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    5ma2tgcf

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    晏沈の転生もの8話目です。

    夜の帝王の記憶なし晏無師×記憶あり沈嶠で、晏無師の記憶を戻そうと沈嶠ががんばる話です🌃

    今回は闘魚とすれ違い編です。

    転生晏沈 8 胸がざわつく。
     妙な夢を見た後、晏無師は眠ることができなかった。目を閉じる度に沈嶠の顔が瞼にちらついて仕方がない。昨夜桑景行に売り飛ばした沈嶠は、今頃奴に抱かれているのだろうか。晏無師の頭の中に、夢の中で見た乱れた沈嶠の顔が浮かぶ。あの表情を桑景行が見ているのかと思うと腹の中が煮えるような感覚に襲われる。

     不可解な感情を持て余した晏無師は苛立ち、必然としばらく吸っていなかった煙草に手を伸ばす。沈嶠がいない今、止める者もいない。摘み上げた煙草を肺一杯に深く吸い込み、余計なことを考えないよう身体中を煙で満たそうとする。しかし焦燥はおさまらない。小さく燻るような赤い火が灯る煙草の先端。灰皿の上には吸殻が積もり、時間だけが過ぎていった。晏無師は長い指で灰を弾き、艶のある髪を気だるく掻き上げる。窓の外はすっかり明るくなっていたが、まだちらちらと雪が舞っていた。風に翻弄され、熱が加えられれば儚く溶けてしまう雪。また沈嶠の顔が浮かびそうになり晏無師は煙草を揉み消した。

     何をしても沈嶠の顔ばかり浮かぶ。しかし焦燥感の正体は分からない。
      
     ガチャリ

     玄関の扉を開く小さな音が無音の室内に響き、晏無師は新しい煙草を口に運ぼうとしていた動きを止めた。セキュリティの高いこのマンションに簡単に空き巣が入ることはないだろう。鍵を渡している人物は一人だけだ。とはいえ、昨夜のことがあって、もう帰って来ることはないだろうと思っていたのに。しかし廊下を歩く足音には聞き覚えがある。晏無師はリビングの扉を開ける人物を期待を込めて待った。
     リビングの扉がゆっくりと開くと、扉を見つめていた晏無師と沈嶠の視線がぶつかる。沈嶠はスッと目を逸らした。
     
    「……ただいま帰りました」
     今にも倒れそうなほど疲れたその顔は蒼白だ。晏無師は沈嶠の顔から視線を下に移動させる。昨日一緒に出掛けた時の服装のままだが、ボタンもついたままで乱れた様子はない。髪と肩にはうっすらと雪が積もり、買い物をしてきたのか、手には食材が入った袋を持っている。
     服を奪い監禁し、声も出なくなるまで抱き潰すというのが桑景行のいつものやり口と聞いたが、どうやって逃げ出してきたのだろうか。色々な疑問が頭をよぎるが、晏無師は沈嶠が自分の元へ帰ってきたことに高揚していた。しかし表面上は何でもないふりをして煙草を吸い、ふうっと煙を吐き出す。

    「なんだ、もう桑景行に飽きられたのか?」
    「……ええ、そんなところです」
     沈嶠は無表情で答える。晏無師は沈嶠の変化を少しも見逃さないよう、目を離さずに聞いた。
    「私に捨てられたのに、なぜ戻って来た?」
    「『愛していると言うのなら、戻ってきてみろ』と言ったのはあなたじゃないですか」
    「確かに言ったな。まあ、戻って来るとは思わなかったが」 
    「それに、怪我が治るまでは私が責任を持ってあなたのお世話をすると約束したので……もう何か食べましたか? まだならすぐに作ります。あなたは毎日お酒を飲むので肝臓にいい物を、と思ってアサリを買ってきました。貝は好きでしたよね? 白身魚と野菜と一緒に簡単に蒸して……」
     食材を持ってフラフラとキッチンへ向かおうとした沈嶠を晏無師は呼び止めた。

