野良猫冬弥くんが彰人くんと一緒に暮らしてる話最近同居人が好奇心旺盛で困る。俺がそいつを拾ったのは一ヶ月前。バイトの帰りに聞こえた小さな鳴き声が近くで聞こえたのがきっかけだ。子猫が親猫とはぐれたのかと思いきや、そいつは子猫じゃなくてでっかいなりをした猫耳と猫しっぽ以外はまるっきり普通の人間だった。
そいつ、冬弥と暮らし始めてから一ヶ月が経って俺も冬弥も互いに慣れてきたのか気づけば素を見せるようになってきたまではまだ良かった。冬弥も最初は慣れない環境で俺がバイトから帰ってくるまでご飯も食べず玄関で待ってたりしたからな。後これは後で気づいたことだが野良にしては冬弥は品がいい。気づけば色んな人の間を転々としてたらしい。
「彰人、聞きたいことがある」
「なんだ?」
「歌を教えて欲しい」
歌…。そういや最近歌番組見てたよな。でもこいつがこんなに興味示すことって今まであったか。暮らし始めてから今までの冬弥を遡る。
最初の興味はコーヒーだったかな。前の飼い主が好きで飲んでたのを見て好きになったみたいで、朝起きてからコーヒーを飲むのが日課になったな。暇つぶしにゲーセン連れていったらクレーンゲームに興味があって気づいたらクレーンゲームのぬいぐるみがすっからかんなんてこともあったっけか。こいつゲーム関係めちゃめちゃ強いんだよな。俺は今だこいつに黒星続きだ。そうだ、こいつ、好奇心の塊だったことを俺は今更ながら思い出した。
歌を教えるのはいいが、それは俺の未練でもある。あの人みたいになりたいと思ってむちゃくちゃやった結果俺の喉はボロボロになった。普通に喋ることは支障はないが、歌うことは出来なくなったようなもんで。
「彰人?」
「歌を教えて欲しいのはわかった。それでどうしたいんだ?」
「彰人に聞いて欲しい。」
「…プロになりたいとかそう言うのじゃないのか?」
「プロ?は分からないが、俺は彰人に笑って欲しいんだ。」
笑う。いつも笑ってるだろうが。なんで、どうしてと悔しさにくちごもれば、冬弥は俺にすり寄って言う。
「彰人が好きだから彰人の笑顔が見たい」