飼い猫に手を噛まれました(冬彰)「彰人、ダメか?」
目の前にはしゅんとした飼い猫。後ろには壁。俺の逃げ道はあるようでないもんだ。飼い猫、冬弥は繁華街でタチの悪いやつに絡まれてるところを拾った。本人曰く「一晩5万で買ってやる」と言われたらしい。一緒に暮らし始めてから知ったがこいつは人を疑うことを知らない。あの時も俺が止めに入らなければどうなってたことか。
それはさておき今俺がこいつに壁ドンされてる理由は俺の膝に乗りたいというおねだりだ。冬弥は俺よりでかい。普通のそこらにいる猫ならともかく冬弥を膝に乗せるのは無理があるというかなんというか。見た目は人間なのに仕草はどこか猫っぽいと言うか猫なんだよな。元々の顔がいいのもあってそういうのも絵になるわけで。前のとこではさせてくれなかったらしく、俺はこいつを甘やかした。その結果がこれだ。
「ほんの少しでいいんだ。彰人の膝を独占したい」
「お前、猫だけど人間だよな!」
「あぁ。」
「確認だけど普通の猫のように膝に乗せるのは無理だぞ」
「わかってるぞ、だから」
そう言って冬弥は止めるまもなく俺の膝に向かい合わせで乗ってきた。ゼロ距離。乗りたいってこういうことかって違う。野郎同士でこの距離はねえだろ!と思ってた矢先の事だった。首筋を舐められたのは。
「ひゃっ、おま、何…」
「何ってスキンシップだが。人間はスキンシップが好きだと、あとはマーキングだ」
マーキング、あれか、自分のものだっていう。いやいやちょっと待て。告白も何もされてないうちにマーキングって。俺はなおも行為を続けようとする冬弥を押え言った。
「冬弥、お前の気持ちはよーくわかったが、順番守れ。順番!!」
そんな俺に冬弥から返ってきた言葉は俺の首をさらに締めるものだった
「彰人、忘れたのか。俺を拾った日に彰人が言ったんだ。ちゃんと最後まで面倒見てやるから一緒にいようなって」
後日これを知り合いの猫飼いに相談したところ知り合いの猫に言われた。
「僕達は執着する生き物だからね。だからもう君は逃げられないよ。大丈夫。逃げようとしなければこちらは何もしないから」