    「私の王子は随分と律儀で健気だな。だが二枚貝は好かん。いいからこっちに来て座れ」

     沈嶠は黙ってソファに近づくと、晏無師から少し離れた所に腰を掛けた。晏無師は煙草の火を灰皿に押し付ける。沈嶠は灰皿に積もった煙草の山を見て小さなため息を吐いた。

    「煙草はやめてくれたかと思ったのに……私がいなくなった途端にまた吸い始めたんですね」
    「お前がいなかったんだから仕方がないだろう」
     晏無師は冗談のような軽い口調で言って、肩を竦める。お前のことを考えたら胸がざわつき焦燥感に耐えきれなかったせいだ、などと言うつもりはなかった。
    「あなたにとっては禁煙も禁欲も大したことではないんでしょう? 全部、私を騙していたということですね」
     目を伏せて肩を落とす沈嶠の言葉に晏無師は答えなかった。代わりに自分が質問をする。

    「で? 桑景行はどうだった? あいつはよかったのか?」
    「……」
     晏無師が揶揄うような口調で尋ねる。沈嶠は膝に乗せた手を握り締め、俯いていた。
    「どうした?」
    「……」
     答えない沈嶠に晏無師はしつこく尋ね続ける。

    「品がないし趣味も悪い奴だが、持続力としつこさは他に類をみないと聞いているぞ。お前は満足できたのか? それともあいつじゃ物足りなかったのか?」 
    「良かったとでも言えば満足ですか!?」
     沈嶠はキッと睨みつけ、声を荒げた。
    「私が何を言った所であなたは信じないでしょう? 人は自分に都合のいいことや信じたいことしか信じません! だから何も言いません!」
     目を潤ませて怒りをあらわにする沈嶠に晏無師は眉を上げ、宥めるような口調に変わる。

    「まあまあ、そう怒るな。桑景行に抱き潰されて動けなくなっているんじゃないかとずっと心配していたんだぞ。お前が無事のようで安心した」
     自分が置いてきたくせにそんなことを言うのか、と沈嶠の目に険しさが増す。あまりの身勝手さに悔しさと怒りと悲しみ、様々な感情が込み上げる。しかし、晏無師は睨みつけてくる沈嶠を見ているともっと手ひどく痛めつけて泣かせたくなってしまう。喋らない沈嶠をいいことに、挑発するように晏無師は続けた。

    「あの店の奴らは節操がないからな。従業員同士や複数人で楽しむこともあると聞いたぞ。白茸も一緒だったのか? 清廉な阿嶠は一晩で男の味も女の味も覚えたのか?」
     口元に笑みさえ浮かべ、自分の反応を楽しんでいる様子の晏無師に、沈嶠は唇を噛みしめた。晏無師はその唇に手を伸ばす。
    「あまり噛むな。せっかくの美しい唇なんだ」

     その触れ方はあまりにも優しくて、まるで恋人のようだった。しかし、実際は違う。沈嶠は自分の唇に触れている晏無師の手を払った。こんなに優しく触れてきても晏無師の気持ちはわからない。こちらの気持ちも伝わらない。触れた手から気持ちが伝わればどんなにいいか。

    「……あなたは私が戻らないと思っていたんでしょう? でも愛しているから戻ってきました。報われることがなくとも、私は心を尽くします。愛が存在するということをあなたに知ってほしいから。……でも、あなたに腹を立てているので口はききたくありません」

     潤んだ瞳を見られまいと沈嶠はふい、と首を逸らした。晏無師の目には沈嶠の白く細いうなじが晒される。襟元からのぞく肌は殊更に白さが強調されて、鮮やかに晏無師の眼を奪う。晏無師は沈嶠の厚みのない身体を無言で見つめた。この服の下には桑景行の痕跡が残っているのだろうか。自分を愛していると言いながら、他の男に抱かれたのだろうか。腹の中にもやもやとした煙が充満し、晏無師は沈嶠の腕を掴むとソファに押し倒しその身体の上にのしかかった。

    「なっ……」
    「お前は警戒心が薄いな。何度同じ目にあってもそんなに無防備にして。だから私に騙されるんだぞ。それとも無理矢理抱かれることに味を占めたのか? 私にも無理矢理抱かれたいか?」
    「やめて下さい!」
    「口をきかないんじゃ身体に聞くしかないだろう」

     晏無師は暴れる沈嶠の両腕を片手で押さえ、服を捲り上げ素早く肌を確認する。胸に触れ、腹筋をなぞり、形のいい臍の窪みに指を忍ばせ、どこにも桑景行の痕跡がないことに安堵のため息を吐く。では背中はどうだろうか。首筋に吸い付き、ぶるりと震えた沈嶠の隙をついてひっくり返して馬乗りになると、次に背中側の服を捲り上げて確認を始めた。幸いなことに背中も真っ白なままだ。ではズボンの下はどうだ?

