい」
「おやつ」
むしゃむしゃ口を動かしながらフィーネが答え、その手に持った包みを広げて見せる。
「プレッツェル。食べる?」
カットリスは差し出された焼き菓子をひとつつまむ。
「美味しいでしょう?」
「うん、美味い。うちでも作るか」
食べ終えたカットリスはもう一つプレッツェルをほお張る。
「そう言うと思って材料たっぷり仕入れておいたよ。じゃあ、いこっか」
立ち上がったフィーネを制すように、側にいたガルジェント男性が慌てて前に出た。
「おいおい、姉ちゃんは一応衛兵団に捕らえられた身なんだぜ。勝手に帰っちゃ困るよ」
いつもは造兵館で魔装砲の整備をしているロサードだ。ライナに叱られたフィーネとフェオの身柄を一時預かっていたのである。
「おっとそうだった。あんたたちが帰ってきてすぐに衛兵団に捕まったから身柄を引き取りに来てほしいって連絡があって。はあ、今度は何をしたんだい?」
ため息をつくカットリスに事の顛末を話すフィーネ。
「うちで作ったバイクに乗って、全速力で星見の間から出てきた……」
頭を抱えるカットリス、プレッツェルの最後の一つをつまむフィーネ。そのプレッツェルを横取りして噛みつくフェオ。
「えと、罰金?」
カットリスがロサードに確認する。
「罰金九万八千ギルだな」
書類を確認しながら告げるロサードにフィーネが目を丸くする。
「たっか」
「あんたのせいなんだよな」
一層深い溜め息をつくカットリスに、ロサードが続けて告げる。
「それか奉仕活動一ヶ月だそうだ。どっちが良い?」
軽めの罰で済みそうだ。ライナに「逮捕」と言われたので牢にでも入れられたらどう脱獄しようか悩んでいたフィーネはほっと胸をなでおろす。
「んじゃ奉仕活動で。一ヶ月は長いけど……」
「よし、じゃあ毎朝日の出とともにクリスタリウム全域を掃除してくれ」
「え?」
ロサードに告げられた予想以上の重労働な内容に、またしてもフィーネは目を丸くする。
「カットリス……なんとかなりませんか」
救いを求める目をカットリスに向けるが、冷ややかな目で返される。
「なんともならん」
「そこをなんとか……クリスタリウム全域なんて掃除していたら職人の仕事する時間なくなっちゃうよ」
カットリスがあごをなでる。
「そう言われてもね。罰金をうちから出すわけにも……ん?奉仕活動より職人の仕事の方が良いんだな?」
え、と困惑の声をもらすフィーネをよそに、カットリスは現金一括払いでフィーネの罰金を立て替えたのだった。