ある「元」光の戦士の6.02その5「きのこばかりで飽きないのかしら」
シャレンテールにギルバン。黒衣森で採集したきのこが、テーブルの上の皿にこれでもかと盛り付けられている。
バターで焼き、鶏肉と合わせて炒めるなどしているが、結局のところ皿の上は大半がきのこなのである。
「そろそろ食べきらないとまずいかなって」
調理したのはもちろんフィーネだ。
「大丈夫なの傷んでいないか心配なのだわ」
フェオはテーブルの上にうつ伏せになり、両手でほおづえをついて皿を眺めている。
「凍らせておいたから大丈夫だよ。たぶん」
食料保存にも便利、アイスシャードの出番だ。
「たぶん……」
「凍らせれば一ヶ月は保つってミューヌさんが言ってたから」
「ふうん」
ひたすらきのこを平らげていくフィーネを眺めながら、フェオもひとつかみ、きのこを食べる。
「そのミューヌって人、若木のお友だち」
一瞬、きのこをつかんだ箸が止まる。
「そうだよ。たぶん……」
きのこの保存法の時よりも、かなり自信なさげな「たぶん」だ。
「あなたが自信をもって友だちだって言い切れば相手も友だちになってくれるはずだわ」
「フェオちゃんって容赦ないよねえ」
本音を言ってくれる友人がいるのは、悪い気がしないが。
「その奇妙な食器もそのお友だちのおすすめなのかしら」
むしゃむしゃときのこをかじるフェオ=ウルは、フィーネの手を指さしている。
「これはMy箸だよ」
「My……え」
今度はフェオの食べる手が止まった。
「箸っていう食器で、私の地元ではよく使う食器だよ。旅している時も持ち歩いてるよ」
箸を開いたり閉じたりしてみせる。
「食べづらそう」
「慣れるとこの二本でどんな料理も食べられるんだけどねえ」
ひょい、と鶏肉をつかんでみせる。
「ちょっと若木、鶏肉ばかり食べないで。私の分がなくなるのだわ」
「きのこも食べてるよぉ」
もぐもぐしながら主張する。これだけきのこを食べればしばらくお腹の調子には困らなさそうだ。
「だいたいね」
フェオは口いっぱいにきのこを頬張りながら怒り始める。
食べづらそうに見えたので、フィーネはフォークを手渡した。
「きのこばかりじゃなくて、野菜もたべないとだめよ」
きみは私のかーちゃんかと言うのは我慢した。
「でもきのこも食物繊維が」
「栄養が偏るのだわっ」
「野菜が手に入らないんだもん」
クリスタリウムの畑や地下で栽培している野菜があるにはあるが、あまり市場に出回っていないのである。
出回っていたとしても希少なのか高額で、今のフィーネの収入だとなかなか手がでないのが本音だ。
「健康には変えられないと思うのだわ」
それにしても、彼女がそんなに健康を気遣ってくれるとは思わなかった。その気持に応えたい想いはある。
「あのね」
「なあに」
きのこの山が半分ほど片づいていた。
「明日からミーン工芸館の仕事を引き受けることにしたから」
「うん」
フェオも黙々ときのこの山を崩している。
「その報酬が入ったら、野菜食べよ」
「ふぃふぁふぁふぁっっっふぁふぇ、ふぉふぁふぃふぇっっっふぁふぉっふぉ」
「うんうん」
フォークを受け取り、一度に大量のきのこを口に詰めたフェオに、フィーネがうなずく。
「わかってないでしょう」
飲み込んだフェオが抗議した。
「『しかたないわね、それで許してあげるのだわ』でしょう」
フィーネが彼女の言葉を代弁する。
「なんでわかったの」
「『美しい枝』のことはお見通しだからさ」
おどろくフェオに、にやりと笑ってみせた。
「若木が生意気なのだわ」
不服そうであるが、こういう時は照れ隠しなのはもうわかっている。
遂にきのこの山が片づいた。
「飽きないのか、って言ってた割りには自分でも食べていたじゃない」
おなかいっぱいになり、やや眠い目をこすりながらフィーネは相棒のピクシーに声をかける。
「ひとりじゃ大変そうだから手伝ってあげただけよ」
彼女はフィーネのベッドの真ん中に寝転がり、眠たそうな声を出している。
「寝てても良いよ」
「お風呂入るんでしょう待ってるのだわ~~~」
最近は一緒に眠る日も多い。彼女なりに心を許してくれているのかもしれない。
「そうだ、フェオちゃん」
着替えを用意しながら呼びかける。
「なーに」
「明日はラケティカに行くよ。採集のリーヴなんだ」
「ふぁふぁったのだわ~」
これは上がってきたら寝ているな。
温かいお湯に身体を沈める。
最近はフェオとずっといるのでにぎやかだ。ひとり静かに過ごすのは好きだけど、側に誰かいてくれるのも良いものだ。
フィーネは湯船で疲れをとりながら幸せを噛みしめた。