    「あなたは何をしたいんですか!?」
     急に肌を弄り始めた晏無師に対して沈嶠が叫ぶ。怒りのこもった沈嶠の声に晏無師は肩甲骨を撫でていた手を止めた。

    「阿嶠、お前の中に入りたい」
    「阿嶠と呼ばないで下さい!」
    「なぜだ? 阿嶠と呼ばれるとうれしいんだろう?」
    「私がそう呼ばれるのに弱いと知って面白がっているだけでしょう!?」
    「何が悪い? お前も阿嶠と呼ばれながら抱かれる方がいいだろう?」
    「抱かれません!」
    「桑景行はよくて私はだめなのか?」
    「あなたは……っ! 本当に勝手すぎます!」 

     さすがにもう我慢の限界だった。沈嶠は怒りで震えながら仰向けに戻ろうと藻掻く。顔を見ながら思い切り殴ってやるつもりだった。しかし身体を捩じった視界の隅に水槽が映った瞬間、沈嶠の動きが止まった。

    「え……?」
     自分の目が信じられなくて、瞬きをしてもう一度しっかりと見る。しかしいくら目を凝らして見ても同じだった。闘魚の水槽が二つとも空になっている。沈嶠は晏無師を突き飛ばし、慌てて水槽に駆け寄った。近くで見てもやはり水槽の中は空だ。もしかして飛び出したのか、と水槽の周りを見ても、大きい水槽を見ても白と黒の闘魚はどこにもいない。

    「晏宗主と阿嶠はどうしたんですか!?」
     沈嶠は血相を変えて振り返った。 
    「死んだ」
     晏無師は表情も変えずにそう言い捨て、沈嶠はその場に膝をついた。

    「そんな……別の水槽なのに二匹とも……? どうして……昨日は元気だったのに、病気ですか? 餌も食べていたのに?」
    「知らん。死んだのは白いやつだけだ。夜中に見たら水面に浮いていたから土に埋めてやった。黒いやつはついでに一緒に埋めた」

    「ついでに、一緒に……埋めた……?」

     信じられない言葉に、沈嶠はしばし呆然とした。しかしその唇は怒りでわなわなと震え出す。
    「どうしてそんなひどいことを!? 晏宗主は元気だったんでしょう!? あんなに美しくて堂々としていたのに、なぜ道連れにするようなことをしたんですか!! 阿嶠が早世したとしても、彼には天寿を全うするまで生きていて欲しかった!」

     感情をぶつけてくる沈嶠に対し、晏無師は冷静に言葉を返す。
    「あいつらは伴侶として買ったんだ。一匹だけ残っていても意味がない」
     沈嶠はカッとなって拳を握り締めた。
    「意味がないってどういう意味ですか!? 阿嶠がそれを望んでいたとでも!? 相手を愛しているなら自分がいなくてもずっと生きていて欲しいと思うはずでは!? それにどうしても彼に伴侶が必要だと言うのなら代わりに別の闘魚を飼ったらいいじゃないですか! どうして罪のない命を奪うようなことを……」
    「お前は孤独に生き残るのが幸せだと思うのか!?」

     突然声を荒げた晏無師に、沈嶠は驚いた。晏無師は冷酷で自分勝手だが、いつも飄々として本心が読めない。怒りの感情を前面に出すのはこの三週間で初めてのことだった。沈嶠の唇が動きを止める。

