ある「元」光の戦士の6.02その6「ラリホップ体操だいいち~」
半開きのまぶたが閉じないように必死に眠気をこらえながら、かすれた声を絞り出す。
普段から寝起きが悪いフィーネはその朝、特にすっきり起きられずにいた。
こうなったら目を覚ます奥の手を使うしかない。
「左右にらり……ほ~してわきをのばすうんどう……」
右にらりほー、左にらりほー。ドワーフに教わったダンスをして目を覚まそうとする。
腕を伸ばしたまま動きが止まる。
「ほら若木、早く目を覚まさないと仕事に遅れてしまうわ」
昨夜、先に寝ついたフェオは反対に元気いっぱいである。
「むーーーり今日ふぃーねさん無理でーすねまーすさぼりたいでーす」
「眠いのなら、眠るとよいのだわ!」
「フェオちゃーん?それだと寝坊になっちゃう」
「寝坊してあわてるヒトを見るのも悪くないのだわ」
ピクシーである彼女は気にも止めていないようだ。
「両手を左右にひらいて……足を伸ばすうんどう……」
身体能力の高いフィーネだが、こうも眠くては足取りが重い。足も全然伸びていない。
「さいごに……膝をたたんで……片足で跳ねるうんどう……」
片足でしゃがみこんだ瞬間、彼女の身体が大きく傾く。が、その体勢のまま倒れない。そしてその後微動だにしなかった。
「つかれているのかしら」
しばらくその様子をみていたフェオは、フィーネが眠っていることに気づく。
まぶたをひっぱっても、鼻をつまんでも、あごの鱗をなでても目覚めない。
「フェオ……」
「なあに」
「ありがと……」
「なにがかしら?」
「んぐぅ」
寝言だったようだ。
眠っていても自身の名前を呼ぶ『かわいい若木』の身体を、『美しい枝』はやれやれと首をふりつつも魔法を使って浮かせ椅子に座らせる。
朝食にバゲットが用意されていたはずだ。昨晩閉店間際の料理店で、フィーネが店主に頼み込んで七割引きにして購入したものだ。闇の戦士がそんなに金欠なのかと店主が気の毒そうな顔をしていた……。
フェオは食卓を整えると、皿を出してバゲットを切り分ける。
彼女なりのフィーネへの労りだった。
朝の支度をやってもらい二度寝ができたフィーネだが、その後フェオに起こされても一向に起きる気配がなく、最終的には背中に氷を突っ込まれて叩き起こされることとなった。