黒本丸対策室源清麿担当の水心子くんと保護された清麿くんの話｢す、い、し、ん、し｣

黒本丸対策室源清麿担当水心子正秀の朝は自身の親友である清麿にハグされることから始まる。自身の親友と言っても同じ政府の個体ではなく黒本丸から保護した個体だ。黒本丸の源清麿は十人十色だ。荒んだ者から色気が凄まじいものまで。色気が凄まじい個体はそれはもう大変だった。わざと振りまくならまだしも全くの無自覚で色気を振りまくものだから手に負えない。でもその色気のある個体も水心子の前では無力だった。それが清麿担当たる水心子の所以だ。

｢水心子、おはよう。昨日ぶりだね。会いたかったよ｣

先日保護した清麿はなんというかつい最近までは手負いの猫だったはずが今では水心子にとても懐いている。懐いてくれるのは水心子としても嬉しいがどうにもこの清麿は距離が近いように思う。気づけばすぐそばにいることが多い。水心子の仕事は保護した清麿の心のケアが主だ。当初は戸惑いがあったが慣れた今では対処の方法もわかってきたがこの清麿はどうにも慣れなくて。

｢水心子、僕のこと嫌い？｣

｢清麿？｣

｢僕は水心子のこと好きだよ。だから水心子にも僕のこと好きになって欲しいな｣

保護された清麿は毎日一回水心子に告白する。このやり取りはすでに水心子のいる部署ではこの清麿が来てからは日常茶飯事と化していた。保護された清麿はいわゆる天然タラシと言われる個体で気づけば対策室では愛される存在になっていた。

以前審神者との恋愛について彼と話したら｢どうしてダメなの？｣と言われたくらいだ。人と神では生きる時間は違うし、一緒に入れるのはほんの一瞬だと言った水心子に清麿は笑顔でこういった。

｢ほんの一瞬でも二人が幸せならそれで僕はいいと思うよ。確かに別れは避けられないけど想いは残るから。｣

そうかと思った矢先清麿に押し倒されて｢だから僕のこと好きになってよ｣と言われたのは言うまでもないが。彼が来てから水心子は心穏やかではない。気づけば保護された清麿が来てから半年が経っていた。

｢おい、お前、あいつどうするつもりだ？｣

｢どうとは？｣

仕事が一段落し、休憩所に行けば同じ部署の肥前が水心子に話しかける。肥前は水心子より少し前にこの部署に来ていて疑いのある本丸を調査し摘発する任務についていてなかなかこちらにいることは無いのだが任務がなければ水心子同様こちらに常駐している。

肥前は水心子の反応に頭を搔くと彼の知らない事実を水心子に告げる。

｢あの源清麿、お前と一緒じゃなきゃ新しい本丸に行かないって駄々こねてるんだよ。お前知らなかったのか？｣

｢知らないも何も初耳だ！てっきり受け入れ先がないか私のケアが行き届いてないのかと｣

｢あんたのケアは問題ない。それは俺が保証する。新しい受け入れ先だってとっくの昔に決まってるんだ。なのにあいつはお前と一緒じゃなきゃ嫌だって言ってるんだよ。理由わかるか？｣

｢すまない、心当たりがない。｣

水心子の言葉に肥前は大きくため息をつく。この様子では執着されてることに水心子は気づいてないだろう。あの源清麿は曲者だ。何せ自らのデータを改ざんしたのだから。彼にいる本丸を摘発したのは肥前だ。摘発した時彼の周りには審神者によって折られた仲間とそして事切れた審神者の亡骸がそこにあった。肥前に気づいた清麿はうつろな眼差しを肥前に言った。

『ねえ、僕の水心子どこにいるか知ってる？ずっと探してるのに見つからないんだ。僕ね、待ってるって約束したんだ。ちゃんと戻ってくるって約束したのに…』

その時清麿が持っていたのは探している水心子正秀だった刀の欠片だった。水心子は知らない。清麿が求める水心子は同じ本丸で過ごした水心子であることに。そして同位体である彼を同じ本丸で過ごした自分の水心子正秀を重ねてみていることに。