Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    kari

    仮です。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    kari

    ☆quiet follow

    フィヘミ 
    転生後、2人の関係性が変化した瞬間(フィ視点)

    秤は揺らぐ 広い図書館、大勢の文豪達、物珍しい異国の風習、その他諸々の環境の変化にもようやく少しずつ慣れてきた頃、ほとんど同時期に転生してきた男と鉢合わせた。むしろここまで顔を見なかったことの方が不思議だが、答えはすでにはっきりしている。相手が徹底的に自分を避けて暮らしているからだ。
     今もしっかりと目が合ったはずなのに、いっそ清々しいほどに堂々と方向転換して俺から離れて行こうとする。こうもあからさまにされると、いい加減こちらも我慢の限界だ。元々、あいつと違って俺は腹に本心を隠しておくのが好きじゃないしな。
    「アーネスト!」
     呼びかけに足を止め、ことさらゆっくりと振り返る姿が小憎らしい。“俺はまるで何も気にしちゃいないんだぞ”とわざとらしく主張しているつもりだろうか。全く可愛げのない。筋骨隆々で一目見て武闘派とわかる男に、そんなものあるわけないが。
    「ギャツビーのことを、俺と間違えたらしいな」
     ヒクリ、とアーネストの右瞼が痙攣した。この台詞が場に相応しいものではないことを俺は知っていたし、そもそも相応しい場などあり得ない。俺達2人がこの図書館に転生するきっかけとなった潜書において、アーネストが兄弟のことを俺の名で呼んだと後に聞かされた。結果としてその呼び間違いこそがアーネストの人格をも奪おうとしていた“影”の正体を暴くことに繋がった。だがそれは気位の高い偉大な小説家にとっては恥辱に塗れた記憶に直結している。だからこのことに触れるのはいざという時だけにしようと思っていたのだが。どうやらそのいざという時は随分早く訪れてしまったようだ。しかしこれから長いこと暮らしていくつもりの場所で、馴染みの相手と顔を会わせる度に気まずい思いをするなんて想像しただけでもうんざりする。よって今ここでアーネストとの関係に何らかの変化を起こさなければならない。ゆらゆらとどっち付かずの天秤を眺め続けるのは俺の性に合わなかった。と言っても天秤はすでに好意的とは言えない感情の方へとかなり傾いているのだろうな。微かに青ざめた顔色で思い詰めたライムグリーンの瞳を見る限り、俺達の関係が好転する可能性の低さに少々頭が痛くなりそうだ。対峙する男の張りつめた絃にも似た危うい空気を、俺はこっそりと憐れに思う。奴に知られでもしたら、それこそ怒髪天を衝くに違いない。何故俺達はいつもいつもこうなのだろう?コイツを苦しめたいわけではないのに。
    「よく言われるけど、そんなに似てるか?俺とギャツビーは」
     重苦しい雰囲気を多少雑ぜ返しながら、わざと軽薄な声を出す。ひとつ瞬きをしたアーネストが夢から覚めたかのように、俺の顔に焦点を合わせた。その表情が普段とは打って変わってあどけない印象を残し、驚きで咄嗟に息をのんだ。
    「……光が」
     常に堂々とした態度を崩さずに身体のど真ん中から声を出す男とは思えない程、弱弱しい声音に胸がつかえる。
    「閉じ込められた暗闇で人間としての矜持を失っていく絶望のさなか、光が見えた。お前達の白金の輝きだ」
     似ているのはそこだけだったがな、と顔を背けて言い捨てたアーネストはすでにいつもの調子を取り戻しつつあった。しかし俺の方はというと、それどころではない。全身の血が勢いよく駆け巡り、頬どころか指先まで赤く色を変えてしまっている自覚がある。
     光?俺達が?お前の?
     コイツは自分が何を言ったのかわかっているのだろうか?
     暗鬱な世界で消えかけたお前の手を握った時、俺がどれほど嬉しかったか。あの温もりは絶対に忘れられないものだった。例え俺が信じていた友情が偽りだったとしても、再び自らの足で立ち上がった勇ましい文豪をどんなに誇らしく思ったことか。それらの運命の転機が、俺と俺の心を分けた兄弟の姿だと。そんなことを言われたら、転生してきたこの場所でアーネストが頑なに俺を避けた理由に別の仮説を立ててしまっても無理はないんじゃないか?
     お前は死ぬほど嫌がるだろうが、だって、それじゃ、まるで、
     
     
     沈黙が苦手だと公言している人間の無言を不審に感じたのか、眉をひそめてこちらへと向き直る相手が俺の目には今までと一変して色鮮やかに映る。What the heck アーネストの方はどうだかわからないが、俺はすっかり嵌っちまったようだ。
     さて、天秤の傾きが相変わらずだったとしても片方へ乗せる錘の正体は決まった。




    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💖❤💖💗😍💗💖❤💖💕💘💘💘😭😭😭👏🙏💯✨👏☺✨✨✨✨👏👏❤💞💖💖❤💖💗❤💖❤💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    rabimomo

    DOODLEタイトルまんまです
    めちゃくちゃ出来る男な月を書いてみたくてこうなりました
    在宅ワークした日に休憩時間と夜に一気書きしたのでちょっと文章とっ散らかってますので大目に見て下さる方のみ!
    直接の描写はないですが、肉体関係になることには触れてますので、そこもご了承の上でお願いします

    2/12
    ②をアップしてます
    ①エリートリーマン月×大学生鯉「正直に言うと、私はあなたのことが好きです」

     ホテルの最上階にあるバーの、窓の外には色とりどりの光が広がっていた。都会の空には星は見えないが、眠らぬ街に灯された明かりは美しく、輝いている。その美しい夜景を眼下に、オーダーもののスーツを纏いハイブランドのビジネス鞄を携えた男は、目元を染めながらうっそりと囁いた。
     ずっと憧れていた。厳つい見た目とは裏腹に、彼の振る舞いは常にスマートだった。成熟した、上質な男の匂いを常に纏っていた。さぞかし女性にもモテるだろうとは想像に容易く、子供で、しかも男である己など彼の隣に入り込む余地はないだろうと、半ば諦めていた。それでも無邪気な子供を装って、連絡を絶やせずにいた。万に一つも望みはないだろうと知りながら、高校を卒業しやがて飲酒出来る年齢になろうとも、仕事帰りの平日だろうと付き合ってくれる男の優しさに甘えていた。
    4942