政府時代の話。センチネルの清麿くんと無痛症の水心子君の話「君、大丈夫?」
「なんの事だ?」
「腕、もげてるよ。痛くないの?」
「あ…」
これが僕源清麿と水心子正秀の出会いだった。僕らは廃棄された世界の調査員として時の政府に顕現された。これはその時の話。お互い僕らがまだ人の身に慣れず親友ですらなかった僕と彼の昔話。
「水心子は痛覚ないの?」
「なんだ、それは?」
医務室スタッフに手入れをされながら水心子は答える。人の身になると五感を得ることが出来る。視覚、聴覚、触覚、味覚、そして痛覚。でも彼は痛みを感じてないようで。僕が発見した時彼は片腕がないにもかかわらず平然と立っていた。大体の刀剣はその感覚に驚くらしい。無理もないと思う。だってそれは刀の時にはないものだから。
「はい、終わり」
「これで元通りだな!訓練に戻ってもいいか?」
「え、怪我したばかりなのに?」
「何か問題でも?」
手入れをすれば直ぐに治る。それはそうなんだけど痛みは辛くて苦しいから。たとえ痛みを感じない体とはいえ見てるこっちは痛くなる。出会ってまだ間もないけどどこか彼は危なっかしくて見ていられなかった。
僕らには特命調査の訓練以外にもやることがある。廃棄された世界を開けるにはまだ時間がかかるらしいということで僕と水心子には黒本丸の摘発が任された。黒本丸の摘発は何も初めてじゃないけど水心子は知らない。これは僕の能力を使う仕事だ。僕には刀剣男士としての能力以外にセンチネルという能力を持っている。その能力は人によって違うけれど五感が鋭くなるもので。僕の場合はそれが聴力だった。この能力が発覚したのは本丸の監査を手伝った時だった。
小さな泣き声が耳にまとわりついて消えなくて僕はゾーンに陥った。
「坊主!?」
「子供の泣き声…ずっと泣いてる。」
それが僕が能力を知った時だった。僕の言葉を聞いた監査官は本丸をくまなく調べ奥の座敷で折れた刀にひたすら謝る短刀を発見した。それ以来僕は黒本丸摘発時には同行させられている。監査官曰くこの能力は人を救うことができるらしい。常人には聞こえないものが聞こえる。それがいいことなのか悪いことなのかまだ僕には分からない。
それからしばらくして僕らは黒本丸に向かった。水心子はこの時初めて痛みを知ることになる。悲しみという痛みを。