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    kari

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    kari

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    7~9月はフィヘミ月間!(今決めました)

    #フィヘミ
    hemi-fihemi

    繰り返し×… だから嫌なのだ。掌に感じる冷たさは氷のようだ。とても人間の頬に触れているとは思えない。見下ろした男の顔は忌々しいほどに整っていて、そのうえ色が失せていた。皮が厚くてガサガサした己の手が決して触れて心地の良いものでないことを理解しながらも、俺は何度も相手の肌を擦り続けた。摩擦でおこる熱などたかが知れている。しかし、俺はやめなかった。
    「……」
     その名を呼ぼうとして踏みとどまる。風船よりも軽い奴の無駄口が返ってこないことがわかっているのに、話す気になどなれなかった。
    「スコットは大丈夫ですよ」
     咎めるような声が空から降ってきたが、その悪趣味さに自然と眉を顰めてしまう。ああ、そうだとも。半身であるお前には手に取るようにわかるのだろうな。実際にスコットと触れ合っているのは俺だというのに皮肉な話だと考えずにはいられないし、その事実をわざわざ突き付けようと言葉にしたギャツビーはおそらく俺と同じかそれ以上に苦々しく顔を歪めていた。よく似た男はおそらくしたことのない負の表情。
    「その物騒な目をやめてください。僕を殺す気ですか?」
    「望むところだ。お互い様だろう?」
     腕の中の存在はいがみ合う俺達の冷たい臍帯だった。
     見渡す限りの白い空間は確かに『グレート・ギャツビー』の世界であるはずだが、俺達の見慣れたNYでも優雅な屋敷でもない。自著に潜書した経験はないが、作者とその世界観の精神的繋がりの深さをこの状況から窺い知る。寒々しい世界の創造主はいつもからは想像もつかない静寂に包まれていた。いつの間にかギャツビーの姿は見えなくなる。
    「愛している」
     凍ってしまったコイツを甦らせるのはいつだって俺の役目だ。手と手を合わせて熱を分け合う。全てに対する怒りは熱量となって、時折立ち止まってしまう互いを奮い立たせるきっかけを与えるだろう。もうずっと俺達はまともなんかじゃない。悪夢に魘され、酒に酔い潰れ、抑えきれずに手足は震え、極めつけは異常さの証拠でもあるかの如く体温が下がり続ける。その度にスコットは諦めたように、俺は怒りに任せてそれぞれを慰めた。そんなか細い支えが今の俺達を繋ぎとめているのだ。
     うっすらと目をあけて覗いた瞳の色は真鍮のコインだ。心躍らせる輝きだとしても、生きるために支払う対価としては全く足りていないらしい。それでも借金まみれの男は笑って冗談を言う。
    「お前が愛を囁いてくれるのはこんな時ばかりだな」
     そのこんな時とやらでも耳当たりの良い声は、ふざけた台詞を輝かしく飾り立てた。気付けば2人で馴染み深い豪奢な屋敷にいて、しばらくすれば先程までとは打って変わって晴れやかな表情でスコットの片割れがやってくるだろう。やっと温度を取り戻し始めたことを確かめるために口付けをするなら、今しかなかった。予想通りの冷たさは何故だかざわついた心を落ち着かせる。
    「安心しろ、アーネスト。次にお前が死にたくなった時は俺が見届けてやるさ」
     氷の指先で頬を撫でながら、死にかけた人間が次の疑似死の約束事を取りつける。俺は唇を吊り上げて笑みを浮かべてしまうのを堪えきれなかった。
     そんな気の利いたことを言うなら、もう一度奴の口を塞ぐのはやめておこうじゃないか。物語の始めに感じた不快感すら意味のあるものに思えてしまう、なんて無意味な関係だろうか!我々ときたら!




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