    「伴侶に代わりなどいない」
     晏無師は沈嶠が買ってきたアサリが入っているという袋に視線を送った。
    「……二枚貝は、二つの殻で一つの貝だ。どんなによく似ていても、対となる貝殻としか組み合わせることができない。もし半身を失ったら残された貝はどうやって身を守る? それでもすぐに逝ければ幸せだ。気が遠くなるほどの長い時を半身を求めて傷つき生き永らえる辛さが想像できるか?」
     見つめてくる晏無師の瞳は凍るように冷たく、沈嶠は息を飲む。

    「世界中の海を探しても、代わりなどいない」
     晏無師は呟いた。
    「代わりなどいないんだ」

     沈嶠は晏無師をじっと見つめた。二人とも無言で、動こうとはしなかった。大きな水槽の中では色とりどりの熱帯魚が泳いでいる。しかし部屋の中は静まり返り、時間が止まってしまったかのようだ。
     沈嶠は静かに晏無師の言葉の意図を考える。晏無師は自分のことを覚えてはいない。だが、晏無師すら意識していない心の奥で、何かが暗い影になっていることは確かだった。自惚れでなければ、その影となっているものはきっと……

     『生まれ変わっても絶対にまたお前を追いかける』と言っていたのに、自分を忘れてしまった晏無師。『誰かのためを思って何かしたことは一度もない』と言いながらも沈嶠を庇って自分が怪我を負った晏無師。夫に先立たれた妻に自分を重ね、前世では好きだったはずの雪も二枚貝も嫌いになってしまった晏無師。そういえば自分が逝った日も雪が降っていた。

     沈嶠の頭の中で、いつか白茸が言っていた言葉が蘇る。

    『一つも後悔がない生き方なんてないでしょ。そして後悔があれば今世でやり直したくなる。記憶に縛られるのは嫌だわ。今の人生を楽しみたいもの』

     もしかしたら、晏無師は自分を『まだ思い出していない』のではなく、『意図的に忘れた』のかもしれない。過去の記憶に縛られず、今の人生を生きるために。自分が死んだ後の晏無師がどう生きたのか、沈嶠には知る術もない。だが、約束を破って世を去った自分を許せなかったとすれば? 出会ったことを後悔していたのだとすれば? 自分は晏無師の幸せなど考えず、気持ちを押し付けているだけなのではないだろうか。
     この数週間の言動を思い出す限り、晏無師はきっと心の奥底では自分のことを覚えている。しかし、今世をやり直すためにあえて自分を忘れようとしているのだ。だとすれば、忘れたい記憶を無理に思い出させようとしている自分の存在は、晏無師を苦しめるだけなのかもしれない。

     そう気づいた瞬間、沈嶠の目から静かに涙が溢れ出た。水槽の照明が頬を伝う雫に反射する。顎に溜まった雫がぽた、ぽた、と床に落ちる。しばらく思い詰めた様に俯いていたが、そっと立ち上がった沈嶠はゆっくりと晏無師に近づいた。
     座っている晏無師に腕を伸ばし、強く抱きしめる。自分の濡れた頬を晏無師の頬に押し付ける。

    「晏宗主、あなたを愛しています」

     晏無師は何も言わなかった。背中に回そうと持ち上げられた手も、力なくソファの上に戻る。

    「……でも、あなたは私を思い出さない方がいいのかもしれない。手の怪我も治っているようですし、私がここにいる理由はもうありませんね」
     沈嶠は身体を離し、晏無師の手を取って口づけた。沈嶠がいる間ずっと巻いていた包帯はやはりただの見せかけだったようで、沈嶠が帰って来ると思っていなかった今、晏無師は包帯をしていなかった。

    「昔、あなたに聞かれたことがあります。もしもう一度最初からやり直せるとしたら、どうするか、と」
    「お前は何と答えたんだ?」
    「何と答えたと思いますか?」

     答えない晏無師の唇に沈嶠は自分の唇を軽く押し付ける。 

    「どうか元気でいて下さい……晏宗主」
     
     沈嶠は灰皿の隣に鍵を置くと、リビングの扉から出て行った。
     
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    夜の帝王の記憶なし晏無師×記憶あり沈嶠で、晏無師の記憶を戻そうと沈嶠ががんばる話です🌃

