4P 晏無師は沈嶠を抱きかかえると大股で寝室へと向かった。寝台の上に降ろされて慌てて壁際まで後ずさった沈嶠を、上衣を脱ぎながらニヤニヤと見下ろす。
「なぜ逃げる、阿嶠。私が疲れ切るまで相手をしてもらわないと困るぞ」
「疲れきるまでって……何をする気です!?」
「ふん、わかっているくせに聞くのか? 寝台の上ですることと言ったら一つだろう」
晏無師の本体が一歩下がってそう言うと、後からついて来た三人の晏無師が寝台の周りを取り囲んだ。四人の晏無師の視線を浴びて、沈嶠の喉がゴクリと上下する。
「でも、だって……四人もいっぺんに相手をしろと言うんですか!?」
沈嶠は叫んだ。晏無師一人の相手すら満足にできないというのに、四人を相手に一体どうしろというのか。そう言っている間にも他の三人の晏無師が逃がさないとばかりにジリジリと寝台の上へとにじり寄ってくる。壁際で身体を小さく丸めた沈嶠は、自分の上衣の胸元をギュッと握る。狼の群れに追い詰められた小鹿のような沈嶠を楽し気に見ながら、晏無師の本体は寝台の脇にある椅子にどっかりと腰を下ろした。
「なんだ、そんなに怯えて。四人では多いか? じゃあ一人減らしてやる。私の順番が来る前に気を失われても不本意だしな」
晏無師が指を鳴らすと沈嶠の足元にいた晏無師が一人、陽炎のように揺らめき、ふっと姿を消した。
「えっ、消えた……」
「どうだ? 三人ならいいだろう? お前が私本体との区別をつけやすいように、その二人のことは阿晏と謝陵と呼べばいい」
その言葉に沈嶠は目を丸くして絶句する。
「そっ……そんなの悪趣味です!」
「安心しろ、前とは違う。全員私の意識だ」
晏無師はクイ、と顎を上げる。
「阿晏、服を脱がせろ」
手前にいた阿晏と呼ばれた晏無師が従順に頷き、端で丸まっていた沈嶠を引き寄せ寝台の上に押し倒した。
「緊張しないで、阿嶠」
「ちょっと! 待って下さ……」
阿晏の身体を押し返そうともがく沈嶠の頭上に、もう一人の晏無師が回り込む。
「大丈夫だよ、美人哥哥」
「!?」
沈嶠を『美人哥哥』と呼んだ晏無師が、抵抗する沈嶠の腕を掴み顔の脇に固定した。驚いて動きを止めた沈嶠の顔を、反対の向きから静かに覗き込んで来る。これではまるで……まるで……!
沈嶠は慌てて首を横に向け、晏無師の本体に叫ぶ。
「晏無師! 謝陵の真似をするのはやめて下さい! 思い出してしまうでしょう!!」
沈嶠がそう言うと、笑顔で真上から見下ろしていた謝陵が悲しそうに眉を下げた。
「美人哥哥……謝陵のこと忘れてしまった?」
「晏無師! 悪ふざけがすぎます!!」
「また謝陵と呼んで……口づけしたら思い出す? 前はしてくれた」
「やめなさい、やめ……!」
腕を押さえられたまま、頭上から降りて来た謝陵の唇が沈嶠の唇を塞ぐ。いつもとは違う角度で触れてくるいつもと同じ晏無師の唇。しかし、謝陵の口づけは本来の晏無師とは違い、性的な興奮を引き出そうとするものではなく、幼く拙いものだった。柔らかな唇がちゅっちゅっと何度も押し当てては離される。まるで小さな子供が甘えているようで、沈嶠からは次第に抵抗の意思が削がれていった。可愛い動物を愛玩するような、親愛の情を伝えるような……晏無師だけれど晏無師とは違う邪気のない口づけ。沈嶠の身体から力が抜けていく。
いや、騙されてはいけない、これは晏無師だ。晏無師が謝陵の真似をしているだけだ。謝陵はもう消えてしまったのだから、謝陵のわけがない。でも、晏無師の中に残っている謝陵がもう一度現れるという可能性はないのか……? 唇が離れると、二人は互いに見つめ合った。謝陵は澄んだ瞳で沈嶠を覗き込んでいる。沈嶠の頭はだんだんと混乱してくる。
「会いたかった……美人哥哥。ようやく出てこれた。別れも言えなかったから」
「本当に……謝、陵……なのか? ……あッ!」
思わずつぶやいてしまった瞬間、沈嶠の背が弓なりに反った。急に覚えのあるチリリとした刺激が胸の先端から背中へと走ったからだ。沈嶠が視線を下げると阿晏がいつの間にか上衣を脱がせ、胸の蕾をクリクリと指で転がしている。
「何、して……ぁっ……あっ」
沈嶠が最後まで言い切る前に阿晏は指でつまんで尖らせた先端を、じゅっと唇で吸いこんだ。濡れた舌が先端を擽り、胸の先から痺れるような快感が頭と足先まで駆けて行く。身体を重ねるようになってからというもの、晏無師に散々弄られ、沈嶠はこの蕾だけでももう十分に快感を得られるようになってしまっていた。軽く歯を立てられた瞬間、沈嶠は思わず甘い声を上げた。
「気持ちいいの?」
謝陵の無邪気な声が頭上から降ってきて、沈嶠はカッと頬が熱くなり顔を背けた。これは謝陵じゃない。でも自分を慕っていた謝陵にこんな姿を見られているかと思うと恥ずかしくてたまらない。その間にも阿晏がジュッジュッと蕾を舌で扱いて来るので沈嶠は声を出すまいと必死で歯を食いしばった。しかしどんなに声を抑えようとしても身体は言うことをきかない。阿晏の口内で可愛がられた蕾はぷつんと赤く硬く、ますます敏感になっていく。阿晏は満足そうに微笑むと、しつこく舌先で嬲り続けた。一方、弄ってもらえない反対側の蕾が物欲しげに震えている。
それまで沈嶠の火照った顔と潤んだ瞳をじっと見ていた謝陵は、何を思ったのか沈嶠の胸に片手を伸ばした。
「触らせて」
阿晏が吸い付いている蕾とは反対側の蕾を謝陵がキュウと強く捩じる。阿晏が歯を立てる度に沈嶠が反応するので、強い方がいいと思ったらしい。
「ひっ! いっ!!」
強すぎる刺激に沈嶠の腰がガクガクと震えた。沈嶠の反応を見て、しゅんとした謝陵が慌てて指を離す。抓られた突起がジリジリと熱い。しかし痛みが和らぐと快楽を伴うじんとした痺れが広がり、物足りなさが腹の奥に溜まっていく。はあ、はぁ、と短く呼吸を繰り返しながら沈嶠は腿を擦り合わせた。
「くくっ、そう焦るな謝陵。しかし、阿嶠が悶えている所を客観的に見るのも興奮するものだな」
のんびりとそう言って高みの見物をする本体を、沈嶠は潤んだ瞳で睨みつけた。晏無師は心底楽しそうに笑い声を上げる。
「睨むな、阿嶠。まだ何も始まってないぞ。さあ早くお前の身体で我々全員を満足させてくれ」
~続く~