    今回は闘魚とすれ違い編です。
    転生晏沈 8 胸がざわつく。
     妙な夢を見た後、晏無師は眠ることができなかった。目を閉じる度に沈嶠の顔が瞼にちらついて仕方がない。昨夜桑景行に売り飛ばした沈嶠は、今頃奴に抱かれているのだろうか。晏無師の頭の中に、夢の中で見た乱れた沈嶠の顔が浮かぶ。あの表情を桑景行が見ているのかと思うと腹の中が煮えるような感覚に襲われる。

     不可解な感情を持て余した晏無師は苛立ち、必然としばらく吸っていなかった煙草に手を伸ばす。沈嶠がいない今、止める者もいない。摘み上げた煙草を肺一杯に深く吸い込み、余計なことを考えないよう身体中を煙で満たそうとする。しかし焦燥はおさまらない。小さく燻るような赤い火が灯る煙草の先端。灰皿の上には吸殻が積もり、時間だけが過ぎていった。晏無師は長い指で灰を弾き、艶のある髪を気だるく掻き上げる。窓の外はすっかり明るくなっていたが、まだちらちらと雪が舞っていた。風に翻弄され、熱が加えられれば儚く溶けてしまう雪。また沈嶠の顔が浮かびそうになり晏無師は煙草を揉み消した。
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    PROGRESS晏沈の転生もの6話目です。

    夜の帝王の記憶なし晏無師×記憶あり沈嶠で、晏無師の記憶を戻そうと沈嶠ががんばる話です🌃
    今回はホスト編とワクワク同居編のラストです。そこそこ手を出されます。R15くらい。
    転生晏沈 6 晏無師と沈嶠が同居を始めてから三週間。沈嶠は相変わらず夜はホストとして働き、昼は晏無師の世話をするという生活を続けていたが、それは意外にも穏やかで楽しい日々だった。二人の同居は『怪我が治るまで』という理由で晏無師が言い出したものだったので、怪我が治ったら追い出されるのだろうと沈嶠は思っていた。しかし晏無師は『まだ治っていない』『傷が開いた』などと言っては、なかなか沈嶠を手放そうとしない。
     最近の晏無師は出会った当初の冷たい印象とは違い、沈嶠のことをそれほど警戒していない様子だった。沈嶠を揶揄っては面白がり、笑顔を見せたりもする。少しずつだが心を開いてくれている、と沈嶠は感じていた。晏無師を変えることなどできないと思っていたが、晏無師は沈嶠の望み通りあれ以来煙草も吸わなくなった。二人の関係はいい方向に進んでいる。このまま一緒にいたらそのうち記憶が戻るかもしれない。いや、もし戻らなくともこの晏無師と生涯を共にすることができるかもしれない。楽観的かもしれないが、沈嶠はそう思い始めていた。
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    PROGRESS晏沈の転生もの4話目です。

    夜の帝王の記憶なし晏無師×記憶あり沈嶠で、晏無師の記憶を戻そうと沈嶠ががんばる話です🌃
    今回はワクワク同居編です。R15くらい
    転生晏沈 4 タクシーが止まったのは歓楽街から十分ほどの所にあるタワーマンション前だった。晏無師は眠ってしまった沈嶠を起こし、タクシーを降りる。高級ホテルのような豪奢なエントランスを通り、二人を乗せたエレベーターが止まったのは最上階。広い玄関で靴を脱ぎ、廊下を通り抜ければモデルルームのように整った内装のリビングが広がる。大きな窓の向こうにはバルコニー、そして夜景が続いている。 

     沈嶠はぼんやりとした頭のまま晏無師の後ろで部屋を見回していた。リビングには高価そうな絵や置物が飾られている。しかし沈嶠の目を引いたのは壁に設置された水槽だった。大きな水槽が一つ、そして少し離れたところに小型の水槽が二つ。沈嶠は物珍しそうに水槽に近寄り、中の魚を観察した。大きな水槽では色とりどりの熱帯魚が泳いでいる。次に小さな水槽に目を移す。二つの水槽の中には美しい白と黒の魚が一匹ずつ、長いヒレを揺らめかせて泳いでいる。そして不思議なことにその二つの小さな水槽の間には薄い板が置かれ、魚同士は互いが見えないようになっていた。
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